第14話 平等な死

一撃。

刃同士が擦れ合い、鋏のように断ち切る一撃。胴を両断する手応えを感じる。


攻撃の反動で二、三歩後ろによろめく。

膝をついてモトナリの方を見る。

「・・・よくも、やってくれたな」

土埃とこれまでの傷がここに来て現われたか、体を切り傷と血、土埃に塗れ、左肩は繋がってるのかぶら下がってるか分からないうえ、右目まで潰れている。

しかしそれでも生きている。

(おかしい、なんで、胴を両断した筈なのに・・・!?)

底知れない不安が脳裏を過ぎり、圧倒的な殺意と恐怖がこみ上げ、何かが足下から崩れ去るような感覚に陥る。

「私の『遅延』は、威力が強いほど、遅れさせられる・・・強ければ、結果だって、な・・・」

(結果遅延もできんのかよ!?まだ、だ・・・立って、動かないと・・・)

立とうとした瞬間だった。

シンの意識は突如として切れ、ばたりと地面に倒れ込んでしまう。

「私をここまで酷い姿にしてくれるとは・・・許さない」

右手の刀を天高く掲げ、首を斬ろうと振りおろす。



瞬間だった。

手鎌が回転しながら飛来し、刀にぶつかり押し上げられる。

手鎌は元来た方向へと飛んでいく。

屋根の上から現われたのは、彼だった。

「おうおううちの組員に何しようとしてんだ?」

そう、クロウである。シンの身に何かあるのでは遅いと思う彼は密かにシンの後を付けていた。この道約20年のベテランにとって尾行なんて生易しいものである。

「お前も、邪魔する、のか・・?ならば、ころす」

刀を構えながら走るモトナリ。対するクロウは手鎌を一個投擲しただけ。

刀に手鎌がぶつかり、そこを起点として円を描いて動く手鎌。

三周回ってクロウの手元に戻り、モトナリはバランスを崩す。

「・・・こりゃあ、シンもやられるな」

腰に付けていた残り3つの手鎌を合わせ、四つ同時に中空へ投げる。

途端、クロウの腕から霊力が迸り一つの大鎌へと変化する。


クロウの精霊の性質は<合体者ジョインナー>だ。様々な物を組み合わせる希有な性質の霊力を持つ。特にクロウは同じ物同士を合わせ、より強い一つを生み出す事に長けていた。


「<隷属の義務・・・はいいから一緒に戦って>」

クロウはあり得ない詠唱を行う。

本来、隷霊師は隷霊に対し高圧的、もしくは命令口調で言葉を発する。しかし、クロウのそれは、友達に対して話しかけるような口調。

モトナリさえ驚きの表情を浮かべる。

「さぁ、やろう・・・<死神リッパー>」

モトナリは瞬きをした。薄目を開けた時にはクロウの鎌が喉元に迫っていた。

後退し、体勢を立て直す。そのつもりだった。


なぜか、モトナリは地に臥せっていた。首と両腕は板で拘束され、身動きがとれない。目の動きだけで上を見る。

モトナリは理解した。

上にある大鎌で、自分の首を斬るつもりなのだ。断頭台ギロチンにかけられているのだ。

(大丈夫、私は遅延できる)

「まさか攻撃を遅らせよう、なんて思ってるか?」

モトナリの目が見開かれる。思考を読まれたか?焦燥が体を駆け巡る。

・・・俺の隷霊は<死神>だぞ?」

真逆まさか。書物で見た記憶が鮮明にモトナリの脳裏に鮮明に映し出される。

「俺は、誰しもに平等な死を与える・・終わりだよ」

ここでモトナリは悟った。ここで死ぬ。何も出来ずただ死ぬ。汗と血が頬を伝い、口の中に何かがこみ上げてくる。

「・・・刑法五十二条及び特例処刑法条項の3、認可精霊師集団における緊急的な刑罰の実施に基づき貴様を死刑に処す・・・異論は認めん」

モトナリは必死に叫び、抵抗する。

「い、いやだ!!おれは、しにたくない!!しねない!!!しにた」

言葉が途切れる。落とされた鎌が首を断ち、一つの生命を奪い去った。


「・・・よくがんばったな、シン」

シンの体は軽く、簡単に持ち上がった。

明日は有給をやろう、休んでおけ。

そう思うクロウだった。

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