第16話 抵抗

「くっ・・・あ!!」

体が緊張で上手く動かない。左腕を掠めた短剣の刃に血が付着する。

「あれぇ?意外としぶといなぁ・・・まだ16だから弱いと思ったけど」

気味の悪い笑みを浮かべて短剣を眺めるキリア。

付着した血を舐め取る。

そのキリアの肩に紫色の矢が突き刺さる。

「・・・気色悪ぃ、死ね」

ラルラだ。ラルラは<変形者チェンジャー>、霊力を集め、凝固させ、形を変えて使う精霊師。ラルラは弓矢の精霊師で、精度は国軍トップクラスと言っても差し支えないレベルで相手を穿つ。

「この痛みも生きてるって感じするね・・実に良い」

「うるせぇわサイコドM野郎が!!」

ユンナとシンが同時に駆ける。

「シン、アシストする!!」

足下に突風が吹く。ユンナの風の精霊が風を起こしたらしい。風に乗って加速し、キリアは脚を取られてふらつく。

ユンナの錐とシンのティルとグラムがキリアに牙を剥く。

しかし、本当に脚がもつれているのか分からない程の素早さでバックステップ、攻撃は回避される。

(正直、手順はわかりやすすぎる・・・定数も求まったんだがな・・・)

歯がみしながら、シンは考える。

キリアの構えには、隙が無い。とても切り込める隙が無い。


「うおぁ!?」

フィールの声が聞こえた。

(まずい!?思考に集中を裂きすぎた!!)

考えすぎて回りを見ていなかった。仲間の中でも最も厄介なフィールから潰していく算段か、シンは瞬間的に理解する。

「う・・・ご、けぇぇええええええ!!!」

限界をぶち抜け、限界なんて蹴り砕け。念じた足は加速し、周囲のタイルは凄まじい速度で亀裂が放射状に入る。

人知を超えた速度、誰の目でも追従できないその速度で、シンは流れる水のように駆ける。

フィールの身代わりになって、自分は死ぬ。そうすれば、援軍も来るだろう。

シンは、死への恐怖を棄てた。

自分みたいな隷霊師半端物より、フィールみたいな隷霊師本物を残さねば。動く。フィールを突き飛ばし、首に刃が触れる。冷たい感触にぞくりとして、反射的に受け身を取ってしまう。

(でも、刃が首に触れた・・・死ぬんだ)

死を確信した笑みを、キリアは浮かべた――



「・・・あれ?死んでない・・・」

――何故か、シンは死んでいなかった。

「あれ?なんで?なんで僕の霊力マナが君を断ち切ってないの?」

完全な疑問形。キリアでさえもイレギュラー。

「え?それ霊力マナ主体?・・・なぁんだ、じゃあ死なないのも当然か」

心底納得がいったように、シンは言う。

「俺は特異霊力保持者イレギュラーマナ・キャリア。その中でも数少ない抵抗霊力レジストマナの使い手だぞ?」

特異霊力保持者イレギュラーマナ・キャリア。体内にため込むマナの性質が他のそれとは異なる人間。精霊師や隷霊師の5000人に一人居ると言われている。

そして、その中でも珍しい属性、抵抗霊力レジストマナ

敵対する霊力に触れると相手の霊力を霧散させ、繋がり、別物質や形状変化した霊力を分解させる力を持つ。

「成る程ね、まだ抵抗はできるって訳か・・・上等だ、やってやろうじゃねぇの」

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