第15話 学園生活の逆転現象





〔大和国際学園第二校舎 二階廊下〕






「おい見ろよ。百目鬼さん相手にイキってたらヒカル先輩にボコボコにされた編入生がいんぞ。あいつよく学校に来れたな」


「あれ、あいつって不登校になったんじゃねぇの? あれ以降、誰も授業に出てるの見たことねぇって一組の奴が言ってたぞ」


「え? 俺が聞いたのは天ヶ瀬先輩のことが好きで、恋人のヒカル先輩に食って掛かったら逆にボコボコにされたって話なんだけど」


「いやいやいや、俺が聞いたのは腹いせに火をつけて停学処分になったって話だぞ?」


「それ俺も聞いた。こないだのボヤ騒ぎの犯人がアイツだって。クラスにあの後戻らなかったのは警察に捕まってたからだって」


「適当だなぁ。でも百目鬼さんをイジめて天ヶ瀬先輩にちょっかい掛けたら、ヒカル先輩にボコボコにされたって部分は大体同じだよな…………でさ」


「ああ、確かあいつに土下座させられてた百目鬼って、確か第二校舎の成績一位で、学年でも一、ニを争うすっげぇ美人だって噂になった子だよな…………だよな?」


「そう、だな。百目鬼の事だ。うちのクラスでも何人か気になってアプローチしてるけど、成績が高いのと真面目すぎて誰もが告白の前段階で撃沈してる。そんな百目鬼が、頭下げてたのは俺も遠くから見た。見てたんだけど…………いやあの」


 そう廊下でたむろっていた男子学生達が、目の前の教室で起きている光景へ視線を送る。


 周囲の人間も何が起こっているのかよく分からず唖然とした表情でそれに釘付けになっている。

 彼らの視線の先には――。


「おはようございます閣下」


 話題になっている学年トップクラスの美貌を持つ、黒髪のクラスメイトが片膝を突き、頭を垂れて両腕を掲げた。


「お出迎えかえが遅れて申し訳ございません。どうぞ、お鞄をこちらへ」


 彼女は王族にでも接するかの如き態度でいる。

 しかし彼女の目の前にいるのは王族どころか、同じ年のクラスメイトである。


 実際、そんな態度を取られた例の編入生である加賀美レンは、鞄を置いてやるでもなく、その姿にただただドン引きし顔を引き攣らせている。


「……なんなの、あれ?」


 廊下でこないだの事件について噂していた男子学生の漏らした声に、見ていた周囲が内心で同調した。















〔レン・グロス・クロイツェン〕






 ――どうしてこうなった。


 ドラゴンことパーチェの召喚が無事に終り、一度学校へと顔を出した結果、朝からドーメズ氏のお孫さんである翠さんが大暴走していた。


 まず朝の挨拶からして常軌を逸している。


 何処の世界に臣下の礼をして、クラスメイトを迎える女子高生がいるのか。


 しかも周りを一切省みてない。

 朝の自由時間かつ、さらに彼女が美人かつ、成績トップと有名である事もあって、かなりの人間から好奇、畏怖、憤怒、困惑と様々な感情の入り混じった視線を送られた。


 しかもそれだけじゃない。


 幾つかの授業中の事だ……。






「……おっと」


 古文の授業を受けている際、俺は教科書を捲ろうとして消しゴムを誤って落としてしまう。

 それだけなら何処にである授業風景である。


 が、その瞬間。


 ――ガタッ!


