5
黒い雪だるまの妖精が何なのか、結局そのあともわからなかった。
しばらく城の中で暖を取ったエレノアたちは、雪像づくりを再開するべく外に出たのだが――
雪像を作るために作り上げた雪の塊を見上げて、エレノアたち四人は言葉を失った。
「誰だこんなことをしたのは――!」
真っ先に声をあげたのはラーファオである。
無理もない。寒いのが大の苦手な彼が、恋敵を打ち負かすため――いやいや、愛する妻のために一生懸命作り上げた、雪の塊。
その白い雪の表面は、無残にも黒い文字でこう落書きされてあった。
――ばーっか!
スコップを片手に「犯人出てこい!」と激怒する夫をなだめているのはリーファである。
そのとき、エレノアの視界に何か黒い影が横切った。
ハッとして顔をあげたその先――エレノアの作った雪の塊の上に、それはいた。
「黒だるまの妖精!」
「……エレノア様、その呼び方定着ですか」
思わず突っ込んでから、「本当にいましたね」とラーファオも黒い雪だるまの妖精を見上げる。
カイルも目を見張って、雪の上でぴょんぴょん飛び跳ねている黒い雪だるまの妖精を見つめた。
黒い雪だるまの妖精は、まるで馬鹿にするかのように、雪の上を飛び回っている。
ラーファオの額に青筋が浮いた。
「あーわかった。わかったよ。これを書いたのはお前だな。そうだろう」
ぱしぱしとスコップを叩きながら言うラーファオの笑顔が――黒い。
「いーい度胸だ。せっかく作った俺の雪に落書きしやがって。覚悟しろよこの黒だるま。捕まえてもっと丸焦げにしてやる!」
「ラーファオ、ちょっと落ち着いて……」
完全に目が据わってしまったラーファオの手をリーファがそっと引いてみるが、どうやら彼の頭にはこの黒い雪だるまに復讐することでいっぱいの様子。
よほど落書きされた「ばーっか!」の文字が気に食わなかったようだ。
ラーファオは持っていたスコップを大きく振りかぶると、黒い雪だるまの妖精に向かって投げつける――が。
「え?」
「あ」
「きゃ、きゃあああ―――!」
突然雪だるまの妖精が高くジャンプしたかと思うと、反動をつけて雪の塊を蹴りつけて――
エレノアたちは、崩れてきた雪の塊に下敷きにされてしまった。
「それで、このありさまか」
エレノアたち四人が毛布にくるまって暖炉のそばで暖を取っていると、話を聞きつけてやってきたサーシャロッドがあきれたようにため息をついた。
遅れてやってきた雪の女王も「わたくしの息子のくせに、なんて情けない……」と額をおさえている。
「サーシャロッド様、間違いありません。雪像を壊したのはあの黒だるまです! ――っくしゅ!」
ラーファオは腹立たしげだが、よほど寒いのか、震えながら暖炉に手をかざしている。
「話はあとだ。風呂の用意ができたそうだから、まずは温まって来い」
サーシャロッドがそう言って、毛布にくるまれたエレノアをひょいと抱え上げる。
風呂、という単語にエレノアは嫌な予感を覚えたが、サーシャロッドはエレノアを抱え上げたまますたすたと与えられた客室の方へと向かっていく。
「さ、サーシャ様……」
恐る恐るサーシャロッドの顔を見上げると、にっこりと微笑まれた。
――エレノアは、そのとてもイイ笑顔を見て、待ち受ける試練を覚悟した。
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