第182話 アサヒはバラバラになった
<コスモス>はアルファ・クリサンサマムを使用し、ノースエンドシティでいくつかの魔道具を入手した。
もちろん、正規ルートである。
強引な方法はなるべく使用しないよう、<リンゴ>より下達されているのだ。
まず、冒険者ギルドが確保していたもの。
魔素計、
いずれも、冒険者向けに、必要に応じて提供または貸与、売却を行うために保管されていたものだ。
緊急用の備蓄ということで渋られたものの、魔素計はともかくポーション類は使用期限もあり、むしろ放出できたほうが助かる類のものだ。
単なるポーズだろう。
更に、市場で確認したいくつかの武器、防具。
冒険者達が所有しているものもあるようだが、流石にそれは彼らの飯の種。そう簡単に手放すはずもなく、そもそもそこまでして入手する必要もないため、売っているものを探したのだ。
見た目に反し、非常に強靭な革張りの盾。
ただただ、穿つ、ということに特化した、牙の刺突剣。
そこそこの数が市場に出回っており、比較検証のため複数入手が可能なものが、とりあえずこの2種類であった。
魔素計は2個を確保。
これ以上は現在、素材の供給が滞っているため出せないらしい。
素材供給の話は、<パライゾ>による占領作戦の影響のため、仕方がない。遠征に出る冒険者が居ないからだ。
ただ、その問題もすぐに解消するだろう。
<パライゾ>は何の制限も設けていないし、何なら冒険者達の活動を積極的に支援する構えである。
ただ、薬に加工してしまうと数日中には消費する必要があるようだ。
どうも、効果はさておき、食品として普通に腐るらしい。
傷が治っても、腹を下したり病気になってしまっては意味がない。
これは
今は冒険者が動いていないため、結果、在庫がだぶついているというわけだ。
そんなポーション類をまとまった数入手できたため、<コスモス>はひとまず、それらを一部保管することにした。
そのまま置いておくもの、冷暗所、冷蔵庫、冷凍保管。
継続的に入手可能ということもあり、細かい比較検証は別途行うこととして、各魔道具の調査を開始したのだった。
◇◇◇◇
「お姉さま! アサヒは、アサヒは断固抗議します! 上申です! 直談判です!」
キイィィ! という擬音が聞こえそうなほど荒ぶったアサヒが、<ザ・ツリー>に戻ってきた。
「珍しいわね。アサヒがこっちに戻ってくるなんて」
ここ数ヶ月ほど、アサヒはテレク港街に籠もりきりであった。
よほど魔法の研究が楽しいらしい。
<リンゴ>からは、進捗は芳しくない、とは聞いているのだが。
「埒が明かないので、戻ってきたのです! もう、コスモスの分からず屋! いけず!」
「いけず?」
「意地が悪いという意味の単語です。どちらかというと、親しみを込めた言い方に分類されるかと」
「う、ううん? まあ、何かアサヒとコスモスがやりあってるっぽいのは分かったけど?」
力作業用のマニピュレーターにつままれ、そのまま連行される。
「ああああ<リンゴ>離して下さいまだお姉さまに言いたいことがあああ!」
「落ち着いた場所でね」
「アサヒ、折角戻ってきたんですからオーバーホールをしますよ」
「そんな暇無いですからちょっと<リンゴ>ほんとやめてちょっと離してああああ制御奪わないでお姉さまお姉さま助けて助けてくださいいいぃぃ!!」
この扱いの通り、アサヒと戦略AI<コスモス>がやりあっているとはいえ、どちらかというとまともに仕事を進めるコスモスにアサヒが食って掛かっているという状況である。
<リンゴ>もコスモスを支持しており、埒が明かないため
詳細は聞いていないが、イブも薄々状況を把握しており、アサヒの雑な扱いに文句をつけることはない。
「しっかりメンテナンスされてきなさい。話は後で聞くから」
「いやああぁぁ! お、お姉さまそんなごむたいなああああああ」
<ザ・ツリー>内の設備を使用した定期メンテナンスをサボりまくったのは、アサヒ自身である。恐らく、<リンゴ>の手により隅々まで検査と整備が行われるはずだ。
まあ、数ヶ月放置した程度でどうにかなるほどヤワな作りはしていない。
アサヒは、コストパフォーマンス度外視で製造された<ザ・ツリー>謹製の機械人形だ。
とはいえ、運用実績も乏しく<リンゴ>は定期的に点検整備を行いたかったのだが。
アサヒがあまりにも楽しそうに没頭していたため、
さすがにそろそろ、というタイミングでアサヒは戻ってきてしまったため、即座に<リンゴ>に捕獲されることになってしまった。
まあ、面倒なことはせず
一応、
そして、様式美のため、物理的な捕獲と相成ったのだ。
ちょっと暴れ過ぎなため、結局制御を奪われることになったのだが。イブの目の前なので、致し方ない。
そうして、朝一で<ザ・ツリー>に戻ってきたアサヒはそのまま整備ポッドに放り込まれ、8時間後にようやく解放されたのだった。
「ひどい目にあいました……」
「ちゃんとメンテされたんだから、いいじゃない」
ソファーで大好きな
「他の皆に比べて、私の扱いがおかしくないですか?」
「あら、自覚ないのかしらこの娘は?」
ぐりぐり、と頬を捏ねられ、アサヒはうにゃうにゃと声を漏らす。
「……うううう。それより聞いてくださいお姉さま……」
「はいはい。結局、何の話なのかしら?」
「コスモスが、コスモスが研究材料を渡してくれないのです……」
アサヒが語る所によると。
折角手に入れた魔素計という魔道具を、<コスモス>が研究用に後送してくれない、という話であった。
「あれの原理がわかれば、魔素とかいう謎の何かの研究が捗るはずなんです。2個もあるなら、徹底的に研究して、対比検証もできるし、コスモスは私にあれを渡すべきです」
「<リンゴ>?」
「
「酷いです<リンゴ>まで! あれが量産できれば、そんな調査なんてすぐ終わるでしょう!」
「量産可能確率が低すぎます。確実にできることから行うべきです」
それは、アサヒとコスモスの間で行われた議論の焼き直しなのだろう。
実際には直接メッセージでやり取りしているだろうから、数秒で結論が出たような言い争いなのだろうが。
「はいはい。アサヒの主張も、コスモスの主張も分かったわ。それと、アサヒが行き詰まってるってのも理解できてるわよ」
「お姉さまぁ!」
「でも、魔素計とかアサヒに渡すと壊しちゃうでしょ? だからダメよ」
「お姉さまぁ!?」
アサヒに勝ち目はなかった。
「あと、魔道具の今後の再入手可能性は?」
「
「そ。なら、アサヒはもうちょっと我慢しなさい。1、2ヶ月あればまた出てくるんじゃない?」
「ぐぬぬ……。お、お姉さまの命令には逆らえません……仕方ないですね……!」
「ほんとにこの子はどうしてこうなったのかしらねぇ……」
「面目次第もございません」
◇◇◇◇
魔道具の生産に必要なのは、魔法的効果を持った素材だ。
これまで、優秀な素材でありながらその体積と重量故にあまり流通していなかった魔法金属、そして魔法木材。
<パライゾ>の介入により、その回収効率が飛躍的に向上することになる。
素材となる魔物は、
どちらも、その巨体故に敬遠されがちだった魔物である。
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