 そんな音を立てて翠さんが立ち上がるとこちらに歩いてきた。

 そして落ちた消しゴムを拾うと、また膝を突いてその消しゴムを両掌に載せ掲げてくる。


「どうぞ」


『……………………』


 教室が凍り付いた。

 それに耐え切れず、俺も自分の頬が引き攣るのを自覚しながら、その消しゴムを受け取る。


「ど……どうも」


「はい、勿体無きお言葉です」


 そういって彼女は再び立ち上がると、自分の席へ帰っていき何食わぬ顔で授業に戻った。


『……………………』


 とはいえ、そんなものを見せ付けられた教室の空気が元に戻るはずがない。


 恐る恐る言葉を選びながらと言った風に、古文の授業中だった中年女性教諭が尋ねる。


「あ、あの、百目鬼さん? クラスメイトの落とした消しゴムを拾ってあげることは大変に素晴らしい事だと思うわ。思うのだけれど……席が一番遠いあなたが、わざわざ拾いに行く必要はないのではないかしら?」


「いえ、私が行かねばならないと思います」


「――百目鬼さん、もしかしてその、加賀美君からイジメられたりとかして、ない?」


 その質問に翠さんが目を見開く。


「なんて事を仰るのですか! 閣下には恩義こそあれど、そういった仕打ちを受けた事は一度たりともありません。撤回して下さい」


「えっ、あ、そうね。ごめんなさい、私が……悪かったわ?」


 女性教諭もなんで自分が謝っているのか途中から分からなくなっているらしい。けれど彼女も抵抗する。


「でも、その、そもそも彼の消しゴムを拾いに行く事って、本当に百目鬼さんにとっても彼にとっても、必要なのかしら?」


「必要です。私の一族の運命、ひいては日本国の将来へ影響を及ぼす可能性があります」


 ついに女性教諭が眉間を押さえつけてうずくまった。

 俺も同時に頭を抱えて机に突っ伏した。


 その気持ちよく分かるわ。


 その後、女性教諭は俺と翠さんには一言も言及せず疲れきった顔で授業を後にした。








 さらに――。


「ふう…………まぁ全力は出せないわな」


 男女別の体育の授業で、俺が適度な感じでマラソンを終えた時だ。


「どうぞタオルです」


「ああ、ありがとう」


 俺は差し出されたタオルを受け取り、顔を拭く。

 だが気付くとその様子を体育教師含め、走り終わった男子達がガン見していた。


 なんだ?


 そう不思議に思って隣を向く。


「スポーツドリンクもご用意致しました」


 女子がいた。

 今頃体育館でバレーをやっているはずの、体育着姿の少女が見惚れる様な笑顔で、スポーツドリンクを俺に差し出している。


「………………」


 流石に俺も言葉が出ない。そんな俺の沈黙に。


「あっ――大丈夫です。既に毒見を致しております」


 ちげぇよ。

 問題はそこじゃねぇよ。


「どっ、百目鬼! お前、なにやってんだ! 今は体育館でバレーを――」


 これには中年の体育教師も怒鳴るのだが。


「既に勝敗は決しました」


「え?」


「私が立て続けに三十ポイント奪った所で、こちらに行って良いと許可を得ています」


「あ、安藤先生がそういったのか?」


「はい。私一人で全ゲーム終わらせますと言ったら、もう好きにして良いわと言われました」


「………………」


 そう返され誰も何とも言えず。


 それから彼女は何処から借りてきたのか何故かチアガールの格好になり、俺に大声で個人応援やら飲み物やタオルの用意といった、マンツーマンのサポートをし続けた。


 完全に俺の方が晒しものである。

 終いには俺は彼女から逆にイジメを受けているのではないか? という錯覚にすら陥っていた。







 そして分かった事は一つ。

 この子、救いようがないレベルでとんでもない駄目な子だ。


「お願いですから普通にしてください」


 体育後。

 今度は俺が頭を下げた。


「なっ、何をなさっているのですか閣下!」


「それはこっちの台詞です。お願いだから、どうか、普通に、接して、下さい」


 しかし彼女も負けていない。


「おっ、お止め下さい。閣下に頭を下げさせるなど、私は首を吊らねばなりません」


 ねぇよ。


 いやレン・グロス・クロイツェンなら絞首刑となる可能性もあるが今の俺は加賀美レンだ。

 この話、今度はパーチェ召喚の前にちゃんとしたのだ。


「……という事なので学園での俺は加賀美レンという一般生徒、他の方と同じ様に接して下さい」


 そう確かに伝えた。にも関わらずこれである。


「あれほどの存在を従えられる御方に不敬なことは冗談でも許されません」


 ああそうかパーチェか。

 この娘、パーチェを目の前にして恐怖と衝撃で俺の説明吹っ飛んだな。


 確かにクラスメイトに大怪獣を従える奴がいたとして、しかも一家全員がそいつを崇めているとしたら普通に接するのは難しいのかもしれない。

 ある種、恐怖の裏返しか。


「とにかくやめて貰っていいですか? ほら、他の生徒達も困惑してますし」


「いけません。むしろ私だけでなく他の者達にも閣下が如何に偉大なのか知らしめるべきです」


 結局彼女は強く魔言わない限り態度をあらためてくれそうになかった。

 これはドーメズ氏に直接叱って貰おう。







 などと思っていた昼休み。


「お前、マジなんなの?」


 クラスメイトの男子数人に囲まれた。


 翠さんが「サイダーでも飲むか」という俺の呟きに反応して、パシリの如く教室から飛び出した隙の事だ。


 他のクラスメイト達も、蔑んだ感じで俺を見ている。


 普通なら気にもしないが自業自得なので少し辛い。実際、あれはない。もし俺が逆の立場でも同じ事を思う。


「お前さ、ヒカル先輩にボッコボコにされたの忘れたのか?」


 そういって背の高いのが俺の後ろにあるロッカーを前足で蹴る。

 威嚇のつもりらしい。


「それも初恋の相手だっつー、シイナ先輩をヒカル先輩に寝取られてよぉ。惨めったらしくやられたらしいじゃん? なのによく顔を出せたよな。キモいんだよ。視界に入んのやめてくんない?」


「マジで自分の立場ってもんを弁えろって話だよな。またヒカル先輩呼んできて、ボコられたい訳? そうじゃないよなぁ。だったらさ、お前これから俺達の奴隷な、奴隷」


 ……またなんか凄い事を言い始めたな。


 こういう閉塞的な場所だと、こういう暴力を伴わない威嚇でも有効なのか。


「おい……何とか言えよ、女も取られて喧嘩でも負けた負け犬がッ!」


 そう叫んで一人が俺の髪の毛を掴もうとしてくる。


 ――とりあえず学生の戯れなので軽く捌いても問題はないだろう。


「あっ、レンくん!」


 そうカウンター的に拳を放った時だ。

 見た事のあるお嬢様が教室の外で弁当を持って手を振っていた。


 同時に俺の右手が男子生徒一人の頬を殴り飛ばし二、三メートル吹っ飛ばし机ごと巻き込んで転がっていった。


「へぶ――っ!?」


 これでもセーブしたがまだ足りなかったらしい。ただ今の一撃で教室全体と廊下がまた沈黙した。

 その様子に恫喝していた他の男子達も固まる。決してふざけるな! と言って続くヤツはいない。

 ……反撃されたら何もできなくなるなど、いくら何でも情けなさ過ぎやしないか。


「聞いて下さいレンくん!」


 そんな空気などお構い無しに、シイナお嬢様が小走りに駆け寄ってきて俺の手を両手で掴む。


「私、教えて貰った様にやったら、宝石を使ってでしたけど成功したんですっ!」


 顔の美しさと胸部からして本物らしい。


「上手くいったのか」


「はい! やりましたっ。これで私はレンくんの弟子なんですよねっ!」


「……ああ。約束だし構わない」


 実はパーチェを召喚した際に、彼女には一つ提案をしていた。


 ――魔術師になってみる気はあるか?


