Report58: 彼の行方

 今の説明で、カメコウがフィギュアを製造していたのは確実となった。……まぁ、俺は知っていたけど。

 それから、どうやらメガミ・フィギュアを販売して暴利を貪っている奴らが居るという事も分かった。

 そして、その裏にファンクラブとの繋がりがある事。メーカーであるカメコウと、何らかの関係がある事も。


「つまり、えーと……金に目が眩んだカメコウが、逃げたって事?」

「いや、違うぞ、ラッシュ」


 答えたのはメガミだった。声が聞こえて振り返る。そこにはいつも通りの彼女が居た。

 平常を取り戻したようで、今までの狼狽えていた姿はもう見当たらない。

 ロジーは「流石だ」と漏らし、席を立った。そして何処かへ行ってしまった。


「だとしたら、何故カメコウは利益を独占しないんだ?」


 メガミが問うた。だが、俺にはさっぱり分からなかった。だからどういう事か、と目で訴えてみる。

 メガミはフフン、と笑った。


「今回、幾つかの情報がバラバラになってしまっている。だがそれらの情報を整理すると、繋がっている事が分かる」


 ロジーがそう解説した。壁に寄り掛かって、また煙草を吹かしている。

 今気付いたが、あれ……ロジーは換気扇の下で吸うようにしているのか。よくあそこに居るなぁ、と思っていたけど……。


「カメコウが制作者なのは間違いない。そしてフィギュアを売る目的は金だ。

 だが、一人で稼いでいれば良いものを……何故ネットで、知らない個人までもが出品している?」


 再度、メガミが質問をぶつけてきた。

 まどろっこしいので、さっさと答えを言ってほしいんだけど……。


「それは……個人にも販売していたんじゃ?」

「かもしれないな。だが、では何故、価格が上がっている」

「えーと、カメコウの身に何か起きて、生産が出来なくなったから?」

「そうだな。では何故価格が上がったのが、私が自宅を訪れたタイミングなんだ?」

「それは……何でしょうね? メガミさんが乗り込んで、ここではもう作れないと判断したからでは」

「ほう……だが、あの場所に当の本人は居なかったぞ? 代わりに居たのは仮面の男だけだ」


 俺の中で、何かが繋がっていく感覚があった。さっきまではパズルのピースを持っているのに、どの向きで繋がるのか分からない。そんな感じだった。

 見落としていた重大な部分を、認識できるようになったような。今はそんな気がしている。


「ラッシュよ、重要なのは仮面の男ではない。カメコウの身に何が起きたか、なのだ」


 ロジーが最後に付け加えた。

 ……えーと、うん。一旦、情報を整理しよう。


 幾つか重要な事柄がある。まず第一に、カメコウがフィギュアを作っていた。

 第二に、ファンクラブが高値でフィギュアを売っていて、ECサイトで個人ですらもフィギュアを売っている。

 第三に、フィギュアを作ったり売ったりするのは、全員が金の為だ。しかし、カメコウが居なくなってフィギュアは製造できなくなった。

 ここまでは良い。


 次に、メガミが乗り込んだタイミングで、価格が高騰し始めている。だから、カメコウが消えたのはその頃、か?

 しかし本人は自宅に居なかったから、その少し前に消息を絶っていたのだろう。


 じゃあ、何故その頃、代わりに仮面の男が居たのか。

 そいつはメガミと戦闘になった。……ここが俺は引っ掛かるんだよな。

 果たして、カメコウの仲間だったとして、メガミに襲い掛かるだろうか。

 深夜の住宅街でわざわざ? 音も響くし、マンションの住人も多数居る。しかもメガミという強敵に、あえて立ち向かうというのが釈然としない。俺ならばメガミが居なくなるまで、やり過ごす。

 つまり、偶然メガミと鉢合わせてしまったと考えるべきだ。仮面の男にも、予期せぬ事態だったというわけだ。


 では、仮面の男はあそこで何をしていたのか。

 考えられる線は幾つかあるが、仮面の男は何かを探していたんだ。だが見つからず、長居した結果メガミと鉢合わせた。

 だとすれば……奴も狙っていたのではないか? フィギュア、もしくはカメコウ自身を。


「狙いはカメコウ……そして、攫われた?」


 俺はポツリと言葉を漏らした。考えてみれば、カメコウは金のなる木だ。

 ひとまず言える事はただ一つ。だがこれだけ分かれば問題ない。


「その通りだ、ラッシュ。――それで、ロジー、ファンクラブの場所は分かるのか?」


 メガミがアサルトライフルを準備しつつ、尋ねた。

 ロジーは首肯すると、ノートパソコンを折り畳んでバッグにしまう。そして先に下りているぞ、と告げると、部屋を後にした。

 成り行きを見守っていたゾフィも腰を上げ、事務所から階下へと降りていく。事態は逼迫していると言える。


 そう。仮面の男が何者か、狙いが何なのか、今はそれを捨て置いていいんだ。

 考えなきゃいけないのはカメコウが逃げたのか、攫われたのか、どちらなのかって事か。

 カメコウを攫ったのが仮面の男なのか、ファンクラブなのか、それ以外なのかは現時点で不明だ。しかし、行方を晦ましたカメコウは、何者かに拉致されたのだ。


 ぶっちゃけ、メガミ達には教えていないが、カメコウは販売業社の一社にしかフィギュアを卸していない。だから個人には売っていない。

 共同作業者である俺しか知らない事だ。

 が、その個人出品者達はフィギュアを所持している。つまり、カメコウを拉致した奴等と繋がっているか、拉致した人物だ。


「カメコウが危ない」

「ああ、急ごう。……それから、ラッシュ。何か知っている事があれば話してくれ」


 部屋を出る折、メガミがそう言った。きっと既にお見通しなのだろう。

 これ以上黙っていると話がこじれる。誤魔化すのも限界が来る。

 だから俺は全てを話した。カメコウとフィギュアを制作していた事や、それで利益を得ようとした事。後ろめたかった。

 それを、メガミは黙って聞いてくれた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る