緑龍

民謡流しは、時間と共に小さくなっていくがそれは、納豆の糸みたいに完全に消え去ることは無く細々とつながり続けて、やがて公園のひのき舞台に伝わりそこで夜明けのように静かに神楽舞が始まった。

道全体にだらしなく広がっていた祭りを楽しむ人々がひのき舞台の前に集結したのだからそれはもう、ぎゅうぎゅう詰めになって身動きなんて取れはしない。

昔、誰かがこれが祭りのだいご味だなんて偉そうに言っていたような?

「あッ!!!ノボル!イズミさん!」

「だいじょぶか?」

「うん・・・。ちょっと!!!!お尻さわんないでよ!!!!!!」

「仕方ねぇだろ。」

和は、あそこだな。

向き的に神楽の方を向いているみたいだ。

「イズミさん、一人で大丈夫かな?いった方が良いんじゃない?」

紗夜が人々の肩の隙間から和を確認し、心配そうに言った。

「大丈夫だろ。今動いたら、逆に危ないぞ。」

笛の根や鈴の音や太鼓の音が響いて来る、この日の為に一年練習してきた演奏は、堂々としていて。失敗を毛ほども恐れない勇敢さがあった。

「すげぇ・・。」

祭りを伝える人々は、上手にやる事よりももっとほかの目的を持っているように見えた。

「ううん!見えない!ノボル見えないよ!」

「こっち。」

道の少し真ん中から隅の方によければ、そこには歩道の車止めがある。

20センチほどの高さだ、また誰かに尻を触られる危険はあるが。登れば紗夜でも少しくらいひのき舞台を拝めるはずだ。

「あッ!見えた!」

「よかったな。」

「うん!」

うわぁ!とひときわ大きい歓声が上がって、周りを囲む建物のガラスが水面みたいに振動した。

「あれ?!」

「どうした?」

「イズミさんがみんなの前で踊ってるよ!?」

昇は、紗夜が乗っている小さな車止めに上りひのき舞台の方を見てみると、確かに一緒になって神楽舞を披露しているのは和だった。

「ああ、あいつ、何でもできるから。」

「そうなんだ・・・!すごい、本当に上手だね。」

初めは、場違いな酔っ払いをあざけるような態度を取っていた人々は、やがて、静まり返り和の神楽を眺めていた。

「この前だって、あれ。何だっけ?」

神楽舞は、クライマックスだ。演奏は一層激しくなり、和の額の表面はうっすらと汗ばんで、近くの灯篭のオレンジの光を鏡のように映し出していた。

そして、和は結局最後まで、つまみ出されることなく大衆の面前で神楽を舞い切ったのだった。

「ノボル・・・?」

「え?」

「その・・肩、ちょっと痛いかも。」

「ああ・・・。ごめん。」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます