リントの特訓 ツノウサギ討伐①
「どうか……どうかお願いします」
「うんうん。もう大丈夫だよー」
「まさかこんな早くに冒険者の方に来ていただけるなんて……ギルドには依頼を出したものの、これでは人が集められるかわからないとお話されておりましたので……」
「確かに報酬は少なかったかもね。でももう大丈夫! ね!」
ツノウサギの討伐依頼を出した村にやってきたのだが、いきなり村人たちに囲まれていた。
村長をしているというおばあさんがひたすら低姿勢で祈るように俺たちにすがっているところを見ると、本当にどうしようもない状況に追い込まれていたんだろう。
「緊急性が高いってのは、これか……」
村の状況も、思ったよりひどいものだった。
「うん。でもここまでとは思ってなかったから最後にしちゃった……反省」
珍しくビレナが判断を誤ったらしい。いやそれでも早く来てくれたと感謝してもらってるところは、ビレナの力と、ギルという移動手段を得たおかげだった。
立役者のギルは騒ぎにならないように森で待ってもらっているが。
「この村は冒険者を歓迎するんだな」
「というより、それにすがるしかもうないって感じじゃないかなぁ」
小声でビレナと耳打ちをしあう。
冒険者に対する印象は地域によって良くも悪くも異なる。とはいえ、もともと行儀の良い存在ではない場合が多いわけだから、こうまで頭を素直に下げるのは珍しいようにも感じた。
まあでも状況によっては神に祈るより冒険者を頼ったほうが良いことも多いからな。この村にとっては今がまさにそれだろう。
「頼む……息子もやられちまった……」
「あんたらがいなかったらこの村はおしまいだ」
「頼む……頼む!」
口々にそう言いながら俺たちにすがりついてくる村人たち。その身体にはそれぞれ包帯が巻き付けられている。
村の規模の割に人数が少なく見えるが、戦力になる男手はみんな戦ってやられたんだろうな……。
「ひどいな……」
「うん……ツノウサギでここまでの被害になるなんて……」
村をよく見れば木でできた建物は半分近くがかじられたように壊されている。
むき出しの家屋に怪我人が並べられている状況だ。
それに……。
「村長って普通、男がやるよな……」
村長の年齢が高くなることはたしかによくあるんだが、年老いた女性がやっているのは初めて見た。
通常、村長が死ぬ前に引き継ぎを行うものだが、そんな間もなく亡くなったのではないだろうか。
そして本来であれば跡継ぎとなるはずだった子供も……。
「なんとかしないとね。リントくん」
「ああ」
冒険者として依頼をこなす以前に、一人の人間としてこの村の惨状をなんとかしたいという思いが渦巻いていた。
ツノウサギ百体の討伐。
本来は気が遠くなるような話だが、この様子を見る限り、周囲にはうじゃうじゃと標的がいるはずだ。
むしろ今の状況を考えれば、この付近のツノウサギをある程度まで根絶しておかなければいけないだろう。
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