第121話 マシンガントーク・ガール
「お姉様、私が気になったのは
わざわざ全員を集めて
「へえ、何かアサヒは気になることがあったのね」
「はい、お姉様! ログを確認しましたが、追加の対応が必要かもしれないと思ったので、お姉様のご意見も聞きたくて!」
全員が集まっているものの、いつぞやのようにごちゃごちゃくっついているわけではなかった。
皆、わりと好き勝手やっている。
「それでですね、お姉様。あのテフェンが送ってきた思念波、テレパシー、ううん、
「ああ、あれねぇ。ログを解析したけど、結局意味不明ってことで片付けられた…」
「魔法的な作用と思いますので、原因不明は仕方ないんじゃないでしょうか? それよりも、その後の対応です! 現地AIには
「…ん? 必要なの、それ?」
「アサヒ。距離がこれだけ離れているのです。対策は不要でしょう。私はまだしも、アカネ達の
問題が発生したのは、<ザ・ツリー>から1,000km以上離れた場所である。念話の問題は現地AIにのみ発生しており、戦術リンク状態であった、
念話の効果範囲は限定的であり、少なくとも現地から距離のある戦略AIが影響されていないという事実から、<ザ・ツリー>常駐AIに対する
「そうですか。まあ、<リンゴ>であればそういう判断も…仕方ないのかも知れませんね」
そして、アサヒはその判断に、異議を唱えた。
「いいですか、<リンゴ>! 魔法とは、常識で測れない力です! 少なくとも、これまで観測された事象から考えると、単純に距離の問題とか、発生した現象の影響範囲だとか、そういう科学的根拠に基づく推測は危険です! 外れる可能性が高いです! 常に最悪を考える必要があります!」
「…続けなさい」
叫ぶアサヒの圧力に押され、僅かに身体をのけぞらせながら、<リンゴ>は続きを促す。
「なぜ現地周辺のAIにのみ影響が発生したのか? それを伝える対象を、<セルケト>が単に限定していただけかも知れません! 現場に出張っているユニットにのみ伝えようとしたからこそ、それだけで済んだのではないでしょうか? もし、あのテフェンが群れの女王、この場合は
「単に範囲外であったと考える方が、常識的です」
「常識! <リンゴ>は魔法に対して常識を当て嵌めるのですね! いえ、それはそうですね、<リンゴ>は間違っていません。間違っていないからこそ、それを是正するために私が育てられましたので!」
珍しく。本当に珍しく、<リンゴ>が顔を顰めた。
<リンゴ>が、誤った判断をしている可能性。それを指摘され、無意識に表情筋を動かしている。
実に、賢明な判断である。
「なぜこの可能性を無視しているのか不明ですが、テフェンは最初、一番最初に、自身の配下を偵察にやっています! そう、最初の交戦です! その後の空撮で、テフェンは遥か彼方に、それこそ地平線の彼方に居たというのは確認できていますので。つまり、テフェンは地平線という大きな壁を何らかの方法で乗り越え、配下の小
「直接通信ではなく、リレー通信を行っている可能性が高いと」
「可能性! いいですか、その可能性は、先日の念話事件によって距離の制約があると想定されたから、そこで初めて出てきたものです! 順番が逆転していませんか? 可能性が高いという意味では間違っていませんが、その可能性は科学的根拠によるものです! 魔法を想定するならば、最悪を想定してください!」
そしてアサヒの物言いは、確かに的を射ていた。
魔法の想定に、科学を元にした根拠を使ってはいけない。言われてみればその通りだ。
<リンゴ>の思考には、科学知識をベースとするバイアスが掛かっている。これは、科学技術によって支えられる<ザ・ツリー>の統括AIであるという性質上、仕方のないことだ。
経験が圧倒的に足りていない、ということでもあるのだが。
そして、それを危惧しているからこそ、
「テフェン、ひいては<セルケト>は、かなりの長距離に渡る通信手段を持っている、と考えなければいけません。最悪を想定するのです! そうすると、<セルケト>に目を付けられる可能性のある現地戦略AIは当然、データリンクしている<リンゴ>やお姉様方も危ないかも知れません!」
<リンゴ>の内心はどうあれ、アサヒの意見は聞くべきだった。
とはいえ、
そこで、<リンゴ>が<ザ・コア>内で有り余るリソースを利用し、外付けで監視を行うことにした。これで、少なくとも<ザ・ツリー>内にとどまる限り、彼女らも常時監査対象となる。
「魔法がデータリンクを通して効果を及ぼすとか、いかにもじゃありません? この世界の魔法がある程度体系立ったものなのか、それとも概念的なものなのかはまだ分かりませんが、警戒して損はないでしょう!」
「アサヒはたいがい早口ねぇ。もうちょっと落ち着きなさいよ」
「はい! お姉様!」
「返事はいいんだけどねぇ…」
アサヒは、経験がまだ浅いためか、それとも既にそういう性格として固定してしまっているかは不明だが、自分の専門分野については怒涛の如く喋りまくるという厄介なオタクになっていたのである。
「私は、あまり意味のある処置だとは思えませんが」
しかし、この対応は<リンゴ>のお気に召さないらしかった。まあ、内心、
「何を寝ぼけたこと言っているのですか、<リンゴ>! こと、守りに於いては全力以上を出すのが当然でしょう! 万が一でも私達の誰かが乗っ取られでもしたら、
「<ザ・コア>がリアルタイムに暗号化している
「同じ科学技術を持つ相手に対しては、です! 演算結果が正しくとも、そもそも入力が間違っていれば答えも間違いです! <リンゴ>の
「入力変数が不足しているという意見には賛同できません。現時点で観測された、あらゆる事象を網羅しています。その結果、<ザ・ツリー>に対する間接的・直接的被害が発生する可能性はほぼゼロと…」
「<リンゴ>、あなたは何を拒否しているのですか! そもそも、ほぼゼロだから対策不要と判断するなど、統括AIらしくもない物言いですね! 私達は、絶対にお姉様を守らなければならないのです! 絶対に、です! その為に消費するリソースは全て必要経費、どんなに可能性が低くとも、その対策を取らないなど有り得ません! 現に、<リンゴ>は<ザ・ツリー>に隕石対策の大型砲を設置していますが、隕石によってお姉様に被害が及ぶ可能性をどう考えているのですか! たとえ1万回の生を繰り返しても、隕石で死亡する可能性は低いでしょう!」
まあ、確かに。
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