第13話 絶対値、機動力、QED
(遊撃なら間違いなく威力の絶対値はある。なら、定数hは距離四百メートルでの威力、衝撃の強さが値となる)
考えると同時、赤黒が視界を横切る。反射神経のみで腕を持ち上げ、左手の無名武器で攻撃を受ける。
(衝撃値、約10㎏!!定数hは求まった!)
さらなる値iを求めようとするシン、しかしその目ははっきりと捉えてしまった。自分が進む方向に赤黒が存在する事に。
まず間違い無くティルの鎖だけでは防御も回避もできない。かといって防げるほどの筋力も無い。
詰み、か?シンの頭を不吉な言葉がよぎる。
(否、まだ諦めるな!!)
不屈の精神、いかなる場合であろうと諦めない。その瞬間に、頭の中に左の剣の名が鮮明に浮かび上がる。
「伸ばせッ!!『ティルヴィング』、『グラム』ッ!!!」
ティルの灰青色の刀身から鎖が、グラムの深蒼の刀身から平な布が伸びる。裏路地に張り巡らされた配管に巻き付き、モトナリを超えた高さで宙を舞う。
必死で息を吸い、霊力を取り込む。
(危ねえッ!!うおおお、この距離で、ぶちかませェ!!!)
指先から霊力を放出する。上空一万メートルまで届いた霊力は刃へと変貌を遂げ、地上へと降り注ぐ。
「<
霊力と刃の奔流。捌くなんて生易しい事では済ませない無慈悲な一撃がモトナリに降り注ぐ。
荒い息をしながら地上へと降り立つ。
傷だらけの路上には、すこし苦い顔をしたモトナリが立っていた。
「げほっ・・・なかなかの一撃だな、賞賛に値する」
シンは内心毒づきながら引き下がる。
(畜生、あんだけの威力ぶち込んでも遅れさせるか・・・)
でも、十分だ。シンには十分すぎる情報を得た。
「く、くく、くくく・・・!!!」
「・・・何がおかしい?」
怒りと疑念に満ちた声でモトナリが問う。
「あぁいや・・・定数zまで求まり、俺の機動力、貴様の絶対値さえ求まった・・・」
周囲の霊力を吸い、歪な感情を形作る。
「
片翼が生まれる。<
思考が加速する。道筋が視界に浮かぶ。
限界を超えた速度で駆ける。視界に赤黒が横切り、居合いが飛んで来る。右に跳び、左頬に切り傷が付く。気にせずに突貫する。
(ここで決めないと、俺が持たないッ!!走れ、走れ!!)
シンの額には汗が浮かび、筋肉は強ばる。
限界が近かった。霊力も薄く、体力も限界。慣れない二刀流に転換した為体力も多く要する。
居合いがさらに放たれる。左肩が付け根から深く斬られ、鮮血が吹き出る。傷口に汗が染み、痛みが全身を支配する。
それでも、やらねば。シンは、確固たる意思を胸に剣を握る。
声にならない叫びを上げ、固まる脚を懸命に動かし、駆ける。
「死ねぇぇええッ!!!<
刃を向けあい、己の全霊を、ぶち込む――――!!
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