 彼女の“審眼”は貴重だ。絶対に敵に渡したくないし放置も危険。


 だから彼女は俺の保護下に置いている。ただそれだけでは勿体ない。本人も冒険が望みだと言っていた。

 ならばと思い魔術師になることを提案したのだ。


 二つ返事で了承した彼女に、俺は初心者練習用のやり方を教えておいた。

 蝋燭を使ったもので、蝋燭の火を指先で消す事から、熱量を変化させ、最後は自分の指に移し取るというもの。


 それが一日で成功したらしい。


「折角ですから、お話の続きは一緒にお弁当を食べながらに致しましょう。すみません、こちらの席空いてますか? あ、そうですか。では失礼して」


 俺の返事を聞かずに、シイナが二人の席をあっと言う間に作り上げる。


 一方でクラスメイト達は「……どうなってんだよあれ」「話と違うじゃねぇかよ」「ヒカル先輩はどこいったんだ?」と動揺しているので、俺も無視して席についた。


「あとですね」


 彼女が隣に来て優しく囁く。

 女性特有の甘い匂いと耳を撫でられるかの様な声で俺でも少しくすぐったさを感じた。


「頼まれておりました条件に見合う方も見つけました」


 蕩ける様に囁かれた言葉より、俺はその内容に思わず笑みを浮かべる。


 ――やはり金持ちの事は金持ちに聞くべきだったな。


 そんな事を思っていると、弁当を取り出したシイナが卵焼きを箸で持って……事もあろうに俺に差し出してきた。


「……さ、どうぞセンセイ」


「…………は?」


 シイナは満面の笑みである。

 流石にこれは……というかあまりにも露骨なことをしてくるので思わず上体で距離をとってしまった。


「ひっ、引かないで下さいよっ。こちらにも事情があるんです」


 すると切羽詰まった顔をして小声で言うので、躊躇いはあったが彼女と甘ったるいやり取りをし感想を言うフリをして耳元で尋ねる。


「――何か問題があったのか?」


「あっ――いえ……それがその」


 そこへ――。


「シイナっ! さっきのはどういう事なんだっ。俺と一緒にもう飯は食わない――って」


 ……なるほど。

 満を持してヒカル登場である。


「すみません」


 隣で彼女が申し訳なさそうに縮こまるが、まぁ偽物から本物に代わったせいで問題が起きたと言うことだろう。


「君は、加賀美…………今度はシイナに何をしたんだッ!」


 シイナにちょうど寄り添うようになっていた絵面にヒカルが激高。


「シイナ。今、助けてあげるからな」


 しかも一方的に俺を悪者と宣言し彼が教室に入ってくる。


 ……これって、俺が相手にしなければならないのか?


