1.3 ぷるぷるしていた

 そこで思ったわけです。巻くんのことが好きなのは置いておくとして、私はこれでいいのかと。

 

 高校3年間、きちんと区切りをつけて次の大学生生活に進まなくていいのかと。


 こんどこそ、明日こそ。

 でも結局なにもしない。


 これからの人生ずっとこうやって生きていくのかと。


 巻くんに想いを告げる。

 もうこれだけは絶対やらなければいけない、そう思ったのです。

 

 成否の問題ではないのです。


 ……ちょっと嘘です。振られたらショックで仏門に入ります。多分余計なことしなきゃよかったって思うだろうなぁ。


 でもこれを片付けないまま高校生を終えるわけにはいかない。


 一応3月31日、23時59分59秒までは私も高校生で間違いないはずです。

 

 それまでに。

 

 ……と、決意はしたんですけどね。当たり前のように31日になるまで何もできないのが私です。


 古来恋心を相手に打ち明けるとなれば、面と向かって口上を述べるのが正式でしょう。文をしたためるというのも十分誠実だと思います。あとは電話ならぎりぎり許してもらえそうかな。


 そんな世間様の常識を十分に把握しながら、私の選んだ手段はSNSでした。うっわぁ……。


 いや、だって無理でしょ。そんなんできてたらとっくにやっとるわ!


 せめて、スタンプでごまかさずに平たい文字列で送ることにしましょう。


「好きです」


 よし。あとは送るだけだ。


 16時32分。

 とりあえず夜ご飯のあと送るぞ。


 19時13分

 食べ終わっちゃった。

 やっぱ身を清めないとね。お風呂はいろっと。


 21時17分

 やー、つい長風呂しちゃったなー。

 ・・ついじゃないだろ。いい加減覚悟決めようよ、私。


 まあこんな私なのです。

 

 なのですが! 


 ここで重大発表があります。


 巻くんが寝ちゃうかもしれないし、せめて22時00分までに、と手をぷるぷるしていたわたくし。


 案の定22時00分を過ぎてもぷるぷるを継続していたわたくしが。

 

 ついに送ったのです。

 

 22時31分35秒。

 好きです、の文字列を。

 巻くんに。

 この私が。


 えらい!


 思わず一句詠みたい気分です。

 詠めないけど。

 

 とにかく私がんばった。ほめて! ……あと、できればOKしてよ巻くん。


 そんな謎のテンションの私が余韻に浸る間もなく、かかってきたのが件の電話というわけです。

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