黒い雪だるまの悪戯

1

 口は禍の元とはよく言ったものだ。


 夜、エレノアはうっかりと口にしてしまった疑問をもって、己の迂闊さを痛感することになった。


 雪の妖精の女王の城。


 夕食を終えて、雪の女王から与えられた客室にサーシャロッドと戻ったときのことである。


 夕食の席では、雪の妖精の女王やカイル、そして女王の夫でカイルの父親であるポールの姿もあった。


 はじめて顔を合わせたときに妻に巨大雪だるまの下敷きにされていたポールだが、女王との仲はいいようで、まだ怒っている様子の女王に甲斐甲斐しく世話を焼いては、女王に雪玉をぶつけられていたが、彼は始終にこにこと笑っていた。


 カイルはそんな父に軽口を叩いたり、リーファにちょっかいを出して女王に怒られたりしていたが、エレノアの目にはどこからどう見ても仲のいい家族の様子に映ったのだ。


 そして、ふとポールが言ったことを思い出した。


 女王が、「娘が欲しかった」と言った言葉に対して彼は――


「サーシャ様、がんばったら女の子ができるんですか?」


 そう。これが迂闊だった。


 ポールが「がんばる」と言いかけたのをしっかりと覚えていたエレノアが、部屋に戻るなり、「家族っていいなぁ」とぼんやりした思考のままうっかり口を滑らせて、サーシャロッドの満面の笑顔を見た彼女は、一瞬後に自分の愚かさを思い知った。


 慌ててサーシャロッドのそばから逃げようとしたエレノアだったが、逃げ出す前にサーシャロッドの腕に捕らわれて、ひょいっと抱え上げられる。


「エレノアは最初は女の子がいいのか」


 極上の微笑み。


 だが、エレノアはぶるぶると震えた。


(怖い。なんだか怖い―――!)


 世の中には言ってはいけない言葉がある。エレノアはこの時それを学んだが、時すでに遅し。


 エレノアは青くなって、


「さ、サーシャ様! こ、こどっ、子供をつくるのは、おいおいって―――」


 このまま子作りに突入されては大変だと慌てるが、サーシャロッドは微笑んだまま、さらに恐ろしいことを言う。


「もちろん、子作りはおいおい教えてやるとも。だが、せっかくだ。予習しておいても損ではないな」


「予習って何ですか―――!」


 まずい。これはまずい流れだと、エレノアは本能で察する。


 サーシャロットがこういうイイ笑顔を浮かべているときは、たいていエレノアはひどく恥ずかしい目にあわされる。


 エレノアはサーシャロッドの腕の中でバタバタと暴れたが、サーシャロッドは鼻歌でも歌いそうな足取りで、部屋続きの浴室の扉を開けた。


 すでに大きな浴槽には湯がなみなみと張られていて、準備がいいことに、もこもこと泡立てられた泡も浮かんでいる。


 サーシャロッドはエレノアを浴槽の淵に座らせると、容赦なく胸元のリボンをほどきにかかった。


「――――――!」


 身をよじって逃げようとするが、後ろには泡が浮かんでいる湯、目の前はサーシャロッドで逃げるところがない。


 子ウサギのようにふるふると震えている間に裸に剥かれて、気がつけばサーシャロッドと風呂の中。


 ご機嫌でエレノアの肌に手のひらを滑らせるサーシャロッドに、エレノアはのぼせる寸前まで恥ずかしいことをされる羽目になったのだった。

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