Aランクテイマー
「いやぁ……面目ないねぇ……本当に」
「クエル……」
闇魔法の影響か、人質か何かもとられているのか。
皆一様に目に瘴気の気配が漂う。元の力が強い冒険者ほど自我を保っているように見える。
クエルは会話ができるほどだ。
「どうか、遠慮なくやってくれたまえよ?」
「わかってる」
クエルは危険度A +の魔物を従えるテイマー。それが闇魔法の力を借りて強化されている。
「ご主人は引きが強いな。よりにもよってアンデッドに闇魔法とは……相性抜群だな」
「ふふふ。私が直接相手をするまでもない。せいぜいお前らで踊らせろ」
冒険者達が一斉に動き出す。
「っ!」
前にいたはずの冒険者たちの攻撃を受けているというのに、背後のプレッシャーが最もでかい。
「キュルケ!」
「ほぉー。見ないうちに成長したじゃあないか」
背後に迫ったプレッシャーの正体。
クエルの操るデュラハンの大剣が俺に振り下ろされたが、こちらも成長しないわけじゃない。
同じく魔物召喚でキュルケをぶつける。なんでキュルケがその小柄な身体でデュラハンの大剣を弾き飛ばしてるのかはよくわからないが、バロンの本気の攻撃をカウンターできるくらいだからな。
「ベル。こいつらなんとかできるか?!」
「ふむ……やってみるか」
「無駄なことを……こやつらはそれぞれ愛する者たちのために戦っている。素晴らしいだろ?」
嫌な笑みを隠しもせずビハイドが告げる。やっぱり人質か。
ただベルが上空で目を瞑っているところを見るとなにか打つ手があるのだろう。
「加減をする余裕など無かろう?」
ビハイドの言う通り俺にそれだけの力差はない。闇魔法で強化された冒険者たちが繰り出す攻撃にカゲロウを分割することでなんとか対処してはいるが、キュルケの活躍をもってしても時間稼ぎが精一杯だ。
特にクエルのデュラハンは集中しないと致命傷を受けかねない。一方でこの相手だけは、生身の人間の相手でないので手加減なしにやりたい放題できるのが救いだった。
「仕方ない……」
「む……?」
召喚術でバロンに呼びかけを行う。俺とバロンの関係で今できることは呼び掛けて召喚のための道筋を示すところまで。これを受けてバロンが準備を整えゲートを開く。
通常であればある程度時間がかかるはずだった。
「うおぉおおおおおおおおおおおお」
「なにっ!?」
呼び掛けてほぼタイムラグなし。しかもゲートを設置したのは油断したビハイドの背後だった。
「ぐっ……」
「こんなこともあろうかと準備をしておいて正解だった」
「悪いな」
「いやいい。慣れない書類仕事に追われてちょうど身体を動かしたかったところ、だ!」
ビハイドが後手に回っているのを見て冒険者たちの目がそちらにうつった。
少し余裕が出てきたのを見計らってか、クエルが声をかけてきた。
「リントくん、わかっているんだろう?」
最初の会話以来となるクエルとの相対。
「なにを……?」
「テイマーを倒す最も簡単な方法を、さ」
「それは……」
もちろんわかっていた。俺自身が最も強く感じ続けていた弱点にほかならないわけだから。
「遠慮をしちゃぁ、いけないねぇ」
クエルは俺と違い、精霊憑依などの自己強化をしていない。それでもAランク冒険者としての底力に闇魔法の強化が加わっているわけだから相当な強さではあるが、もちろん同様に強化されたデュラハンに勝るものではない。
テイマーを倒す最短の方法は、テイマー自身を倒すことだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます