Report31: 推理

「同一犯って訳か……フン、解せんな」


 ロジーが呟いた。他の皆も、一様に思案しているようである。

 ……偶然という可能性もある。スパホテル女社長の件、ブラックドッグ襲撃の件、そして件の高齢者連続殺人。今までの事件と類似している点がたまたまあったに過ぎない。


「俺が思うに、それだけじゃないんです。航空機が墜落した事件。それから、もしかしたら銀行強盗の件も……」

「全部、同じ犯人ってワケかよ? 流石にそりゃあ、無いんじゃねぇか?」


 そう、ゾフィが異論を唱えるのも分かる。俺ですら、この仮説には根拠も自信もないのだ。

 さっき言った三つの件は、裏で何者かが暗躍している可能性はある。だとしても、スワンナプーム空港の飛行機墜落はどうだろうか。《ブラックドッグ》の支社長の家族だけを狙えば良かったのに、乗っていた航空機ごと、他の乗客を巻き添えにした。大勢の人間を巻き込む必要なんて、無かったのではなかろうか。だのに、何故。


「あの~、関係あるか分からないけど……グプッ、後の調査で分かった事があるんだ」


 恐る恐るといった様相で、カメコウが挙手した。話し始めたカメコウを見据えて、俺達は彼の話の続きを待った。


「デュ……あの飛行機に乗っていたのは大半がツアー旅行者なの。そのツアー内容なんだけど、かなり豪遊できるものだったみたい」


 カメコウは控えめに語った。

 乗っていた殆どが金持ちって事か。……とすると、支社長の家族含め、金持ちを狙った犯行だった……のだろうか。


「なんだァ……金持ちに恨みでもあんのか、そいつは。だとすると、義賊みたいなものか」


 ゾフィは顎に手を当てて、呻っていた。混乱しているのかもしれない。

 そもそも前提としては、刺殺された女社長、《ブラックドッグ》の兵士、高齢者達が同一犯に殺害されていたのだ、と仮定した場合の話なのだが……。


 最初から《ブラックドッグ》の支社長家族と富裕層をも巻き込んで殺すつもりだったのだとすれば、その犯人は、ゾフィの言うとおり義賊というか、何か強い思想の元動いているのかもしれない。

 無差別に人を虐殺しているのではなく、殺害する者を選んでいるのだから。


 ……ん、そうか。スパホテルの女社長も、考えようによっては富裕層と呼べるのか。では、やはりその黒幕は金持ちだけを狙って殺している……?

 いや、そうすると《ブラックドッグ》の従業員は除外されてしまう。殺される理由が失くなってしまうな。


「カウィンの件はどうなんだよ? 国務大臣の息子が銀行強盗をやったろう」

「うーん……大臣である父親を政治から引き摺り下ろし、国が政治不信に陥るよう、息子のカウィンを消しかけた……とか?」


 ゾフィが俺に質問するのだが、俺は首を捻って答えた。

 と言うのも、同一犯である可能性はあれど、真相は分からないからだ。カウィンは捕まってしまったので、黒幕ではない。しかし、だ。仮に、今俺が言ったように、カウィンを消しかけた存在が裏に居たら……、と俺は思うのだ。

 なぜなら、あの時、カウィンは脱出の算段も無いのに、銀行強盗を行った。元犯罪者の俺からしても、あれは有り得ないと感じられた。

 確かに、場当たり的な犯行というものは起こり得るだろう。しかし、犯罪を行う人間は計画をするものだ。どっちに逃げよう、バレない為にこうしよう、と。だが、カウィンのやり口は計画的とは程遠く、あまりにも杜撰な犯行と思えた。

 父親への嫌がらせ、という結論で落ち着いてはいたが、俺はずっと引っ掛かっていた。その程度の動機で、強盗などという大仰な行動に出るとは思えないからだ。


 真実は分からない。それに、このカウィンの一件に関しては、同一犯の可能性も低い。しかし、裏で誰かが糸を引いている公算はある。

 俺とゾフィのやり取りをメガミは黙考して聞いているようだった。


「いや、ありえない話ではないぞ。――カメコウ、タイの政治家を調べろ。勢いのある政党、有力な議員だ。何者かが潜り込んでいる可能性が出てきた」

「デュッ、……了解~」

「皆、一時間後にまた集まってくれ。それまで一旦、自由行動。私は電話しておく」


 メガミがカメコウに指示を出し、その場は一時解散となった。

 メガミも何か勘案しているようだが、これは俺の直感でもある。今まで俺が出遭ってきた諸事件、それらには黒幕が居て、裏で糸を引いているという類推だ。

 仮に居たとして、そいつは何を目論んでいるのだろうか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る