第137話

 四つ脚の反応は俊敏だった。一ヵ所にまとまっていた三機はこちらが仕掛けてくる姿勢を見せた瞬間にその場から散開、エクリプスを包囲するような陣形を取ろうとする。しかし、それはこちらにとっても好都合と言えた。

 三機の位置取りが限界まで広がった隙を突いて、ケヴィン曹長の操るスペクターがジャックを載せて全速で発進し、三機の包囲をかいくぐって隊長たちの待つベースキャンプ方面へと離脱していく。

 俺は三機のうちもっともスペクターに近い位置にいた一機がスペクターに狙いを定めているらしいのを見て取り、違う機体に切り込もうとしていたエクリプスを反転させてそれを阻止に回る。

 しかし、こちらが切り込んでくるのを察知したらしき相手はすぐさま動作を止めるとその場を離れようとし、それを見た俺は咄嗟に後ろを振り向く。振り向いた瞬間に見えたのは、残りの二機がこちらに向けて短腕ワイヤードアームを射出しようとしている姿だった。


「ちっ……!」


 俺は舌打ちすると狙っていた相手に背を向けたままエクリプスの側面にあるステップに体を預け、脚部ホバーと背面ブースターを調節してエクリプスを後方へ跳躍させる。

 既にTRCSは起動させており、そういう風に動作させること自体は問題ないが、背中を向けたまま後方に飛ぶととなるとやはり自分の目で確認してからでないと怖い。それを言うなら放置しているエクリプスの正面にいた一機も怖いが、現状ではそちらから攻撃が来ないことを祈るしかない。

 跳躍するのとほぼ同じタイミングでエクリプスの背後側にいた二機が仕掛けてくるが、そのタイミングで狙いを修正するのは無人操縦でも困難であったのか、そのままこちらがいた位置に向けて短腕を発射してしまう。流石にすぐ放った腕は機体側へ戻したものの、こちらへの直接攻撃は諦めたらしくその場に留まってこちらの出方を観察しているように見えた。残るもう一機もこちらへ追撃はせずに僚機との合流を選択したようである。



 エクリプスはそのまま敵三機とは少し距離を取り、仰向けになったまま機能を止められたラグート基地反乱軍のWPの隣にに着地する。この地雷原の中で唯一付近に地雷があることが確実なのがこの機体の周囲であり、ここに着地したのもそれを利用するためである。

 とは言うもの、敵の人工知能は基本的に自分たちから積極的に仕掛けるようには出来ていないような印象を受ける。最初にジャック機へ先制攻撃をかけたのは、落下時に攻撃を受けたのがジャック機であったことから最優先攻撃対象としていたのだろう。

 個々の火力自体はWPとして見た場合、決して高いとは言えない。ジャック機を機能停止させた短腕による電流攻撃は奇襲としてみれば効果はあるが、一旦手を明かされてしまえば対処するのはそれほど難しい話ではない。ワイヤー部分がどれほどの射程なのかは分からないが、マシンガンに匹敵する射程があるとは思えない。

 そのためなのか、装甲はかなり厚めであるようだった。ケヴィン曹長の報告にも攻撃の効きが良くないというのがあったことからも、あの一見ふざけた見た目とは違って対弾性能を重視しているのは間違いない。


 問題はエクリプスが接近戦を得手とするWPであることと、数が一対三であるということだった。


 一対一の戦いならば、多少強引にでも接近戦に持ち込めばいくら装甲が厚かろうとバスターソードで切り伏せればケリがつくが、相手はの数は三機である。先程の様に、一機に向き合っている最中に他の二機が死角へ潜り込みそこで攻撃されてしまえばこちらは終わりである。

 あの短腕の構造上、上空に飛んで完全に頭上を取ってしまえば一方的に攻撃も出来そうであるが、あいにくとエクリプスには高火力の射撃武器がない。マシンガンを使う手もあるが、単純な性能だけならエクリプスのマシンガンと同等であるはずのスペクターの固定式マシンガンが通じなかったことを考えると、あまり現実的ではない。飛行型ではないエクリプスを敵撃破まで飛ばしたままでいられるか、ということもある。

 逃げることも考えたが、相手がこちらの行動に反応する人工知能である以上、無闇に逃げを打つと延々と追いかけまわされることにもなりかねず、結果ベースキャンプが危機に陥っては目も当てられない。


 そこまで考えて、採るべき行動は決まった。持久戦である。


 極力こちらから敵には仕掛けず、相手の接近を待つ。相手が接近して短腕を放ってくるようならばバスターソードで断ち切り、体当たりで来るようなら脚を奪うことを優先して攻撃する。仮に相手のうち一機でも地雷を踏んで損傷が見られるようなら、迷わず前に出て止めを刺す。

 全く仕掛けなければ敵もこちらに仕掛けない以上、最初の最初だけはこちらから手札を切らなければならないが、これは仕方ない。


 意を決して、俺はエクリプスに構えさせていたバスターソードを先程の様に地面に突き刺し、その上でマシンガンを構えさせた。

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