第148話 天空の目
最終的に、16機の低軌道衛星と、6機の静止軌道GPS衛星の打ち上げに成功。
全ての衛星が、予定通りの軌道へ投入された。
また、低軌道プラットフォーム用の第2段ロケットが10機。これらも、問題なく軌道周回を行っている。
「低軌道プラットフォームは、順次ドッキングを行います。当面、これらの衛星群により周辺宙域を監視。何らかの脅威が無いかを走査します」
「宇宙空間にも気を配らないといけないとか、
とあるファンタジー狂からのアドバイスにより、たとえ宇宙空間であっても決して油断してはならない、と忠告されているのだ。
何でも、空間を操るような魔法の使い手であれば、平気で宇宙空間で活動できるらしい。
空間跳躍であったり重力操作であったり、何なら空中城も存在するかもしれない、と。
幸い、
どんなに荒唐無稽でも、その危険性は無視できないと判断したのだ。
「なんだかんだで、観測できてる宇宙空間なんてこっちの面だけだものね。反対側がどうなっているのかなんて、今まで見れなかったもの」
「
低軌道衛星は、既にこの惑星を何周も回っている。ただ、姿勢制御や各種観測装置、通信装置の
せいぜい、衛星軌道で周回してもすぐに撃墜されないということが分かった程度だろう。
「周回軌道の調整を行い、常時通信が可能なように衛星を配置します。
運用ノウハウが溜まり次第、その他の衛星も順次打ち上げましょう」
「オーケー。
打ち上げに使用したブービー1は、3機全てを現在オーバーホール中である。
連続打ち上げ自体は成功したが、それを実施したロケット本体に問題が発生していないか、詳細に調査を行っているのだ。
「
軌道投入機の運用も順調だ。
1回の打ち上げで投入できる質量は少ないものの、連続運用が可能なため、コスト面でいうとそれほど悪いものではない。
衛星軌道上の安全が確認できれば、さらなる改良、増産も実行できる。
「あと51時間ほどで、静止衛星も所定位置で運用を開始します。GPSが利用できるようになりますので、航空戦力が大幅に向上します」
「ミサイルの自律飛行が楽になるわねぇ」
GPSの無い状態では、巡航ミサイルの終末誘導は画像ないし搭載レーダーに頼る必要がある。そうなると、解像度も低い上、搭載コンピューターの能力制限もあり命中率が大幅に低下するのだ。
GPS誘導であれば、余計なセンサーや演算装置を省くことができるため、その分ミサイルの性能向上が可能である。
「うーん、しかし高度6万3000kmかあ……。とんでもない距離になるわねぇ……」
「
地球の静止軌道がおよそ35,600km程度ですので、27,400km以上外側になります。
ライブラリの情報がそのまま適用できませんでしたので、全てシミュレーション上で計算した値です。
実際の運用に問題が出ないかどうかは、稼働を始めるまで不明です」
本当は、実験用衛星などを使用して調査を終わらせてからのほうが、失敗はないだろう。
ただ、往還機による衛星打ち上げが比較的簡単に済んだということと、<ザ・コア>による演算で大半の問題をクリアすることができたため、ぶっつけ本番の打ち上げが行われたのだ。
この惑星は、地球と比べて直径、質量が共に大きく、重力加速度も相応な強さである。
そのため静止軌道は地球の2倍近くの距離であり、既存のライブラリ内の数値が使用できなかったのだ。
また、距離が離れるということは、それだけ高精度かつ強力な電波を発する必要があるということだ。軌道投入機から搭載衛星、GPS装置そのものも、全てが新規設計であり、宇宙空間での動作テストは行われていない。
「運用データが十分に集まった後、更に改良を行った衛星群の打ち上げを行いましょう」
「そうね。資源に余裕もあるし、常に更新していきましょう」
◇◇◇◇
早いというか、寝ていないのだが。
「さて、今日も絶好調です! はい、朝ごはんヨシ!」
アサヒのために用意された施設は、テレク港街内の<パライゾ>租借地に建てられている。発電機は非常用のものしか無いため、郊外の基地から電線が引っ張られていた。
マイクロ波給電でもいいのだが、固定施設間での送電に使うには、些かロスが大きいのだ。
そのため、電柱を立て、電線を這わすという原始的な方法で送電を行っている。
アサヒは、給糧装置から出てきたチューブ状の栄養剤を口に咥え、勢いよく吸い込んだ。
アサヒのボディそのものはほとんどが機械製のため、定期メンテナンスと電力のみで稼働する。
ただし、
そのため、定期的に流動食を摂取する必要がある。
「味も素っ気もないですね! 今の所気になりませんが、アサヒも人間と同じ食事で栄養補給できるようになりたいものです!」
身支度を整えながら、アサヒは愚痴をこぼす。
食事を行うための機能も、それに当たる。
味覚や嗅覚は十分に機能しているのだが、体内で消化するための内臓が殆ど無いのである。最低限、流動食または少量の菓子類を消化できる程度のものだ。
そのため、擬似生体機械の維持のため、1日に何度か、流動食を補給する必要がある。
「そういえば、小鳥は1日食べないと餓死するらしいですね。つまりアサヒは小鳥!」
馬鹿なことを言っていないでさっさと現場に行きなさい、と<リンゴ>から通信を飛ばされ、アサヒは
「おはよう、アサヒちゃん。今日も早いねぇ」
「おはようございますお婆さん! アサヒは今日も早いですよ!」
通行人に声を掛けられつつ、アサヒは仕事場に向かう。
仕事場というか、アサヒにとっては遊び場かもしれないが。
別に、<リンゴ>に
「魔法の仕組みの解明のためなのですから、趣味というのは失礼ですよね!」
「はあ、趣味……ですか」
アサヒの独り言に反応したのは、クーラヴィア・テレクから案内役にと紹介された、1人の女性。
彼女は基本的にアサヒと行動を共にし、各所との調整や連絡、テレク港街内での常識、不文律のフォローなどを行ってくれている。
「趣味ではなく、立派なお仕事です。お姉さまのために、アサヒは魔法について調べないといけないのです!」
「な、なるほど……。
はい、本日も演習場での見学は申請しています。
それと、今日はテレク商会お抱えの魔法使いを付けますので、質問などあればこの機会にどうぞ」
「ほほう! お抱えですか! それは期待大ですね、さすがリンナーリンちゃんですね!」
見た目も言動も、案内役の彼女より一回りは小さな少女。
しかし、リンナーリン・カタツは、このアサヒ・ザ・ツリーという少女が、只者ではないことを知っている。
何より、<パライゾ>艦隊の代表であるツヴァイ=リンゴすら使い走りにできるほどの権力者なのだ。その扱いも、慎重になろうというものだ。
今も、2人の
そして、権力者の割にやたらと気安いというのも、リンナーリンにとっては頭痛の種なのだが。
「本当は、送迎は馬車がよいのですが」
「馬車は1日で飽きました! 歩く方が新鮮な体験ができます、いいじゃないですか!」
警備上の理由で、できれば徒歩は止めてほしいのだが。
リンナーリンの受難は続く。
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