Report34: 贈り物

 サーマートは《リセッターズ》を知っていた。だが、知っていてもおかしくはない、と俺は思う。


「傭兵集団の筈なのに、何でも屋として有名になりつつあるからな」


 そう、ゾフィの言う通り、ここバンコクでは俺らの顔を知っている者も多い。

 そもそもスワンナプーム空港で、《ブラックドッグ》の支社長家族を護送していた時、《ルンギンナーム》とはかち合っているのだ。

 俺の事まで知っていても、何らおかしくはないだろう。


「今回の件で、嗅ぎ回っているのがバレただろう」


 ロジーがそう思案すると皆、同意を示した。今後、敵がどんな手に出てくるのか、俺は不安である。

 今は午後九時過ぎだ。サーマート捕縛作戦(と勝手に俺が呼称している)が開始されたのが午後七時。遭遇した後、俺とゾフィはクロントイを後にして、事務所へと戻った。深追いは危険だと判断したからだ。罠の可能性もある。

 俺も、あの状態で追っていたら、最悪ヤツの手によって殺されていたかもしれないと考える。

 と言うのも、格上の相手である上に、地の利も向こうにあった。《ルンギンナーム》やサーマート自身を嗅ぎ回っている連中が居ると分かれば、きっと始末するだろうし。


 メガミは知り得た情報を共有すべく、《ブラックドッグ》の元へと向かっていた。今、事務所に居るのはゾフィと俺、ロジー、それからカメコウの四人だ。ペイズリーは、きっとメガミと一緒だろうか。

 ともあれ、作戦は終了したのだ。またしても失敗、という形で。

 今夜寝るのも怖いくらいだ。もしかしたら夜中、俺を抹殺しに来るかもしれない。カオサン通りのあの安宿よりも、事務所に居た方が安全だろうか。俺はそんな事に思いを馳せていた。


「へへ、確かにこの辺の方が、人の目は多いからな。そうかもしれねぇ!」


 俺がぼやくと、ゾフィは豪快に笑っていた。こいつぐらいタフであれば、きっと寝込みを襲われても大丈夫なのだろう。だが俺はか弱き小市民だ。いざ戦いになった時、反撃する術を持たない。


 ピンポーン。


 そんな折、事務所のチャイムが鳴った。メガミやゾフィ達がインターホンを使用している所は、見た事がない。となると、外部の人間だ。セールスだろうか?


「ピ……デュ、ピザ屋さんだよ~」


 インターホンのカメラを確認したカメコウが、皆に伝える。ゾフィはソファに座ったまま、呆れた様子で俺を見てきた。……いや、俺ではない。

 という事は、カメコウが頼んだのか? 腹が減るのは分かるけど、今は勤務中じゃないのか……?


「え~、僕、ピザなんか頼んでないんだけどなぁ……グプッ」


 カメコウは不思議そうな顔をしながら、ドアを開け、対応していた。

 今日は疲れていたし、マイペースなカメコウの事でもあった。それ故、俺も別段気にはならなかった。完全な偏見だが、デブはコーラとピザ、と相場が決まっている。だから尚更、放っておく事にした。

そんな事よりも今夜どうするかだ。事務所に泊まろうかと、俺は本気で考えていた。


「デュフッ、お腹空いてたし、丁度いいね」


 カメコウは、ローテーブルを挟んで、ゾフィとは反対側の位置のソファにドスン、と座り込んだ。体重が何キロあるのか知らないが、聞いた事のない音をソファが立てる。


「ピザ……?」


 豚のように鼻を鳴らしながら、今しがた届けられた小箱を開けようとするカメコウ。ゾフィはそれを訝しげに見やっていたが、何かに気付いたのか、声を荒げる。


「ば、バカ野郎! そいつはC-4爆弾だ!」

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