第19話

 ヤーバリーズ中央駅前でのテロ事件から五日が経過した。

 逃げた男の行方は、いまだに掴めていない。



 その間、僕は警察や軍の査問委員会からの聴取でかかりっきりだった。警察の聴取の目的はもちろんテロの犯人と目される男に関することで、人相や声、体型から利き腕に至るまで僕の知り得た範囲の情報を事細かに話した。

 査問委員会の聴取も似たようなものだったが、それ以外にも結果的に僕が単独で出撃せざるを得なかった件や、けん制で放ったミサイルの使用が本当に正しかったのか等々、呆れるほど細かな点を嫌味たらしくしつこく聞いてくるのには正直辟易した。でも、ここで適当に話したら部隊全体に類が及びかねないので、ちゃんと事実に基づいた主張を行って、設立されたばかりの部隊の不利にならないように努めた。

 その甲斐あってか、今回の事件にまつわる不手際の処分についてはお咎めなしとなったが、僕は軽率な行動で敵をみすみす取り逃がす原因を作ったとして減俸一ヶ月と五日間の謹慎命令を課された。


「理由は分かりますけれど、少々手厳しい処分ではないですか?」


 作戦指揮所での定例ブリーフィングの席上、アレク隊長からその処分が発表されたとき、周囲を代表してサフィール准尉が隊長に意見した。


「准尉の言いたいことはよく分かる。私ももちろん上申はしたのだが、査問委員会としてはどんな状況下であったにせよ、ナオキ軍曹には犯人を捕らえる責務があり、それを果たせなかった以上は独立任務部隊の操縦手の一人として責任を負わなければならない……という見解であるらしい」


 隊長は苦虫をみ潰したような表情で語った。


「全く、現場を知らねぇ連中はこれだから……」

「ジャック曹長、気持ちはわかるけどその辺にしておきなさい」


 ジャックが忌々いまいましげにつぶやいたのをサフィール准尉がたしなめる。


「では、これから五日間はナオキ軍曹なしでの活動になるんですね……人員的にきついことになりそうです」


 ホリー軍曹が暗い表情で言った。


「ホリー軍曹の言う通りだ。ナオキ軍曹がいない分、我々一人ひとりに課せられる責任は増す。特にジャック曹長、ナオキ軍曹がいない分は我々二人で協力してこなさなければならないぞ」

「分かってますって。ナオキがその……不安にならないような活動を心がけますよ」


 ジャック曹長は彼なりに気を遣ってくれているのか、丁寧な言葉遣いで隊長に応じた。


「うむ、頼むぞ。では、これでブリーフィングは終了とする。それと、ナオキ軍曹は少しだけ残ってくれ」

「? ……は、はい」


 どういうことなのかが分からず、僕は戸惑いながら返事を返した。



 皆が出ていったのを確認してから、アレク隊長はゆっくりと僕に語りかけてきた。


「軍曹、今回の一件に関しては下士官である君に多大な責任を押し付けてしまって申し訳なく思っている。これも隊長である私の至らなさ故だ。どうか許してほしい……」


 アレク隊長がそう言って頭を下げたので、僕はとても焦った。


「隊長、頭を上げてください。自分は、そのようなことは……」

「いや、ここはしっかりと謝らせてくれないか軍曹。私は本来上官として軍曹を守らねばならない立場にあるのにそれを果たせなかった。見ようによっては君に責任を押し付けて、自己の保身を図ったようにも見えるかも知れない」

「誰がそんなことを? 自分は、そんな風には思っておりません!」

「影口というものは、いつもついて回るものさ」


 あまりの言葉に僕が語気を強めて返すと、隊長は静かな表情で語った。


「隊長……」

「以前に君は言ったな、軍曹? 守りたい人たちがいると。私も同じだ。私にも守らねばならん人間たちがいる。そして、その中には私の部下たちも当然含まれている」


 アレク隊長の話す言葉の重さに、僕は何も言うことができなかった。


「今回こうなってしまったものはもう取り返せない。だが、今後は部下である君に責任を押し付けるような真似は二度と起こさない。いや、起こさせない。隊長として約束しよう」


 そう言って、アレク隊長は僕の手を取り強く握りしめた。

 僕も、隊長の手を強く握り返してこう言った。


「自分は、隊長を一人の人間として、ずっと信頼しております。そして、それは今後も変わりません」

「ありがとう、ナオキ軍曹……では、戻ってくれて構わない」

「はっ、失礼いたします」


 僕は隊長に敬礼をして退出した。隊長はそんな僕のことを部屋から完全に退出するまでじっと見つめていた。

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