IA電子情報館

 アイビーに連れられて館内の奥へと入っていく。

「まず、電子情報館とは電子資料データベースの構築・管理・運営を担う機関です。

 未だに電子化できていない資料の電子化という面もありますが、現在の主な役割は各機関が提供する電子資料データベースをまとめて検索・利用しやすくすること。そして個々のWebサイトで公開されている電子コンテンツを収集・保存して電子資料データベース化し、これもインターネット上で公開することです」

 PKR郷土資料館の資料を電子化する時のことを思い返す。昔の感覚が抜けない館長に説明した文言を借りると、オンライン博物館あるいは美術館、電子資料文書館、電子書籍図書館などが合わさった施設、ということだ。

「電子情報館の職員、電子記録員は電子資料データベースの構築、運用、著作権の調査や電子資料データベースの利用教育なども行います」

「ここの電子記録員はアイビーさん以外にもいるのですか?」

「ここは私1人です。必要があれば補助で職員が入ることはあります」

 ということは実質アイビーはここの館長でもありそうだ。実力主義の世の中だといくら小規模な施設とはいえ随分若い、しかも公共施設の責任者、がいるものだ。

「ここはやはり一般人は来ないわけですか」

「基本的に電子資料データベースを利用したい方はWebページにアクセスするだけでほぼすべての電子資料を見ることができます。それにIA電子情報館は立地の関係上、来館者用の閲覧用端末すら設置しておりません」

 それならインターネットで事足りるし、政府の方もそれを見越してか建物があってもよほど大きなところでないと来館者用の端末すら置いていないというのは聞いたことがある。ここに来館者を想定した設備を置いても無用の長物というのは頷ける。

 ここの建物は地上2階、地下1階からなっており、エントランスホール、撮影用の暗室、多目的室、元食堂、作業室、実験室と薬品保管庫、ちらりと脇を通るだけだが事務室、簡易的な宿泊室、X線撮影室や燻蒸室などというものあった。ダービスも資料館の職員として研修では様々な教育施設を巡り歩いたわけだが、規模は小さいものの研究機関や博物館に劣らないくらいの設備が備わっている。

 2階はサーバルーム、システム管理室、動画撮影・録音スタジオ、資料保管室、機材の倉庫だという。サーバルームは中こそ覗けないもののかなり広い面積を有しているし、スタジオも地方放送局に敵わないのは広さくらいであろうか。カメラも音響もそれなりに高性能なもののはずだ。

 地下は講堂、研修室、図書室と一応教育施設の機能も備わっている。電子機器がかなりの熱を発するので空調管理室まであるという。

「どうしてこれだけの設備が?」

「1つは様々な資料の電子化を請け負うためです。資料の保管に最適な環境は様々ですので、それに対応した設備を整えるほか、文化財や美術品ですと補修が必要な場合があるので最低限必要な道具と場所を取り揃えております。

 また、情報発信もメインとなるため、教育教材も作成したりするのです」

 だから録音スタジオが動画撮影までできるようになっていたのか。そういえば研修も講師がホログラムで出てくるから、しっかりとしたスタジオが必要になるのには納得がいく。

「その他屋外でも撮影できるよう駐車場を広くとってあります」

 まさにあらゆる情報、あらゆるモノを扱うことを想定した施設、というわけか。

「今回は古文書、絵巻物、工芸品、彫刻と聞いております。改めて、保存に注意を払う資料はございますか?」

「特には」

「では撮影に移りましょうか」

 2人はワゴンを搬入した裏口へと向かった。

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