第53話
僕は焦れた。先程のこともあり、今度こそは機を逃さずに仕掛けていきたかった。だが、それが失敗だった。
エクリプスに搭載された新型システムはその僕の思考に敏感に反応して、シールドを構えたまま勢いよく突進を開始した。
「しまった!」
僕は自分の
敵は敵でいきなり操縦手を置き去りにしかねない勢いで突出してきたエクリプスに戸惑っているようで、若干だがマシンガンの狙いにブレが生じていた。
僕はエクリプスの動きを止めずにそのまま突進させ、片手でアサルトブレードを構えさせるとそのまま二機のうちの一機に斬撃を浴びせた。敵はわずかに後退の姿勢を見せたが遅い。敵WPはマシンガンのある左腕部を
斬った敵WPに不要になったシールドを投げつけてから体当たりをぶちかまし完全に
もう片方の敵は接近された時点で急激に後退をかけて、距離を取っていた。
僕はエクリプスに設置されている操縦手用のステップに飛び乗ると、ホバーユニットを起動させて敵との間合いを一気に詰めさせる。
すると、敵のWPはマシンガンを撃ちつつさらに後退をかけさせ始めた。
そこに隊長からの通信が入る。
「気をつけろ、ナオキ軍曹! そちらから新たな敵が接近中だ」
「本当ですか隊長? 敵の数は」
「二機だ。反応から考えて同型の敵だろう」
隊長も戦闘の真っただ中なのか声に余裕がない。
「分かりました。隊長は大丈夫ですか?」
「一機はすぐに倒せたが、残り一機がしぶとくてな」
「援軍はどうです?」
「どうやら足止めを食らっているようだ。ここは我々だけでやるしかない」
隊長の声が鋭い銃声とともに響いてくる。僕は一瞬だけ考えるとすぐに決断した。
「隊長、一度そちらに合流します。敵が増えるならば仕切り直した方が得策です」
「わかった、頼む」
僕は後退する敵に構わず機体を旋回させると、先程の場所に向かおうとした。
そこに何かが飛んでくる。
「!」
それは先程投げ捨てたD型装備用の大型シールドだった。
僕の瞬間的な思考に反応してエクリプスがアサルトブレードでシールドを切り払う。
しかし、それは単なる目くらましに過ぎなかった。
空から響く轟音と突然の黒い影に上空を見上げると、先程左腕を斬られた敵WPが上空に浮かび上がりこちらに向かって質量を乗せた蹴りを放とうとしている。
通常のコンソール操作ならばまずかわせないタイミングだったが、こちらは普通ではなかった。
僕は姿勢の崩れているエクリプスをそれでも強引に後ろに下がらせる。機体の各部が悲鳴を上げているようだったが、あの蹴りの直撃を受けるよりはマシだった。
敵の蹴りはわずかに届かず、空しく地面に着地する。
僕はこの時先読みでコンソールに次の行動を入力し終わっている。
エクリプスは態勢を低く取るとアサルトブレードを相手に突き立てるように突進した。着地したばかりの敵は身動きが取れない。
アサルトブレードを正面から突き立てられて、今度こそ動きを止めた。
敵のWPを操縦していたと思われる操縦手はいない。どうやら事前にコマンドだけ入力して自分は退避していたらしい。
そこに隊長からの声が響いた。通信回線からではなく、隊長の肉声だった。
「後ろだ、軍曹!」
その声に僕は後ろを振り向くより先にその場に伏せていた。
バン! バン!
乾いた銃声が響く。やや遅れてもう一発銃声が響いた。
僕が状況を確認するため最初の銃声が響いた方を向くと、そこには敵WPを操っていた男が肩を抑えてうずくまっている。
「大丈夫だったか、軍曹」
03ACを連れて隊長が僕に歩み寄ってきた。その手には拳銃が握られている。
「隊長、撃ったんですか?」
僕は分かり切ったことを隊長に聞いた。
「ああ、そうだ。ここは戦場だからな。何が起きても不思議ではない」
隊長は淡々とそう言い、厳しい表情を浮かべた。
「ナオキ軍曹。君らしいといえば君らしいが、敵はWPだけじゃない。それを動かす人間もまた敵なんだ。忘れてもらっては困る」
「はい……」
僕はその言葉に何の反論もできず、ただうなずくしかなかった。隊長が銃を撃たなかったら、僕はあの男に間違いなく撃ち殺されていただろう。でも、隊長が生身の敵を拳銃で撃ったという事実を僕はどこか認めたくない気がした。
「一人で立てるな、軍曹。次の敵が来るぞ」
隊長は厳しい表情のまま僕に告げた。
僕は慌てて立ち上がると、敵影を確認した。
先程後退した一機と新しい敵が二機、こちらへと接近してくる。
「戦うんですか、隊長?」
「先程、首都リヴェルナの管制から連絡が入った。残りの敵は全て援軍の足止めに回っているそうだ。だから援軍は期待できないが、逆に言えばここで我々が正面の敵を倒すことが出来れば、こちらの勝ちは確定的だ」
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