第24話 いざ、交渉の場へ
――リスロン商会。
「リスロン様、ギルモアただいま戻りました」
「入れ」
静かに扉が開き、背の高い執事が入って来た。
書斎机の椅子に座っていたリスロンが小さな眼鏡を外した。
「どうだ?」
「は、恐らく早ければ、明日中に召喚されるそうです」
「思ったよりも早いな……」
「加勢に入りますか?」
「いや、ここで潰れるようなら、自治領など夢のまた夢――。だが、これで成功すれば賭けるに値する男かも知れん」
リスロンは小さな指で目頭を押さえた。
「明日には進むべき道が自ずと明らかになるだろう、私が動くのは……それからだ」
「は、かしこまりました」
*
二人でフィガロさんの店で食事を済ませた後、宿に戻った。
今日のタイクンのフライも最高だった……。
部屋に入り、少しくつろいだ後、俺はポーションの作成に取りかかった。
「なるべく回復系は多めに用意しておくか……」
魔法収納袋から水の入った瓶を取り出し、エクスポーションに変えていく。
「ま、これだけあれば何回やられても大丈夫ね」
クロネがふふんと鼻を鳴らし、ベッドに飛び乗って仰向けになった。
「向こうがどんな攻撃をしてくるかわからないからな、油断は禁物だぞ?」
「大丈夫よ、私のレベル知ってるでしょ?」
「それでも、何かあってからじゃ遅い。用心するに越したことはないんだからな」
「……わかった」
少しすねたように答えると、クロネは布団にくるまった。
――と、その時、窓をノックする音が聞こえた。
「なんだ?」
「ここ二階よ?」
クロネも上半身を起こして、窓を見ている。
俺は恐る恐る窓に近づき、カーテンを開けた。
「……鳥?」
窓を開けるとカラスが一羽、部屋の中に入ってきた。
見ると、足に手紙が結んであった。
「手紙だ……」
手紙を解くとカラスは『ガァッ!』と鳴いて外に羽ばたいて行った。
「あ、リターナからだよ。ほら、ポーションのリスト」
「もう、人騒がせな女ね……」
俺は手紙を開いた。
「えーっと、どれどれ……」
エクスポーションはもうあるから良いとして、マジックポーションとマジックブーストポーション、プロテクトポーション、ファイアポーションか……。
意外に普通な感じだが、一つだけ、見慣れぬ名のポーションが書かれていた。
「ヒュアカ……?」
これはまた、凄いものを……、ヒュアカは『太陽の民』と言われた古い部族に霊薬として伝わっていたものだ。
およそ700年前、今は現存していないだろうな……。
これを作れる人って、俺以外にいるんだろうか?
俺は瓶を握り締めた。
手の中にある『ヒュアカ』を見て、何とも言えない気持ちになった。
いや、凄いよ。
正直、まだこの凄さが実感できないでいる。
ポーションの知識も然る事ながら、瞬時に誰も作れない太古の霊薬を作れてしまう。
これを売ったらいくらになるんだろうか?
恐らく大変な騒ぎになるだろう。
でも、これが本物ってわかるのは俺だけかもなぁ……。
ベッドからクロネのすぴぃー、すぴぃーという寝息が聞こえてくる。
「ったく……、風邪引くぞ」
俺はクロネに布団を掛けた。
「さて、もう少し作っておくか……」
クロネの寝息を聞きながら、俺は遅くまでポーションの構成を考えた。
*
「クライン、クライン、ちょっと!」
「う、うん……」
目を開けると眩しい陽の光が飛び込んできた。
「んぉっ! 朝か……」
「いつまで寝てるのよ! 来たわよクライン、召喚状! ほら!」
クロネが俺の目の前に封蝋が押された封書を差し出した。
「こ、これは……⁉
宛名は俺とクロネの連名になっている。
差出人は領主代理・グレイ・ジオマイスター。
ついに来た、ここが人生の岐路と言ってもいいだろう。
これに失敗すれば、俺はまた全てを失うかも知れない。
「いよいよね、クライン!」
両拳を合わせ、闘志に燃える瞳で俺を見つめるクロネ。
そうだ、俺はもう以前の俺とは違う。
頼りになる仲間がいる。
仲間をサポートするだけの力も手に入れた!
必ず――。必ず、この手で自由を掴んでみせる!
*
呼び出された場所は、領主の屋敷ではなく、むしろ正反対の寂れた裏通りにあった。
「なんだか、不気味ね……」
「ああ、人気も殆ど無い」
たまに道ばたで座り込んでいる人もいるが、皆、生気がなく虚ろな目をしていた。
美しいメンブラーナにこんな場所があったとは……。
「あれじゃない?」
クロネが指さす方に、この場所では比較的大きめの家が建っていた。
「リターナもいるよな?」
後ろを見ると、建物の陰からリターナがちらっと顔を見せた。
「準備はいいか?」
「うん、プロテクトとリカバリポーションも飲んだし、後は相手の属性を見て決めるだけ」
「よし、まずは話し合ってみよう、戦いを避けられるのなら避けたいからな。後は……クロネ、神の滴は最終手段だぞ? あれは副作用がヤバい」
「大丈夫、速攻でキメるわ」
拳をパンパンと叩き、クロネが舌なめずりした。
「よし! ここが正念場だ、行くぞ!」
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