第139話

 士官服の男が操る03AACの攻撃に対し、四本脚のグループも当然のように反撃する。短腕を三方から撃ち出して03AACを追い込もうとするが、03AACは正面にいる相手に対しては腰部の機関砲の連射でけん制し、右側の相手には手持ちの対WP用バズーカを当てて吹き飛ばす。左からの攻撃も上手く回避し、03AACは素早く近くに突き刺さったままのバスターソードに取り付こうとする。

 しかしそう簡単にはやらせない。俺はエクリプスのサイドステップに飛び乗るとすぐに機体を発進させ弧を描くような軌道で動き、相手の先手を取ってバスターソードを奪還しようとするが、士官服の男もそのままでは済ませてはくれなかった。


「ふん……小賢しい。それを私が考えていないとでも思ったのか? ……WP-02FA!」


 男の号令と共にその背後に居た02-FA二機が起動し、素早い動きでエクリプスに迫ってくる。


「まさか……その二機も同時に操っているのか?」

「ククク……貴様のTRCSは所詮試作品にすぎんのだ。まあ、我々のTRCSの完成には役立たせてもらったがな」


 士官服の男はふてぶてしい笑みを浮かべてそう告げると、02-FAでこちらにけん制をかけさせつつ03AACにバスターソードを引き抜かせる。

 だが、完全なAC装備の03Aに巨大なバスターソードは流石に手に余る代物だったのか、剣を構える仕草すら取れずにその場によろめいてしまう。

 それを見た士官服の男は表情を歪め、03AACをひとまず後退させる。


「ちっ、流石に重量過多か。やはりこんな型落ちの機体ではたかが知れているということだな」


 仮にもリヴェルナ共和国軍ではもっとも新しい制式WPである03Aを型落ちの機体扱いとはよく言ったものだ。もっとも、導入されて以来次々と革命評議会が新型を投入している上、不利な状況での戦いだったとはいえヤーバリーズでは敵の尻尾付きに圧倒されていたことを鑑みると、そういう評価をされてしまうのは致し方ないのかも知れない。次世代型量産試作機というべきエクリプスが更なる改良を行ったのも、WP-03の次の量産型……つまりWP-04には更なる性能向上を図らなければならないためだろう。

 そんなことを頭の片隅で思いつつ、俺はエクリプスに指示を出してこちらをけん制してくるWP-02FAに銃撃を仕掛けさせる。相手を撃破するというよりは距離を取るためのけん制である。援軍を待つにせよ逃げるにせよ二機の攻撃を受けながらでは少々厳しい。

 こちらの銃撃に対して二機の02FAは大きく散開してこちらの死角に回り込もうとする。相手が言う通りにTRCSを使っているのなら、装置の有効距離も似たようなものだと思ったのだが、どうやら見込みが甘かったらしい。

 しかしそれに落ち込んでいる暇もなく、今度は四本脚の残り二機が攻撃対象を後退した03AACからこちらに切り替えたのか、急速に間合いを詰めてくる。今の位置関係だと02FAと四本脚に半ば包囲される格好になってしまう。

 咄嗟に後退しようとエクリプスのサイドステップに飛び乗ろうとした次の瞬間、いつの間にかこちらの正面を取っていた03AACが、肩部のロケットランチャーを一発こちらに向けて放っていた。

 回避するのはほぼ不可能。そう判断した俺はステップから即座に飛び降りるとエクリプスと距離をとりその場に伏せる。同時にエクリプスには腕を組ませて胴体正面をガードさせつつ、脚をたたんでその場にしゃがみこませる。



 ドガァァァァァァッ!!



 爆発音が響き、ロケットランチャーがエクリプスに命中した。地面に伏せていた俺はその様子を見ていないが、バイザーディスプレイには次々に機体の損傷報告が入ってくる。

 爆発音が収まって少し後に、俺は素早く立ち上がってエクリプスの姿を確認する。

 事前に構えを取らせていたこともあり、胴体部への直撃は避けられ後ろ倒しになることも無かったが、直接攻撃を受けた両腕のダメージは深刻で、特に直接弾頭を受けてしまったらしい左腕は原形を保ってはいたものの前に構えた状態のまま動作不能に陥っており、右腕は何とか動くものの内部が一部断線していてその動きはややぎこちない。

 最悪の事態こそ免れたものの、それと引き換えに左腕を持っていかれてしまい、戦闘能力は大きく落ち込んでいる。しかも、その間に02FAと四本脚に包囲された上、正面には03AACが火器の狙いをこちらに定めている。


 ここまでか……!


 うなだれる俺に士官服の男が勝ち誇った声を浴びせてくる。


「諦めるのだな。TRCSを用いているとはいえ一人一機では、私相手には役不足だったということだ。これ以上はあの方のお手間を取らせることも無い。ここで貴様諸共エクリプスを葬ってくれる!」

「……その前に名前くらい名乗ったらどうだ?」

「そう言われて私が名乗るとでも思っているのか?」

「……悪あがきだろうが何だろうが、土産も無しに死ねなくてね」


 そう俺が開き直ると、士官服の男は03AACにバズーカを構えさせた上で告げる。


「ならば、こいつと引き換えにヒントをくれてやる。私は『97番目』だ」

「97……何のことだ?」

「続きは地獄ででも考えるのだな!」


 俺が言葉の意味を考える暇もなく、士官服の男が03AACに攻撃を指示しようとしたタイミングで、03AACに向けて対WP用ミサイルが飛んでくる。


「何だと!」


 男は素早く03AACを回避させるが、そこで初めて表情から余裕が消える。俺はその隙を見逃さずに02FAに向けてエクリプスを動かし、どうにか包囲を抜け出し02FAの後方に位置を変える。

 同時に聞きなれた声が耳に聞こえてくる。


「……ったく、案の定にもほどがあるぜナオキ」

「だから逃げてくださいね、と念を押したんですが……」

「今後はもうナオキ曹長に単独行動はさせられないね……覚えておくよ」


 頼もしい味方の到着に自分でも気付かないほど自然に笑顔が浮かぶ。


「隊長! ジャックにケヴィン曹長も!」

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