第5話 鉤十字棟の内部。

液晶腕時計のLEDライトを押す。

 2時か。

 列車が到着する時間だ。

 さ、行動開始だ!

 黒頭巾を被り極薄のカーボン製の全身黒タイツを着て衝撃吸収のラバーソールを内装した地下足袋を履く。

 枕を布団に押し込み膨らみを作ると夜の闇に滑り入る。

 例の鉄扉のドアを開ける。

 鍵は五郎左衛門さんから拝借している。

 目指すは北棟の列車到着ロビー。

 用務員小屋は西棟の突端にあり、ここから鉤十字棟に潜入して北棟の列車到着ロビーを目指す。

 西棟は温泉治療浴室と手術室とドイツ人職員居住エリアの棟。

 全ての施設をやり過ごして通過する計画だ。


 ドアを開けると常備灯の緑色で照らされた長い廊下が続いている。

 〈ブーン〉という機械音が唸っている。

 廊下を小走りで進む。

 足音はしない。

 公安部支給の忍び装束は優れものだ!


 鉤十字なので廊下が90度に折れ曲がる。

 折れた付け根に温泉富士屋とのれんがかけてある部屋が現れる。

 温泉治療の温泉室だろう。

 通過しようとすると中から音が聞こえる。

 一応確認する。


 ロビーに居た年寄り達が横たわっている。

 頭を円筒の筒に入れて身体は緑の溶液に浸している。

 ちょっと違和感があるのは頭部と身体が離れていて光ファイバーの様な細かなケーブルで繋がっている事。

 ケーブルを光の粒がキラキラと流れている。


 この村の謎。

 異常に元気な老人達。

 それは身体をサイボーグ化されているからそりゃ元気だろう。

 これまでの調査で村の老人はほぼサイボーグ化されており第六病院が保守を行なっている事は判明している。


 次に葬式が出ない事。

 死なないのだから葬式はない。


 驚愕の事実とその保守を行なっている施設である温泉治療室は既知の事実として一応の確認となる。


 ドイツ人居住エリアはもぬけの空で誰も居ない。


 北棟へ行っているのだろう。


 先を急ごう!

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