Blackout

第15話 息切れ


どうして、こんなに息が続かないんだ。

なんで、こんなに苦しい状況なんだ。

そう思ったのはいつぶりだろうか。思えば一週間前のあいつと戦って気絶した時だって、こんなにしんどい思いはしなかった。

じゃあ、なんで。


それは、俺の心が壊れかけたから。




「くっそ、またか!!」

事務所にクロウの叫び声が響く。

「どうしました?ボス」

シンの問いかけ。一週間の休暇(クロウが無理矢理休ませた)から明けたシンは元気いっぱいだった。

「あぁいや、『快楽殺人鬼』の犯行がまた起きたってだけだ」

その通称に聞き覚えがあった。シンは詳しく聞いてみた。

「三千人殺しの男、『一撃殺人』の異名さえ得た奴だよ。何でも、首に刃が触れれば確実に殺せる『概念』を持った奴らしい」

何て恐ろしい概念だ、シンは身震いする。

「そして何より、指名手配の理由はその狂気性だな。殺すのが楽しくて楽しくてたまらないんだとよ」

「・・・罪無き人がそれで傷つけられるのは許せません」

「でも、お前らなら間違い無く死ぬな。俺でも勝てるかどうかだ・・・さぁ、依頼もある。お前ら同期四人に直接的な依頼だ。頑張ってこい」




「という訳で依頼だ、気ぃ引き締めて行くぞ!!」

「おう!!」

行き先は第一区の郊外。閑静な住宅街の一角にある広場が依頼人との待ち合わせ場所だ。

「やぁ、初めまして。僕が依頼人のキリア・ザクリスです」

長身の優しげな面持ちの男だった。

「こちらこそ、ご丁寧に。Re:Leより来ました、シン・グレースと申します」

静かに。正直な事を言うと働くのなんて面倒だとは思うが、依頼が来たと言われたなら従うしかあるまい。

キリアが右手を差し出してきた。握手を求めるその手を握り返そうとシンが同じように右手を差し出す。

刹那、首の後ろにピリッとした嫌な感じが訪れる。

反射的にに霊力を集め、刃を生む。

黒い短剣がシンの首筋を狙っていた。

「・・・やっぱりな、『快楽殺人鬼』」

「バレてた?それは残念」

気の良い笑顔を浮かべ、友達に話しかけるような口調で平然と殺意を解き放つキリア。

「シン、確認終わった!!」

「どこもかしこも、だ」

「手遅れ、なの・・・」

先にある事を伝えておいた三人の言葉を聞く。

「ここらへんの住宅の住民は皆殺し・・・全員首と胴が泣き別れだ」

やはり怪しいと思った訳だ、シンは内心で呟く。

(ここに来た時、人の気配が無かった・・・そして、ボスの「またか」は大量殺害の合図だった訳だ)

シンの考察は概ね当たり、悲しい事にかの殺人鬼に遭遇エンカウントした訳だ。

「・・・全員、生きる事だけ考えろ。もし危険なら、俺が前に出る。俺が死んだら即帰還しろ、いいな?」

三人の目には怯えの色が浮かんでいた。

しかし、誰かがらねば。決意を灯し、向き直る。

優しくて凶悪な笑みを浮かべたキリアが、こちらへ向けて駆けだした。


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