3.7.罠設置


『ベンツー! ベーンーツー!!』

『ん?』


 ベンツを見つけた瞬間、俺は体に雷を纏い、身体能力強化の魔法で脚力を上げる。

 そしてドンッ! という音を立ててベンツに突っ込んだ。


『ぬおぉお!!?』

『はい! 風魔法!』


 風魔法でベンツの体を掬い上げて、強制的に西へと連行する。

 この魔法はただ風を起こしてベンツを持ち上げているだけなので、特に名前はない。

 子供たちがこれで遊んでくれたらいいなという事で作った、安全な魔法である。

 だが、それに捕まれて運ばれるベンツは、恐怖しかなかった。


『なになになになに!!?』

『ロード爺ちゃんからの指令! 罠張りに行くよー!』

『もうちょっとやり方あるでしょ兄ちゃん!!』


 正直すまんとは思っているが、時間がないのだ。

 出来るだけ早く仕掛けておかなければならない。

 まだ時間はあるとは言っても、こういう罠は早いうちに仕掛けておくのがいいはずだ。


『自分で走るから下ろしてよー!』

『ごめん、魔法解除するの面倒くさいからこのまま連れていく』

『えぇ!?』


 これは俺が子供たちと遊ぶときに使う魔法なのだ。

 何処かで練習しておこうとしていたので、丁度いい。

 ベンツには悪いが、ここは実験台になってもらうとしよう。


 しかしこれ結構安定させるの難しいな。

 浮かび上がらせるのは何とかなるけど、そこから体勢を維持させるっていうのがなかなかできない。

 走りながらしているからかもしれないけどね。


『わああああああ!』

『舌噛むぞ~』

『兄ちゃんのせいでね!』


 ごもっともです。


 暫くそうやって遊んで行くと、とりあえず西に来ることが出来た。

 この辺りは縄張りではないので、地形も全く分からない。

 とりあえずここから、人間が進軍してきそうな場所を探そうと思う。


『よし。ベンツ大丈夫?』

『……ここに来るだけで疲れた』

『ごめんて』


 後でロード爺ちゃん特製の木の実を持って行ってあげるとしよう。

 ついでにお母さん狼にも渡すか。

 うん、それがいい。


『ベンツ。この辺りで歩きやすそうなところがないか探してくれる?』

『いいけど……これして何の意味があるの? 僕の地雷電は持続しないよ?』

『意味はあるよ。敵の数を戦う前から減らせる。ベンツの地雷電には、俺がちょっと手を加えるんだ』


 相手があるいて来そうな道に、罠を設置しておけば勝手に数を減らしてくれるので、戦いが非常に楽になる。

 魔法のある世界なので、一体どのレベルの魔法が使えるかはわからないが、ベンツの地雷電であれば、大体の相手は仕留めることが出来るだろう。


 だがベンツも言った通り、地雷電は余り長続きしない魔法だ。

 それに、一個発動すると他の地雷電も呼応するように発動する為、一回きりの罠となってしまう。

 そこで、俺が少し手を加える。


 まず、地雷電を持続させ続けるために、光魔法で箱を作る。

 その中に地雷電の電撃を蓄えさせるのだ。

 こうすることで地雷電が一個発動しても、他の地雷電が発動することはない。

 この光魔法は結界の様な物で、小さなものであれば仕舞うことが出来る。

 それが空気であれ、魔素であれ、魔法であれ……まぁ何でも入るのだ。


『名付けて! ……な、名付けて……』

『名前ないんだ』

『うっ……』


 そりゃそうですよ。

 ちょっと前に考えた魔法だもん。

 でも名前は決めておきたいよな~……。


 何でも入る光魔法の結界だから…………。

 やっべ何も思いつかないから無限箱でいいや。


『無限箱と名付けたぞ!』

『いいんじゃない?』

『淡泊ぅ……』


 まぁ、大体名前を考えた時の反応なんてこんなものだ。

 知ってました。


 さて、とりあえず歩きやすそうな場所を探しに行かなければならない。

 もしなければ、一日かけて罠を張っていこう。


『じゃ、僕はあっちの方に行ってくるよ』

『わかった。俺は匂いで反対方向の地形を見てみる』


 ベンツはそれを聞いた後、すぐに雷を体に纏って走り出す。

 なんだか先日よりも速くなっている気がするな……。


 では、反対側はベンツに任せるとしよう。

 俺は目を閉じて集中する。

 遠くの匂いを嗅いで地形を頭の中にいれていく。

 この辺りはほとんど開けている場所がないようだ。

 となればもう少し奥はどうだろうか?


 そう思って捜索範囲を広げていくのだが、どうにも匂いだけではわからない。

 草木が地形を把握するのを邪魔している場合もあるため、余り当てにしすぎるのはよくないのだが、それでも今回は普通に開けた場所がないだけのようだ。


 俺は目を開けてベンツの行った方角を見る。

 すると、目の前にベンツがいた。


『うおおおびっくりしたぁ!』

『開けた場所あったよ。それと、走りやすい道もあった』

『そ、そっちだったかぁ……』


 いや早すぎるでしょうよ。

 まぁいいけどね? うん、ちょっとびっくりしただけだしいいけどね?

 なんか仕返しされた気分だ。

 ベンツもベンツでそれを狙っていたのか、なんか得意げ。

 むむむむ。


『じゃ、とりあえず案内してくれる?』

『うん。こっち』


 俺たちは雷を体に纏って移動する。

 ベンツの見つけたという場所は、案外近い場所にあったようで、すぐに到着した。


 山道と呼ぶにふさわしい道が一本伸びており、その道を進んでいけばテントを張ることのできそうな広い空間が見て取れる。

 人間たちは恐らくこの山道を使用してここまで来るだろう。

 後はこの山道に罠を設置していくだけだ。


『よし、ベンツ。この山道と、あの広い空間に罠を設置しよう』

『わかった。まずは兄ちゃんが無限箱を設置するんだよね』

『そうそう。それに、地雷電の電撃を入れてくれ』

『了解』


 この罠で、最低でも人間がこちらに来る時間を長引かせることが出来ればそれでいい。

 あわよくば、数を減らしたい所だが、怪我人を出す程度の方が丁度いいだろう。

 この山道はもう使えなくなるだろうが、俺たちには関係ないので問題ない。


 まず俺が無限箱を地面に設置した。

 白い結界のような箱が、地面から顔を覗かせている。

 それにベンツが手を当てて、地雷電を発動させた。

 すると、無限箱の中に地雷電の電撃が入っていき、閉じ込められる。

 バチバチッと小さな電撃が走るが、それはすぐに収まったようだ。

 すぐに土魔法を使用して無限箱を地面の中に沈める。

 こうしていれば、気が付かれることは無いはずだ。


 それを何十個も仕掛けていく。

 数が多ければ、それに引っ掛かる可能性は上がるからだ。

 そもそも本当にここを通り道にするかはわからない。

 これは発動したらラッキーという風に捉えておくのがよさそうだ。


『つ……疲れた……』

『だ、だな……。こ、この魔法……結構消耗激しいぞ……』

『そうなんだ……僕のも結構消耗する……』


 数個程度であればそんなに問題はないが、流石にニ十個以上になると厳しいようだ。

 この無限箱……案外強力な魔法なのかもしれない。


『よし、でも終わったから……ロード爺ちゃんの所に行こう』

『ふう……どうして?』

『あの木の実食べさせてもらおう』

『行こう!』


 あれは狼全員が好きな物である。

 唯一の甘味だからそれも当たり前かもしれないが。


 それから俺とベンツはすぐに駆け出す。

 美味しい木の実を求めて。

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