第183話 フェアリーサークル
「
「お願いね、<リンゴ>」
魔の森の観測報告、ということで、アサヒを除く上位AI6名と
アサヒはテレク港街で何かをやっているらしい。
「情報解析はアカネが行っていますので、報告はアカネにさせますが、よろしいでしょうか?」
「もちろん、いいわよ。アカネ、お願いね」
「分かった」
「まず、ここ1ヶ月ほどで確認できたのが、アフラーシア連合王国周辺の魔の森上空で、ワイバーンの活動領域が変化していること」
映像解析より、複数のワイバーンの哨戒空域が日に日に変化していることが判明したということだ。
「先日討伐したワイバーンの縄張りが空白地帯になったため、隣接するワイバーンが進出しようとしていると推測される」
「なるほどねぇ……。まあ、あれだけ大きければ縄張りも相応に大きいわよね。移動速度も速いし」
想定では、ワイバーンないし大型の飛行生物の縄張りの変動は、少なくとも数ヶ月は続くとのことだ。これによる地上への影響は未知数だが、全く影響なしとはいかないだろう。
「それと、ここ数日で顕著に変わったのが、縄張りの空白地帯に発生したフェアリーサークル」
「フェアリーサークル?」
アカネが表示したのは、森の中に突如として現れた、円形の空白地帯。それが、複数個確認できる。
「2週間程度でこの円形空白地帯が発生する。他の森林地帯の確認をしたが、いくつか確認されたのは、全てワイバーンないし大型飛行生物同士の縄張りの境界周辺」
「ってことは、これは縄張り空白地帯になったから発生したって感じかしら?」
イブの言葉にアカネは頷き、別の画像を表示した。
「画像拡大してデジタル処理した。お姉様は虫は大丈夫?」
「む、虫? ……うーん、たぶん?」
その返答を確認し、荒い表示の画像が鮮明なものに切り替わる。
映されたのは、緑色をベースとしたイモムシだ。茶色をアクセントにし、森の中にうまく溶け込んでいるようである。
「……。え、でかくない?」
「そう。計算では、体長およそ6m。この虫が、森の木々を食害することでこのフェアリーサークルが発生している」
超巨大イモムシによる食害。確かに、体長6mもあるイモムシであれば、太い幹も物ともせずに全て腹に収める事は可能だろう。
「そして、これがこの芋虫が羽化した姿。体長10mほどの、蝶のような脅威生物」
今度は、巨大な蝶が、羽ばたきながら森林上空を飛ぶ映像だ。衛星から撮影されたもののため、大きさの基準となるものが無く分かりにくいが、間違いなく大きいだろう。
「大型飛行生物の縄張り内では捕食対象になっていると考えられる。縄張り外であれば、1ヶ月もかからず成体になる。この個体は、空白地帯で羽化したもの。この一帯にワイバーンが進出するまで数ヶ月掛かると思われるため、この脅威生物が大繁殖する可能性がある」
1匹のイモムシが食害するフェアリーサークルの半径は、およそ100m程度。この巨体であれば、天敵は少ないだろう。
1匹の成体が何個卵を生むかは分からないが、一般的な蝶と同じであれば、数百個が一度に産卵されることになる。
天敵が居ない状態でそんなことになれば、付近一帯が一気に禿山に変わってしまうかもしれない。
「うーん……。これって、生態破壊の第一歩になるのかしら?」
「分からない。この脅威生物が目に見えて増えることで、ワイバーンの進出速度が上がることも考えられる。そうすると、狩り尽くされて元に戻るかもしれない。餌が増えることで、ワイバーンが繁殖する可能性もある。データ不足で予測できない」
現在、<ザ・ツリー>はアフラーシア連合王国最北端都市、ノースエンドシティを拠点に魔の森の調査を行おうとしている。
その調査行に影響が出るのであれば、何らかの手を打たなければいけないだろう。
「上空支援を即座に投入できる態勢にしている。大型飛行生物の警戒範囲に入らないよう、低空を飛ぶ必要がある。ダクテッドファンを動力にした支援兵器も投入予定」
ワイバーンが電磁波を検知可能ということも判明しているため、迂闊にレーダー波を放出することができない。魔の森上空へ向けてのマイクロ波給電も避けるべきだ。
そのため、魔の森への派遣飛行機械は、全て化学反応式の動力を使用している。
内燃機械、ないし燃料電池だ。
燃料電池は航続距離が短くなる問題はあるが、静音性に優れている。
音による刺激にも気を付けなければならない。
「それと、地上部探索用機械も、現地のコスモスが設計製造している」
アカネが表示したのは、全長2m程度の多脚機械だ。移動用の4脚に、2腕のマニピュレーターを装備した、異形の機械。
頭部に当たる部分はなく、小型の胴体の下部から脚が、上部から腕が伸びている。
未整地の森林地帯の踏破に特化しているらしく、4脚2腕を器用に使いながら、木々の間をスルスルと進んでいく様子が映されていた。
「……。新手の魔物と間違われない? 大丈夫?」
「冒険者の活動域には近付かない。冒険者と共同する必要がある場合は、従来どおり
この4脚2腕機械の武装は、コイルガンと金属メイス。火薬式銃は音が大きいため使用しない。斧のような刃物も考えたが、結局、メンテナンス性と取り回しの容易さで打撃武器がチョイスされたようだ。
「とはいえ、マニュピレーターであれば今後武器を変更することも容易い。それと、バックパッカーに制御AIを乗せ、この機械は全て遠隔操作される想定。制御部分を外出しして、小型化・軽量化を行っている」
バックパッカーを中心に、複数台の子機を運用するという想定だ。
バックパッカーは道を作りながら進出し、子機で周囲の探索と安全確保を行っていくのである。
ちなみに、ここで言うバックパッカーは、ノースエンドシティで活動しているものに重武装を施したタイプである。
それに伴い全長も1mほど伸長しており、見た目も攻撃性が増している。
「それと、単純に人手を増やす、というか飯の種を潰さないという意味で、現地の冒険者への支援も行う予定」
ノースエンドシティに多数所属する、魔の森から資源を持ち帰る冒険者達。
<ザ・ツリー>は、彼らの生活基盤を脅かさないよう、慎重に探索事業を進めているのだ。
一応、冒険者達の知恵と経験を収集する、という目的もあるが。
「ある程度の奥地に、バックパッカーと
冒険者達の行動履歴から最適な地点を割り出し、前進拠点を設置。
ベースキャンプとして開放し、探索時間と距離を伸ばしていこうとしている。
「探索系ストラテジーゲームみたいで面白いわねぇ」
そして、イブの認識はそんなものだった。
とはいえ、ベースキャンプが設置されることで、冒険者達の行動範囲は飛躍的に広がることになるだろう。
これまでも、そういった構想が無い訳ではなかった。ただ、その拠点を維持する人員や装備の確保が難しかったのと、物資の運搬に限界があったため、実現できなかったのである。
実際、冒険者ギルドにこの計画を持ち込んだ際は、難色を示されたのだ。
一時的には可能だろうが、維持はできないと。
しかし、バックパッカーという装備、何より
常駐人員の選定も始めたとか。
「魔法の調査も捗るかしらねぇ」
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