第12話
僕らはあの後他基地からの援軍が来るまで
もっとも、WPによる対人戦闘は条約で禁じられている訳だからWPの操縦が本領である僕たちに出来ることは限られているし、それでなくとも基地にいたWP操縦者の大半は今回の襲撃で殉職してしまっている。僕たちまでいなくなってしまっては、それこそ基地機能の維持が難しいものになっていたに違いない。
他基地からの援軍がようやく到着し、基地施設を占拠していた武装勢力の制圧に成功した時点で、僕らは警備任務を解かれてひとまずの休養を申し渡された。
かろうじて襲撃を免れた隊員宿舎内の自室に戻った僕は、泥のように深い眠りに落ちていった。昼食直前から半日以上もの間、それまでに体験したこともないほどの緊張状態を強いられ続けていた僕の精神はとっくに限界を超えていたのだ。気が付いた時には翌日の昼を過ぎていた。
僕と同室であったジャックも似たようなもので、彼は僕より先に眠りについてから翌日起こされるまでの間、派手にいびきをかいてぐっすりと眠り続けていた。
(普段は強気なように見えても、やっぱり気を使っていたんだな……)
ぐうぐうと眠っているジャックを起こしながら、僕はそんなことを思った。
僕とジャックが丸一日ぶりとなる食事を取るために食堂に行くと、先に起きていたらしいアレク隊長とサフィール曹長がいて、何かを話しあっていた。
隊長は僕らに気付くと「おはよう」と声を掛けてきた。
「随分遅かったな。まぁ、今日一日はまるまる休養日だから気にしなくても構わないが……」
「昨日はお疲れだったわね。でも、寝すぎも良くないわよ」
二人とも疲れている様子は全く見せなかったが、僕は二人の体調が気にかかった。
「隊長たちこそ、お疲れはありませんか?」
「ははは。流石の私も昨晩はくたくただったが、しっかり眠らせてもらえたしな」
「心配はいらないわ。でも、ありがとうナオキ軍曹。気遣ってくれて」
二人はそう言ってにこやかに微笑んでいたが、声には若干張りがなく、言わないだけでまだ疲れは抜けきっていないのだろうと想像した。
「まぁ、元気そうで何よりですけれど……俺たちはこれからどうなるんですかね?」
いつになく真剣な表情でジャックが質問すると、アレク隊長も笑顔を収めて真剣な表情になった。
「うむ。とりあえず明日までの間は宿舎内で休養に努めるようにとの命令が下っているが、その後で恐らく査問委員会による聴取があるはずだ。それから、一連の事後処理が終わるまでは宿舎内からは出られないので、そのつもりでいてくれ」
「
隊長の言葉をサフィール曹長が補足した。
「了解です隊長。じっくり静養に努めます」
「そうしてくれ。それと、私と曹長は事件により発生した懸案事項の解決のため、明日から一週間基地を離れることになった。不在の間は中隊長が私に代わって直接諸君らの指揮に当たってくださるので、気を抜かないように」
隊長の言葉に僕はまだ数度しか見たことのない中隊長の顔を思い浮かべていた。アレク隊長より上の上官ではあったが、人物としてはあまりぱっとしないというのが第一印象だった。今回の事件でも何らかの働きがあったという話は聞いていない。信頼を置ける人物には思えなかった。
その翌々日、アレク隊長が言っていた通り僕とジャックは査問委員会に一人ずつ召喚されて今回の事件についての事情聴取を受けた。
この事情聴取については、正直あまり多くを思い出したくない。軍の査問というものはとんでもなく事務的かつ機械的に行われ、愛想も何もあったものではなかった。しかも、こちらの心を逆撫でにしたり感情を煽るような質問を次々と切り出してくる。苛立ちが何度も顔に出そうになり、僕はやっとのことでそれを抑え込んでいた。僕が軍という組織に明確な不信感を抱いたのはこの時が初めてだった。
「……ったく、何なんだよあれは!」
僕より後に査問委員会に召喚されたジャックは、部屋に戻ってくるなりストレートに苛立ちを爆発させた。
「お疲れジャック。その分じゃ苦労したみたいだね」
「覚悟はしてたが、あんなにいけ好かねぇ野郎ばっかりとは思わなかったぜ……俺の休養時間を返しやがれ!」
「まぁまぁ、言いたいことはよくわかるけど、ここだけにしておきなよ」
ジャックの気持ちは痛いほど理解できたので、僕はなるべく当たり障りのない言葉でジャックをなだめた。
査問委員会の結果は翌日素っ気無く中隊長から申し渡された。僕もジャックも命令違反、並びに綱紀違反に当たる行動は認められず、軍人として粛々と軍務を果たしていたということで、特に処罰は無く翌日から仮復帰するように、とのことだった。
「仮、というのはどういう意味でしょうか?」
やや引っ掛かった点を僕は中隊長殿に質問した。
「ニーゼン少尉が隊に復帰するまでの間、ということだ。第一小隊には、いずれ違う命令が下されることになっている」
「あくまでも
「そう理解してくれて構わない」
中隊長はどこまでも事務的だった。僕は心の中でため息をつきつつ、これ以上は意味のない質問を切り上げて自室に戻った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます