第73話
僕はエクリプスを操作して演習場の中央へと歩み寄っていったが、気になるのはケヴィン曹長が何のWPを操縦するのか、であった。
僕はてっきりジャックか隊長どちらかの機体を借り受ける形で戦うのかと思っていたのだが、よくよく考えると、ジャックが目の敵にしているケヴィン曹長に機体を貸すわけがないし、防御重視の隊長の02FDは攻撃的な性格のケヴィン曹長には似合わない気がした。
僕が演習場の中央にやってくるのとほぼ同じタイミングでケヴィン曹長の操縦する機体が姿を見せた。
「これは……!」
「あのマシンガンの機体っ! どういうことですか、隊長?」
「メトバ曹長たちには……あるいはあまり見たくない機体かもしれないな、それは」
その場に現れた悪い意味で見慣れた機体に僕とジャックが驚く間もなく、隊長は淡々と語った。
「先の騒乱において首都リヴェルナを襲撃した機体のうち、比較的損傷の少ない機体をレストアし、演習用の機体として再利用することになったんだ。ちょうどケヴィン曹長用の機体が欲しいところでもあったし、敵の機体を知っておくことも戦略のうちだからね。ノーヴル・ラークスで使わせてもらうことになった」
「……」
「……この機体、名前は何と呼ばれていたのですか?」
隊長の言葉にジャックは
「……彼らの
「……確かに、化けて出てこられたような印象はあります……」
「まあ、そんなに怖い顔をしないでもらえるかな。過去にどういう経緯があろうと、今は我々のもとにある大切な戦力だ。有効に活用せねばな」
僕とジャックの表情から明確な嫌悪感を感じ取ったのか、隊長はいつもの気楽な口調を封印して、いたって真面目な口調で話していた。
「……ケヴィン曹長は、それでいいんですか?」
「真に優秀な操縦手というものは、操縦する機体をえり好みしないものですよ、メトバ曹長」
僕が問うと、ケヴィン曹長は明らかにこちらを小馬鹿にしたような声でそう言い、流石の僕もこれには
「……やっちまえ、ナオキ。遠慮はいらねえぞ」
「……分かってるよ、ジャック。手加減はしない」
「手加減するつもりでいたんですか? 南部出身の貧民の分際で」
「……隊長、ルールは先程と同じでいいんですか?」
こちらに挑発を繰り返すケヴィン曹長をかろうじて無視し、僕はジェノ隊長にルールを確認した。
「うむ、制限時間は十分。火器は空砲を用いて刀剣類の使用は許可しない。
ただし、今回に限り開始後一分が経過するまではロックオンをしても有効とは認めない」
「何故です? 別にいきなりでも構わないではないですか」
「そのルールでいくと構えることなく射撃がこなせるスペクターが一方的に有利になるのでね。それでは公平な演習にはならないよ」
隊長のその言葉にケヴィン曹長が噛みついた。隊長は冷静に理由を説明したが、ケヴィン曹長は納得しなかった。
「君は君に有利なルールで戦いたいだけじゃないのかい?」
「違います。戦場においてルールを順守する敵などいないと言いたいだけです」
「……だそうだよ。どう思う、メトバ曹長?」
ケヴィン曹長の言葉に、ジェノ隊長は僕に水を向けた。隊長は試すような視線で僕を見つめている。
僕の答えは決まっていた。淀むことなく、口を動かす。
「確かに、僕の経験してきた戦場ではまともにルールを守っていた人間などほとんどいなかった。無法者のテロリストばかりだったよ。しかし、だからと言って僕らまでルールを無視していいわけじゃない。僕らはテロリストとは違う、無法から共和国市民を守るために存在する軍人なんだ!」
僕の言葉にケヴィン曹長はビクンと体を揺らした。彼の動揺に構わず、僕は言葉を続ける。
「それとも君は、戦いのためならば共和国の法律や国際法を自分の判断でねじ曲げるっていうのかい、ケヴィン曹長?」
「……」
ケヴィン曹長は押し黙った。あれだけ皮肉や嫌味を飛ばしていた口が、今や完全に閉ざされている。その体は小刻みに震えていた。
「オーグス曹長、大丈夫かい?」
「……すみません隊長、少々考えが足りませんでした」
「それは別にいいけれど、どうなんだいオーグス曹長? メトバ曹長の言うことに何か反論はないのかな?」
「……ありません。……今は、自分の考えの浅さを恥じています」
隊長の冷静な追及にケヴィン曹長はついに白旗を上げた。見下していた相手にやり込められたのが相当悔しいのか、その両手はきつく握りしめられていた。
「さて、異論もなくなったところで今度こそ模擬戦に移りたいところだが、二人ともそれでいいかい? それとも、一旦休憩をはさむかな?」
「ケヴィン曹長が落ち着くまで少し時間が必要ではないですか、隊長?」
「……自分は大丈夫です、メトバ曹長。始めましょう……」
僕はケヴィン曹長を気遣ってみたもののやはり
「……そうだな。今日はもうやめておこう。オーグス曹長、その状態では冷静にWPの操縦は出来まい」
「! 自分は大丈夫です。模擬戦を行いましょう!」
「いや、別に模擬戦などやろうと思えばいつでもできる。それより、オーグス曹長、先程からの君の物言いは少々目に余るな。上官や同僚に対しての反抗的な態度や言動を、ノーヴル・ラークスの隊長としてこれ以上放置はできない」
「……違います! 自分は決してそのようなつもりでは……」
ケヴィン曹長は必死に弁明したが、ジェノ隊長は冷ややかな視線でその様を眺めていた。
「これでも大分君のことについては我慢していたつもりだよ。その分、メトバ曹長たちには負担もかけてしまったけどね。だが、君はまず操縦手として以前に人間として未熟であるようだ。そんな人間を戦場に出してはうかうかと危険な行動に走りかねない」
「自分がそんな行動をとる人間に見えるとおっしゃるのですか、隊長は?」
「残念ながらそういうことだね。どんなに言葉を取り繕ったところで、君の本質を隠し通すことは出来ないということだよ」
隊長の言葉をケヴィン曹長は
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