1.13.お婆ちゃん狼


 お爺ちゃん狼はロードという名前らしい。

 それを聞いた後、最後にロードお爺ちゃんから魔法を使う時のコツを聞いてみた。

 これはイメージだけではなんともなりそうになかったからだ。


 ロードお爺ちゃん曰く、闇魔法は風魔法と同じようにイメージし、どこに向けて発動させるのかを指定すればいいらしい。

 だが、闇魔法は配置場所をしっかりと把握しておかなければならない様だ。


 それに比べて、土魔法はもっと難しい。

 イメージが難しいらしいのだが、これはどうやら成長前と、成長後のイメージをしっかりと把握しておかなければ上手い事使えない様だ。

 やってみたのだが、ちょっとお花を咲かせるだけで、めちゃくちゃな集中力が必要だった。


 これは確かに難しい……。

 長年、森で暮らしていたロードお爺ちゃんは、その成長の過程を全て記憶しているようで、難なく使えることが出来るようだ。


 俺には無理です……。

 だけど、あの果実を実らせる魔法だけはしっかりと覚えておきたい所だ。

 絶対に役に立つ。


 という事で、教えてもらいたいことは全部教えてもらったので、俺は今お婆ちゃん狼の所へと向かっている。

 お婆ちゃん狼は水の魔法を使えるらしい。

 お爺ちゃん狼と一緒に旅をして、水の補給と果実による恩恵で、ずいぶん助けられたと聞いた。

 水属性魔法は生きていく上で非常に重要なものだ。

 これは絶対に覚えなければならないだろう。


 お婆ちゃん狼は、近くにあった湖の近くで、優雅にくつろいでいた。

 匂いで俺に気が付き、こちらを振り向いた。


「ハウ」

『水魔法教えてー!』


 やはりお婆ちゃん狼の言葉はわからない。

 これはおそらく向こうも同じだろうが、やはり言いたいことは伝わった。


 お婆ちゃんはゆっくりと湖の方を向いて、小さく遠吠えする。

 とても綺麗な声だ。


 すると、湖から狼が出現し始めた。

 それは数百匹にまで上り、水で作られた狼たちが湖を走り回る。


『ふぁ!?』


 水の狼たちは一匹一匹がとても巨大であり、その姿はとても美しく作られていた。

 毛は走るたびに揺れ、水の上を走っているのでバシャシャと水を弾きながら走っていく。


 その狼たちを操っているお婆ちゃん狼は、涼しい顔で湖を見ている。

 この数の狼を動かすことが出来るってどういうことなのだろうか。


 時々水の中に狼が消え、また水から出てくるように走り回る。

 それを見ていると、何かの演舞を見せてもらっているような感じがした。


 一瞬で全部の狼が水の中に消え、一匹の狼が出現する。

 その狼が大きく腕を振るい、湖を叩く。

 すると、湖の真ん中が大きく弾け飛んだ。


『わああああっつ!?』


 狼はすぐにその中央へと走っていき、何かを回収していく。

 キョロキョロと周囲を確認し、もう大丈夫だという事を確認した後、こちらに戻ってきた。

 狼の体の中には、魚が何匹か浮かんでいる。


 お婆ちゃん狼の目の前で、水の狼が崩れ去り、魚だけがそこに残る。


「わふ」

『あ、ありが……とう……』


 お、お、お爺ちゃん……ロードお爺ちゃんよりすげぇ……。

 何……? 水だけでそんなこと出来るの?

 お婆ちゃんいるだけで戦力やばいじゃん。

 あ、魚美味しい。


 実はお婆ちゃん、この群れ最強なんじゃないの……?

 え、まじで?

 ええぇ……。


『……あらぁ?』

『あらぁあ!!? お婆ちゃんも喋ったぁああ!』

『あらら、そんなにはしゃがないの』


 何が喋れるようになるトリガーなのかわかりません。

 お婆ちゃんは群れのリーダーになった事があるのだろうか……。


『何で喋れるようになったの?』

『ん~……そうねぇ……。貴方、私が群れ一番だと思わなかった?』

『いや思うよ……』


 なるほど、これがトリガーだったのか。

 んー……お爺ちゃん狼は、元リーダーだったからという事で喋れるようになって、お婆ちゃんはこの群れ最強だと思ったから喋れるようになった。

 何かを認めることが、喋れるようになる条件なのかもしれない。


 いやでもお婆ちゃんはやばい。

 これはマジでそう思う。

 絶対に敵に回したくないもん。


『“も”ってことは、もしかして、お爺さんとも喋れたのかい?』

『うん。元リーダーだったんだね』

『あの時はね~』

『すごいよね!』

『そうね~』


 なんかすごいお婆ちゃん感すごい。

 いや、お婆ちゃんなんだけども。


 あ、そんなことより。


『さっきの何!?』

『水魔法の水狼すいろうよ。さっきの爆発は水狼を解除したときに起こった物ね』

『解除すると爆発するの?』

『水狼は弱いの。でも、ただで死なないのが水狼よ。水を固めて作るから、解除するときは爆発するの』


 いや恐ろし!

 一匹であれだけの爆発は起きないだろうけど、先ほどまで水上を走っていた狼たちが集まれば、あれくらいはあり得る。


 うん……水魔法強いなぁ!?


『普通の水魔法はこれね』


 お婆ちゃん狼は軽く地面を腕で叩く。

 すると、目の前に水の塊がどこからともなく浮かび上がる。

 水は自由に動き回り、空中で遊ぶ。


『簡単でしょう?』

『これならできそう!』


 そう思い、俺も水属性の魔法を使い、水を出現させてみた。

 それはすぐに浮かび上がり、フヨフヨと空中を舞っている。


『おお、上手いもんだねぇ』

『そう?』

『初めてでここまでできれば十分だよ。次はこれ』


 そう言って、水を分裂させる。

 それは尖った石のような形になり、それが一つの木に向かって飛んでいく。

 水は勢いよく飛んでいき、木の皮を剥がす。

 小さな水だが、とても威力のある弾丸だった。


 俺もそれを見て、銃弾を思い出す。

 銃の玉が飛んでイメージを頭に思い浮かべ、水を分裂させて木に向かって飛ばした。


 ズドン!


 俺が放った水の弾丸は、木を貫通してもう一つ後ろの木に着弾する。

 それを見て、お婆ちゃん狼はやっと表情を崩した。


『あれぇ。すごいねぇ~』

『本当?』

『でも一つの魔法に魔力を籠め過ぎだね。無駄な威力は無駄な魔力消費に繋がるから注意しなさいね』

『あ、そっか……』


 俺の魔力総量がどれだけ多いとはいえ、吸収できる魔力の速度は決まっている。

 相手を倒せるほどの殺傷力を持った魔法であれば、それで十分。

 それ以上の威力は、お婆ちゃん狼の言う通り、無駄な魔力消費となるだろう。


 てういか籠める魔力によって威力って変わるんですね……。

 あのーお婆ちゃん。

 貴方さっきの魔法、どんくらいの魔力放り込んだんですか。

 いやなんですかその顔。

 いや確かに子供かもしれないですけど、そんな優しそうな目で見ないでください。

 貴方も似たようなことしてたじゃん。


『教えてくれてありがとう!』

『ええ。頑張りなさいな』

『はーい!』


 これで大体のことは教えてもらった。

 光魔法は流石に誰も持っていないので、俺一人で勉強するとしよう。

 まぁ……普通の威力がどれくらいなのか分からないのはちょっと困るが、まぁ大丈夫さ!

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