カワズミサヤ

天気予報では、明日は雨だ、それも、大雨だ。

そして、その予兆は如実に今の空気と予報よりも正確な昇の頭痛に現れている。

今着ている服を濡らしてしまえば、ほかに着られる服などは無かった。

「ゲホッ!ゲホッ!!どこのどなたか存じませんが、恐怖で声も出せない私を見つけ出し、助けて頂いてどうもありがとうございます。」

「娘、お前を助けたのは、この、須賀昇と大島和だ。娘、名は何という?」

「川住紗夜(カワズミサヤ)!高校一年生ですッ!」


紗夜は、いわゆる高校デビューをし損ね。夏休みデビューを華麗に決めようと奴らに近づいたまではよかったものの、門限通りに一人帰路につこうとしたところを、「家まで送ってやる」と川に落とされてしまったらしい。


全く。そういった役に立たない所だけは、なかなかしゃれの利いた奴らだ。


「乗れよ、門限あるんだろ?送ってやるよ。」

一日一善、人の親切を笑う奴は馬に蹴られて三途の川にでも送られてしまえ。

「うん。ようやくその気になったか。」

「お前は走れよ。」

「どうして・・・・?どうして、そんなに優しくしてくれるの?まさかっ!!私のおっぱいが狙いなんでしょ!そうね!そうに決まってる!!!水に濡れてぴっちり張り付いたおっぱいを堪能したいから優しくするのね!高校生の男の子が考えそうなことだもの!そうに決まってるわいやらしい!!」

「乗んないの?」

「あ・・・。おねがいします。恐竜公園まででいいので・・・。」

「キノコのトイレの所だっけ?」「はい。」

「昇よ、たまには我もその自転車とやらに乗せてくれ。我は、疲れはしないが、たまには、お前に尽くされてみたいのだぞ?聞いてるのか?」

「あ。結構・・。がっしりしてる・・・。」

濡れたパンツで自転車乗るのは、気持ちが悪い。



「ねぇ、須賀先輩?」

「ノボルでいいよ。」

「ねぇノボル。ありがとう、助けてくれて。それと、お洋服濡らしちゃってごめんね、靴も。」

「いいよ、乾くから。」

「うん。イズミさんも、ありがとう、それと、お洋服濡らしちゃってごめんなさい、靴も。」

「よい、紗夜。お前が無事でよかったぞ。」

「・・・・うん。」

土手から少し離れた山のふもとの辺りに中央公園はあった。二人乗りの自転車は、制動がなかなか難しい。昇は公園の小さな駐車場の小川に備え付けられた手すりにしがみつくように自転車を止めて、後ろの空にしっとりと広がる赤と暗闇のグラデーションをちらりと見た。あそこに戻るのは、何事も無ければ来年だ。

川の水が乾き始め。自分からは、泥の匂いがしたが、ゆっくりと自転車から降りた紗夜からは、たまに無意識で嗅いでしまう女の子特有の甘い香りがした。

「時間、間に合った?」

「うん。まだ7分あるから大丈夫・・・。」

「そう、俺たち行くから。」

「紗夜よ、付き合う奴等はきちんと選べ。」

「うん。ありがと。」

光で照らされた時計の長針が動いて、その瞬間を昇はたまたま見ていた。時計の周りには、蛾や小さな虫が狂ったように飛びまわっている。あと6分。


「ねぇ!ノボル?明日の花火だけど。」

「ん?」

「一緒に見ちゃダメかな・・・?イズミさんも!」

紗夜は、体をだるまストーブみたいに凝縮させて言った。

今日のこのひどい頭痛からすれば、明日は確実に雨になる。それも、大雨だ。

それは、遠くの国で蝶々が羽ばたいたとしても変わらない。

「晴れたらな。」

「うん・・・!明日の夕方、ここで待ってるから!イズミさんもきっと!」

紗夜は、そういうと。小走りで近くの集合住宅の中に消えていった。

「我らも帰るか。昇よ、明日晴れるといいな。」

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