第18話 幼い頃から傍に居た神様

「主!!」


 ベッドで眠っていたはずの主が、トイレで少し目を離した隙に姿を消してしまった。

 一体、一体何処へ……!!


「ルイス……?そんなに大声出したらお嬢様が「シルア、主が姿を晦ませました!!」

「……。……ええ!?こ、痕跡は!?」

「あ、主の髪くらいしか……💦」

「貸して。」


 ルーザは拾った全てを呑み込まんばかりに黒い髪に魔力を貯める。

 い、一体何を―――


「……森。森が、見える。」

「も、森……?」

「そ、そういえばこの国の裏手に大きな森が……💦」

「……周りに白い狐?みたいな人が沢山居て、ご主人様を何処かに誘導してる。……何で、抵抗しないんだ……?」

「案内は?」

「任せてくれ。」

「ルーナ、ユルフ。2人はここで。」




 ……やっと、意識がはっきりしてきた。今……何処に、居る……?


『おはよう、愛し子。外の世界は、生き辛いでしょう?』

「……生き、辛い。」

『こっちへおいで。いつまでも1人で居るのは辛いでしょう?』


 とても綺麗な毛並みを持つ大きな九尾。それに包まれていると酷く落ち着いてしまう。

 ここに来る時に着ていたコートは……?うっかり指紋が残らないように嵌めていた手袋は……?

 九尾が優しい声で鳴き、甘えてくる。

 ……あれ、そもそもあの竜の国には何をしに来たんだったか……?


『おいで、おいで。』


 知らない魔力が流れてくる。

 いつもは嫌なはずなのに、どうしてこんなに安心するんだろうか。このまま、眠って―――


「お嬢様!!」

「しる、あ……?」

「主、ご無事ですか!?」

「るい、す……。」


 ……あれ、何で2人の名前を知ってるんだ?


「……あの九尾がご主人様の記憶を吸ってる!!」


 記憶……?


『……愚かですね。こんな記憶、ない方がこの子の為です。』

「お前は……私の、何……?」

『私は貴方の守り神ですよ。』

「守り、神……。」

『あの愚かな竜人達はそれを理解しておらず、長年苦しい想いをさせてしまってごめんなさい。でも、もう大丈夫。ずっと、ずっと傍に居るから。』

「……傍。」

「お嬢様、しっかりして下さい!!」

「貴方は支配されるのがお嫌いな方でしょう!?」

「姉さん!!」

「カルゼ……グルージ……?」

『……竜人が何の用だ。』


 九尾の毛が少し逆立ち、苛立っているのが分かる。

 何故かそれが凄く嫌で、重たい腕を何とか動かしてその毛を撫でる。


「!」

「……帰り、たい。ここは……私の居場所じゃ、ない。」


 よく……分からない、けど。ここじゃない……。ここじゃ、ないんだ……。


『……良いの?』

「……不満なら、着いてくれば……良い。私は……私には……帰る場所、が……あるんだ。」

「主!!」


 九尾がそっと私を降ろし、シルアが抱え上げてくれる。

 ……眠たい。でも、あの九尾の所よりシルアの所の方が、落ち着くのは何でだ……?


「お嬢様!!」

「……家……。私の家は……何処、だっけ……?」

「……大丈夫です、お嬢様。私が、私達がちゃんと送り届けます。本当に、大丈夫ですから。」

「……そこの「主が望むのであれば、構いませんよ。」


 私は再び酷い睡魔に手を引かれ、静かに眠りに落ちた。

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