第109話 「交渉は受け付けない」
「海上レーダー、動作正常です」
「
「光学観測器との同調完了しました」
「キャリブレーション完了。荒天時の動作チェックは保留事項」
「<ザ・ツリー>との戦術リンクは良好です。同じく、荒天時の動作チェックは保留事項です」
9隻の艦隊が、輪形陣を組んで航行を続けている。
各種観測器、通信装置の最終チェック。アルファ級を使用したレーダー精度確認など、ドック内ではできなかったテスト項目の消化をおこなっている最中だ。
「順調順調。兵器テストは?」
「
旗艦パナス搭載の戦術AIによる、統制射撃を予定しています。
各艦の個別動作テストは全て完了済。
今後は、週に1度程度、各主砲の射撃テストを定期的に実施予定です」
「なるほど。また海賊でも出てくればいい的になるんだけど…」
「海賊は恐らく、交易の途絶えたこの海域から撤退したか、あるいは全滅したものと推測します。
レプイタリ王国周辺は、海軍が定期巡回しているため近づかないでしょう。
恐らく、
現在、北大陸は、西はレプイタリ王国、東はレブレスタまでしか観測できていない。
観測機として使用していた
周辺の最大国家と目されるレプイタリ王国の国力がほぼ割れた現在、ある程度強行的に偵察を行ってもいいかもしれない。
「レプイタリ王国ではどれだけ抵抗されるか分からないけど、まあしゃーなしか…。標的艦を準備するのも勿体ないしねぇ…」
「
テスト結果は良好です。
戦略AI、戦術AI共にこれまでの行動経験データのフィードバックも行っておりますので、それほど心配する必要はないでしょう。
最悪のシナリオでは、全艦の自爆後、第2要塞から派遣する航空機による空爆も想定しています。
この場合は、アフラーシア連合王国の征服を後回しにし、レプイタリ王国を占領することになりますが」
「本当に最悪のパターンのやつじゃない。そうならないことを祈るわね…。まあ、その場合でも例の首都周辺の資源を接収するだけで黒字になるっていうんだから、許容範囲内だけど…」
資源収支だけで見れば、この最悪のシナリオでも<ザ・ツリー>に不都合はないのだ。
ただ、そこまですると今後の世界との付き合い方は難しくなるだろう。結果だけ見れば、覇権国家の首都を問答無用で焼き払った、極悪武装集団になってしまう。
「今の所、予測不能となる非科学的な技術の観測は許容範囲内です。
レプイタリ王国の技術発展は蒸気機関によるところが大きいですので、ライブラリに記録されていた地球の歴史と大きく外れるところがありません。
今後の反応の予測精度は、かなり高めです」
この世界の
幸いというか何というか、北大陸の魔法技術の発展は限定的と判断している。
科学技術で十分に代替可能なレベルであり、<リンゴ>の予測を超えるものではない。
「ただ、各種の文献、娯楽系の観劇などでは偉大な魔法使いの為した偉業、英雄と呼ばれる個人が国を滅ぼした伝説などが確認できます。神話というには身近過ぎますし、魔物という生物群の観測結果もありますので、注意するに越したことはありません」
周辺国家の観測結果では、魔法は恐れる必要はないと判断できる。しかし、<レイン・クロイン>や<セルケト>のような、常識を覆す強大な生物が存在していることは事実である。
そのため<リンゴ>は、接触している国家の魔法技術の発展がたまたま低いだけだと判断していた。
「まあ、その辺は出たとこ勝負よねぇ。言っても、<
「
「そうね。惑星間航路を開拓しようとしていたところだったわね。うーん、資源を投入すればできそうなのは、縮退炉よね。まあ、今造っても生産エネルギーがオーバーフローして爆発四散しそうだけど」
「
「あとは…。物理シールドとか、アクティブステルスとか、ビーム銃とか? もう少し資源を突っ込めば開発できそうだけど、使う場面を思いつかないのよねぇ」
「大気中で使用するには、制約が多いですね。
物理シールドは空気分子との反応を抑える必要がありますし、ビーム兵器も大気や重力の影響が大きいですね。
アクティブステルスも外乱の影響を無視できませんので、どの技術も惑星上での使用は負担が馬鹿になりません」
「うむ。で、その物理シールドは、どーもあの巨大生物たちが当たり前に使ってるのが引っかかるというか、ずるいなーって思うのよねぇ…」
「
そうですね、ずるい、という表現には同意します。
我々が実現するために越えなければならない技術的特異点がいくつもありますが、そういったものを飛ばして謎の技術により防御膜を実現しています。
<レイン・クロイン>に至っては、海中でも問題なく使用できていますので、その点だけは正に
基本的な技術資料は、全てライブラリに記録されていた。資源さえあれば、<リンゴ>も再現可能だろう。
だが、必要な資源は桁違いである。それこそ、小惑星を一つ潰して生産設備を準備しなければならないようなものも多い。
惑星上で停滞している内は、手を出せない技術系統だ。
「自然界に存在しないような元素の生産もしないといけないし、当面は無理よねぇ…。ゲーム時代みたいに、拠点周辺に資源が分布してればやりようもあったけどさ」
「北大陸を制圧すれば、そのあたりの不安も解消できますが」
「だからそういうのはやめなさいって」
彼女は、ゆるゆると生きると決めている。手を差し伸べられる範囲で現地人に支援をしつつ、拠点を強化できればそれでいい。
ゲーマーの習性として色々と揃えたい欲求はあるが、他者の犠牲の上でとなると、さすがに意識にブレーキが掛かっている。その点は<リンゴ>も十分に把握しており、彼女に強制することは無かった。
尤も、<リンゴ>自身は速やかに惑星全体を統制下に置くことを望んでいるのだが。
「ウツギ、エリカ。問題ないなら、進路を第2要塞へ向けましょう」
「了解ー」
「オッケー」
ウツギ、およびエリカが旗艦パナスの戦略AIに、航路の指示を送信する。パナス搭載の戦略AIは指示を受領し、艦隊全体の進路を変更した。
◇◇◇◇
これまでずっとテレク港街の守護神として停泊していた、<パライゾ>の白い戦艦。アルファ級と呼ばれていたこの軍艦は、住民たちにとっては世界最強の軍艦であった。
そしてその日、その認識は大きく塗り替えられることになる。
アルファ級の全長は、およそ52m。在りし日に訪れていた各国の大型交易帆船よりも、やや大きい程度の艦船だった。
そのアルファ級より遥かに巨大な、ヘッジホッグ級軍艦。
全長は更に伸び、およそ87m。しかし、それでもその旗艦の大きさには及ばない。
<パライゾ>艦隊旗艦、パナス。全長141m。
アルファ級3隻を並べ、ようやく比肩する巨大さだ。そんな艦隊が入港したのである。お祭り騒ぎにならないはずがなかった。
そして。
「商会長、クーラヴィア・テレク。重要な通達を告げる。これは提案ではないし、もちろん冗談でもない。<パライゾ>からの要求であり、交渉は受け付けない」
旗艦パナスに招かれ、そしてそこに準備されていた貴賓室で、クーラヴィア・テレクは宣告された。
「我々<パライゾ>は、アフラーシア連合王国全土を掌握する。
そして、最初の地はここ、テレク港街である。
一切の反攻は許さない。
テレク港街が有するすべての権利を、<パライゾ>の名のもとに停止する。
あなたがこれを許容できないと判断した場合、断っても構わない。
ただし、それは我々に対する宣戦布告と同義であることを理解してほしい」
ほぼテレク港街に常駐し、クーラヴィア・テレクと友好関係を築いてきたツヴァイ=リンゴは、テレク港街最高権力者に、淡々と告げた。
「返答を、商会長。猶予は与えない。この場で回答をいただきたい」
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