第12話 忌々しい血を分けた家族

 嗚呼……うるさい、うるさい、うるさい、うるさい、うるさい。

 森がザワザワと音を立て、不快な言葉を報告してくる。

 『奴が来た。』『森を荒らしに来た。』『森を燃やしに来た。』と。

 血も、心も、全てが逆撫でされ、マグマのように煮えくり返っている。


「嗚呼……。あ”あ”……!!」


 玄関まで行き、扉を開けてもう屋敷の手前まで来ている竜人を睨みつける。


「何の用だ、グラフギール……!!」

「おや、これはこれは。こんなちんけな森の覇者、カルストゥーラではないか。ご機嫌麗しゅう。」

「残念だが、私は不機嫌極まる。貴様等のような命令がなければ動けんような駒である竜人が何故ここへ来た。」

「我等が王、竜神 カルゼグルージ=“ルエンティク”様が貴方様にお会いしたいと。それ故、“ご案内を”。」

「……やあ、随分と久々だね。姉さん。」


 グラフギールの後ろから優しそうな目だが冷たさを纏った目をした男、カルゼグルージが声を掛けてくる。

 ……チッ。


「二度と顔を見たくなかったな。」

「そんな事言わないでよ、姉さん。全く酷いなぁ。」

「で、一体何の用だ。国にでも帰って下らないお遊びでもしてると良い。」

「政治は遊びじゃないよ、姉さん。俺だって頑張ってるんだから。……父上と母上がね、先日バルハラへ旅立たれたんだよ。ほら、もう姉さんを馬鹿にする人は居ない。あの国はもう俺の国。だから、帰っておいでよ。姉さんの事は俺が守るから。」

「私は貴様の加護など要らん。首輪を着けられ、ただ飼われるだけなど死んだ方がマシだ。何かを愛でたいだけならば、それ専用の奴隷でも攫ってくるが良い。」

「……姉さん。姉さんはこんな所が好きなのかい?俺は陽の当たる、明るい所が好きだよ。そして、平和も。」

「残念だったな、私は暗過ぎず、明る過ぎんここが大好きだ。陽の光は当たらん癖にちゃんとクリアな視界を保て、とても静かで時折やってくる者共を脅し、時には喰らったり弄ぶのが大好きだ。そして、戦争が好きだ。戦争が起きれば、私達が食べる物も増えるし、救いを求めてここにやってくる者も増える。……貴様には、一生理解出来んだろうさ。」

「そうだね、姉さん。俺は争いはあまり好きじゃないから一生分かんないだろうね。……じゃあ……って、私達?仲間が居るの?」

「何だ、1人で居ろと?」

「そ、そうじゃないよ💦姉さん、国内じゃいつも1人だったから心配してて💦」

「お前の言葉程信用出来ん物はないな。」

「姉さん、これあげる。」


 カルゼグルージは綺麗な白い封筒を渡してくる。それにはカルゼグルージの血で書かれた署名もある。


「……これは?」

「招待状だよ。4日後、俺達の国で祭りがあるんだ。竜王祭。憶えてるでしょ?ほら、新しい王を祝するお祝い。姉さん、それが大好きだったじゃない。綺麗で、幻想的で、吸い込まれそうって!この封筒に入ってるカードと徽章を身に着けてたら俺の権限で全部無料だし、何処にでも入れるよ!あ、ちゃんと後でお金払わないといけないからレシートはちゃんと貰って、後で提出してね。じゃあ、来てくれると信じてるよ。それと……姉さん。」


 カルゼグルージはとても寂しそうだが、優しい顔をしながら私の両手を救い上げ、撫でるように握ってくる。


「……俺は、何があっても姉さんの味方だから。辛かったら帰っておいで。もし祭りで姉さんに危害を加える奴が居たら言ってね。ちゃんと、殺すから。あ……姉さんが自分で殺したいって言うなら俺はそれで良いと思ってるけどちゃんと報告……って言うか、許可だけ取りに来てね。いや、絶対許可するけど。それでも、知らないうちに居なくなってたら逃げたと思っちゃうから、さ。だから姉さんは「分かった分かった。……気が向けば見に行ってやる。」

「っ!!本当っ!?ありがとう、姉さん!」

「……それと。どうしてもこの森に来たいなら飛んでくるな。森の木々を揺らすな。……その音が非常に不愉快だ。」

「ご、ごめんね💦う、うん💦次からは近くまで飛んできて、そこから屋敷まで歩いていくね💦ご、ごめんなさい💦」


 これだから嫌いなんだ、このヤンデレ野郎が。


「……そうだ。ねえ、姉さん。」


 カルゼグルージが私に更に近付き、耳元で囁いてくる。


「……あの護衛、今回一緒に来たあの護衛。姉さんに酷い事言わなかった?」

「……もう慣れた。」

「……!!やっぱり、姉さんに酷い事言ったんだね!?チッ……。姉さんはこの世で1番偉大ない人なのに、それが分からないなんて。……ありがとう、姉さん。じゃあ、またね。待ってるから。」


 カルゼグルージは私から離れ、姿を消した。

 ……ハァ。


「……ルイス、シルア。」

「「は、はい!」」


 ……もう、疲れた。


「誰も、中に入れるな。」


 今は全てが煩わしい。




「……なんて、思っていたのに。」


 ルーナに連れられ、着いた先は件のハイエルフの居る部屋。

 ハイエルフはいつの間には目を覚ましていて、着ている服を見て恥ずかしそうにしながら此方を睨んでいる。

 ……うっぜぇな。私の趣味じゃないっての。


「……な、何を……する気ですか。」

「お前の魂の決断を聞きに来た。」

「魂の……決断?」

「お前、私の駒になる気はないか?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る