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「それで、エレノアちゃんは顔が真っ青になるまで何に悩んでいたのかしら?」
エレノアはなぜかそのあと、リリアローズの膝の上に抱き上げられていた。
ぎゅうっと抱きしめられて、まるで愛玩人形を可愛がるかのようによしよしと頭を撫でられている。
しかし、エレノアは軽く混乱していてそれどころではなかった。
(フレイ様の奥様? フレイ様の奥様って確か、龍族だって。でも、リリー様はどこからどう見ても人だし。あれ……?)
フレイディーベルク曰く、彼の妻の得意技は口から火を吐くことだそうだ。つまり、リリアローズの口から火? ――だめだ、想像を絶する。
「エレノアちゃん、きいてるー?」
ぎゅうぎゅう抱きしめられるから、先ほどから豊満な胸がエレノアの背中で押しつぶされている。ものすごく弾力があって大きくて、思わず自分の胸元を見下ろしたエレノアはこっそり嘆息した。ペタンコの胸はサーシャロッドが言うには大きくなったそうだが、それでもまだまだ情けないほどに存在が薄い。
「エーレーノーアーちゃーん?」
むにっと頬を引っ張られて、エレノアはハッとした。
いけない。いろいろありすぎて、思考回路があっちこっちに飛びまくっている。落ち着け――、エレノアは首を横に振ると、改めてリリアローズを仰ぎ見た。
悩み事――。同じ神を夫に持つこの人なら、何かいいアドバイスをくれるだろうか?
エレノアは悩んで、フレイディーベルグに言われたことを伝えてみた。
すると、リリアローズはぐーっと形のいい眉を寄せてから、はーっと大きなため息を吐いた。
「まったくあの方は、人を困らせて遊ぶのが大好きなんだから! いいのよ、エレノアちゃん。あの人の言うことなんて聞かなくっても」
「でも……」
「いいじゃない。私情が何よ。神だって感情があるんですもの、私情の一つや二つあって当然でしょ。それに、フレイ様ならともかく、サーシャ様だもの。いくら私情があったって、それなりの理由がなければ祝福拒否なんてしないわよ」
あっけらかんと言われて、エレノアは逆に戸惑った。
リリアローズはにこにこと微笑んで、エレノアの頭を撫でる。
「それに、祝福を受けられなかったのは、エレノアちゃんの元婚約者ってだけでしょ? その、クライヴだっけ? 彼がだめならほかに替えなんていくらでもあるわよ。繁殖力が強いのが人間のいいところでしょー?」
「は、繁殖力……」
「クライヴっていう王子のほかに、王子様とかお姫様とかいないのー?」
「クライヴ殿下の八個下に、弟君が一人いらっしゃいますが……」
「あら、じゃあその弟が王様になればいいじゃない。祝福が得られなかったのはクライヴで、その弟君は別でしょー? 別に今の王様が死んだわけじゃないんだから、困ることなんて何もないじゃないの。もーぅ、真面目なのねぇ、エレノアちゃんって。もっと楽に考えればいいのよー」
うふふふふ、とリリアローズは楽しそうに笑う。
そして、リリアローズはひょいっとエレノアを横抱きに抱き上げて立ち上がった。
「どうしても気になるなら、サーシャ様に直接聞いてみればいいの! 夫婦なんですもの、話し合いは大切よー! そう! だからあたくしも、これから話し合いに行くの! ということで、フレイ様のところに案内してくれるかしら?」
いくら細いとはいえエレノアを軽々と抱え上げるリリアローズに、龍族って言うのは本当かもしれないとエレノアは思った。
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