 周囲を見るとクラスメイト達が勝ち誇った様な顔をしている。


 ――どうするかな。仕込んだ呪詛の事もあるが、逃げるとシイナが少々可哀そうか。


 そう思い立ち上がった時だ。


「お待たせ致しました、閣下!」


 息を切らして翠さんが教室へ飛び込んできた。

 そのせいで、ちょうど目の前にいたヒカルと目が合う。


「君はあの時の美人さんじゃないか」


 顔が少しだらしなくなる。お構いなしだな本当に。


「――えっ。あの、誰ですか?」


 けれど思った以上に辛辣な返しに流石にヒカルの顔もやや引き攣った。そんな彼を無視して翠さんは俺に笑顔を向けて走ってくる。

 ただその手を掴んで引き留める。


「待ってくれっ」


「――なんでしょうか」


「君は忘れてしまったのか! あのクズ野郎にみんなの前で土下座させれた事を」


「土下座? ああ、前の話ですか……あれは私が望んでした事です。あなたには関係ありません――いえ、それより。今、クズ野郎と言ったのは、一体どなたの事ですか?」


 言葉には強い怒気が宿る。しかしやはりヒカルは気付かない。


「大丈夫だ。君が無理やりあのクズに土下座させられていたのを、俺は分かってるからね。だから安心して欲しい。俺が君を――」


 そういって翠さんを引き寄せ、抱き締めようとしたがそれより早く。


「っ! クズはあなたです、女性にいきなり何をするんですか気持ち悪いッ!!」


 罵詈雑言と共に彼女が懐に潜り込み、俺が教えた身体強化で無防備な顎をアッパーで天高く打ち抜いた。


「がぁっ――っ!?!?」


 ワンパンである。

 いくら勇者であっても、鍛えてすらいないのだ。ちゃんと魔力が使える人間の前では凡人と変わらないらしい。


 ただヒカルの存在は既に俺の計画に組み込んである……本当に使い物になるのか不安になってきた。


「私にすら一撃であしらわれる程度にも関わらず、私より数千倍お強い閣下をクズ呼ばわりですか。二度と私と閣下の前に現れないで下さい」


 そう吐き捨てて尻もちをつくヒカルを摘んで教室の外へと放り出した。

 ハーフエルフと勇者の戦いだが魔術の使い方を翠さんには教えていたので、当然の結果だ。


 けれど周囲の人間からすれば最強の男の象徴であるヒカルがあっさりのされたことで騒然となり始めた。


「う、嘘でしょ……」「百目鬼さんがヒカル先輩より強いってどういうこと?」「先輩って無敗じゃかったのかよ!」「これシイナ先輩があの編入生に寝取られたの?」「ど、百目鬼さんの動き全く目で見えなかったんだけど、なに、あれ……」


 野次馬は段々と興奮し周囲に伝播していく。

 俺を潰そうとしていたクラスメイト達も開いた口すら閉じる事もできず、その場に立ち尽していた。

 中には俺と目が合うと泣きそうなのか怨めしそうなのかよく分からない表情で、そそくさと逃げ出すクラスメイトまでいる始末。


 そんな彼らに翠さんが「――閣下の敵は私の敵です。それをお忘れなく」と吐き捨てると、何人かの男子がビクッとしていた。


「すみません、遅くなりました」


 彼らの反応もお構いなしに彼女が満面の笑みで俺へと振り返った。得意げな事もありエルフの耳がピコピコしている。


「お待たせ――え?」


 だが彼女の視線が隣にいるシイナを捕える。


 その時、笑顔から一転、凄い目で見られたがそれもまた一瞬の事。彼女はまた表情を戻しこちらに来た。


「閣下。大変お待たせして申し訳ございません。サイダーになります」


「……ありがとう。ヒカルの事はその、助かった。それに迷惑を掛けたみたいで申し訳ない」


「恐縮です。今後とも閣下に対して降りかかる有象無象は私が排除致します――それとシイナ先輩。先日はどうも。お久しぶりです」


 シイナと翠の視線が交錯する。

 先日とは、パーチェ召喚の日の事だろうか? なぜかこの二人の間に関係が出来ていた。


「お久しぶりです。折角ですから、翠さんもお昼ご一緒しませんか?」


「よろしいでしょうか閣下?」


 嫌な感覚だ。

 妻を相手にしていてたまにある、俺の与り知らぬところで全てが決まっていくのを思い出した。


 ただダメという訳にも行かず俺が頷き、席を引くと彼女は俺のシイナとは逆の右隣に座った。


 両手に花であるのたが……俺は四人の妻を持つ既婚者にしてバツイチだ。

 ここまで露骨な対応をされると俺も確信する。だからこそ早めにその事実は伝えようと思った。

 そんな内心など知らずシイナが溜息を吐いた。


「はぁ。それにしても九条君には別人ですって言ったんですけどね……信じてくれないんですよ」


「そういえばこういってはなんだが胸はどうしたんだ?」


「流石に普段のまま行けば問題になるのでサラシを巻きました。顔についてはクラスメイト達から綺麗になったと言われましたが、化粧を変えてきたと言って誤魔化しました……あ、そうです。楽しいお昼の続きの前に、頼まれていた報告の続きをさせて下さい」


 そう手を叩いてシイナは一枚の封の開いた手紙を俺へと渡す。


 見ていいという事だろう。

 渡されたものを読んでいく。内容はシイナに宛てたものだ。

 というかこれ。


「……遺言か?」


「の、様なものかもしれません。ですがこの方が、一番信用でき、条件に合致致します。そして私としてもぜひ、助けて頂きたい方なのです」


 俺はその手紙をポケットにしまい頷いた。

 いいな。この人物でいこう。


「――問題ない。これはちょっとしたビジネスの話なのだから」


 ただし取り扱うのはこれを書いた大富豪の“命”だ。






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る