第186話 スライムはおやつに入りますか?
芋虫の魔物が作り出したフェアリーサークル、その調査の結果、フェアリーサークルは
ホットスポットが、周辺と比べて魔素濃度が高く、かつその状態が比較的長期間続く場所であると定義すると、調査を行ったフェアリーサークルは、正にそのものである。
スライムまで生まれているのが確認されたのだから、ホットスポットである、と言い切ってしまって問題ないだろう。
ただ、これが全てのフェアリーサークルがそうなのか、たまたまここがそうなのかは不明だ。
更に調査を重ねる必要があるだろう。
「しかし、ホットスポットねぇ……。分かってるのは、魔素濃度が高いっていうことと、スライムが生まれるということ。あと、薬草が生えること。それと、魔物が集まって来やすい」
「
芋虫の魔物が何らかの作用を働かせて、ホットスポットを作り出しているのか。
それとも、蝶の魔物がホットスポットを探し出し、そこに卵を産み付けているのか。
この調査を行うためには、フェアリーサークル以外のホットスポットを探し出し、そこに蝶の魔物が来るかどうかを観測するしか無いだろう。
「ふーむ。興味深い話ではあるけど、必須の調査ではないかしらね……。魔素計が量産できるようになったら試してもいいけどさ」
「
フェアリーサークルの周囲500m程度を柵で囲い、ホットスポットの調査を行うという方針を立て、現地戦略AIの<コスモス>へ指示を出す。
指示を受けた<コスモス>は、早速多脚戦車群を輸送機に詰め込み、地上戦力を空輸する準備を始めた。
「数日中には囲いが完成するでしょう。その後、危険な野生動物、脅威生物が居ないことを確認し、調査設備を建設します」
「ホットスポットって短期間で消えることもあるみたいだけど、兆候はあるのかしらね? 魔素計をずっと置いておくわけにもいかないでしょ?」
「
人類の足でこの距離を移動するには、最低でも2日、下手をすると3日は掛かるかもしれない。整地された道はなく、起伏のある森林地帯。当然目印はないため、現地に辿り着けるかどうかは未知数、博打である。
そして、それを無視して空から到達できるのだから、<ザ・ツリー>の航空戦力は反則もいいところだ。
「今のところ、魔の森の上空で何らかの脅威生物との遭遇はありません。ワイバーンも、他の個体は確認されている縄張りまで500km以上の距離があります。当面は、制空権は<ザ・ツリー>が確保した状態となるでしょう」
正確には、少なくとも蝶の魔物は確認されている。
ただ、それでも<ザ・ツリー>の運用する制空戦闘機の半分程度の大きさであり、確認した限りは飛行速度も非常に遅い。
あるいは、どこかにロック鳥のようなファンタジー代表の巨鳥などが生息している可能性はあるが、つい最近までワイバーンの縄張りのすぐ側であったこの周辺には居ないだろうというのがアサヒの予想である。
ワイバーンが生態系の頂点であれば、巨大な飛行型の魔物は生存競争に負けて淘汰されているはずだ、と。
尤もな主張であるため、<ザ・ツリー>勢力は、ノースエンドシティ上空、近郊においてはほぼ無制限に航空機械を使用している状況である。
もちろん、電波に反応するという性質は理解しているため、高空でのレーダー使用は控えているのだが。
そんな状況報告を続けていると。
「
「はあ?」
そんな報告が、<リンゴ>から齎された。
◇◇◇◇
「推定体重、1,840kg。体長5m。イノシシに似た生物です」
「すごっ。木をなぎ倒して走るとか、ほんとにできるのね」
木々の間を走る
それが目指すのは、調査中のフェアリーサークル。
「魔素濃度を探知できるのかもしれません。まっすぐにフェアリーサークルへ向かっています」
魔素を探知している。
もしそれができるのであれば、体内ないし体外に、魔素探知可能な何らかの器官があるということだ。
そうすると、新たな魔素計として使用可能、かもしれない。
「てかあれ、魔物……脅威生物よね」
「
フォレストボアは、危険度が高い魔物として、冒険者間で共有されている。
その皮膚は硬く、通常の武器では傷をつけることができない。
全身を覆う筋肉により、少々の打撃は跳ね返す。
どんなに逃げても、匂いを伝って追いかけてくる。
木々を薙ぎ倒すほどの脚力があり、走っても逃げられない。
雑食で、木の皮から人間まで何でも食べる。
「でかい、はやい、強いってことね。確かに、生身だと脅威よね」
「多少腕が立つ程度ではミンチにされるとか。刺突、あるいは斬撃に特化した武器で、一気に深い傷を与えなければまず倒せないとのことです」
「えー。うーん……。
以前アフラーシア王都に居たような人外であれば、正面から斬り倒すなんて芸当も、可能なのかもしれない。
そして、日々魔の森に籠もっている冒険者達の中にも、そういった人外が混じっている、というのは彼女も知ってはいたが。
「倒したとしても、大きすぎて解体もままならず、無駄に命の危険があるとかで、不人気な脅威生物のようです。森の外縁部に出没した際は、人を集めることができるので、お祭りになることもあるようですが」
外縁部で
「場所が良ければ、街まで運搬することもあるようですね」
まあ、そんな祭りは数年に1度程度しか無いようであるが。
「フォレストボアが、フェアリーサークルへ到達しました」
ドスドスと地面を揺らしつつ走ってきた巨猪は、木々をなぎ倒してフェアリーサークル内に侵入する。
「……スライムを狙っていますね」
そして、そのまま地面に鼻を近付け、フンフンと嗅ぎまわりながら移動し始めた。
前情報により、脅威生物、すなわち魔物は、スライムを食べるないし潰す、という行動を取ることは知っている。
実際に、その状況を記録するのはこれが初めてになるが。
「お、食べてる」
地面をうごうごと蠢くスライムを、フォレストボアは周囲の植物ごと豪快に咀嚼していく。
スライムは、脅威生物の食糧になるらしい。
「スライムの研究もできるかと思ったけど、これだと難しいかしら?」
「討伐すれば研究素材も増えますが」
あと10分もすれば、制圧用の多脚戦車一個小隊が空輸されてくる。
体長、体重でも遜色ない巨大な戦闘機械が、実に6機。
特殊な攻撃方法を持っているわけではないフォレストボアであれば、問題なく討伐可能だろう。なんなら、砲撃1発で仕留めることもできるはずだ。
「うーん、まあ、やっちゃうか……。護衛機で砲撃できる?」
「
「フラグにならないといいけど……」
そうして10分後。
上空に到達した護衛機が放った徹甲弾により、フォレストボアは無事に討伐されたのだった。
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