Report18: 黒い影

「オーライ」

「りょ、ゲプッ……了解~」


 ロジーも無言で頷いて答える。了解です、と俺も応じた。

 そこに、携帯電話の着信音が響いた。メガミが取り出して、通話をする。


「もしもし、私だ。……ああ、何か分かったのか?」


 彼女は電話に出ると、やや気色ばんだ様子で話をする。相手は誰だろうか。電話が終わるのを俺達は無言で待っていた。

 メガミは暫く通話した後、やがて会話を終えた。そして、彼女は苦い顔つきで俺たちへと向き直った。


「どうやら、スパホテルのヤクが何者かに盗まれていたそうだ。公安から連絡があった」


 メガミは憎憎しげな表情で、そう語った。公安、即ち警察からの電話だったようだ。

 ヤクが盗まれた……?


「ラッシュが私と合流し、警察が到着するまでの間だな。ネズミが入ったらしい」


 俺は当時を思い返してみた。確かあの日、スパホテルの客室のイリヤ人形から、証拠品の覚醒剤であるヤーバーを発見した。そして、それは警察が押収すると言っていた筈だ。

 という事は、警察がスパホテルに到着するまでの、僅かな間に盗み出されたって事か?


 それならば……俺のせいだ。俺が現場を離れたから。

 あの時、俺がメガミに電話し、エントランスに向かった隙に何者かが盗み出したのだろう。

 昨日、あれだけ浮かれていたのが恥ずかしくなってきた。


「別にラッシュを責めるつもりは無い。それに全部を盗まれた訳では無いらしいからな。証拠品としては充分に通用するだろう」


 落胆する俺を案じたのか、メガミがそんな言葉を掛けてきた。だが、責任を感じずには居られなかった。

 俺は謝罪し、真相究明への思いを沸々と募らせた。


「だがよォ、何故そんな事を……? 女社長の仲間か? そう考えると、あのババァが殺されたのは仲間割れって線もあるよな」

「その可能性もあるが……妙だな。何かが引っ掛かる」


 ゾフィとメガミは思案し、静寂が訪れる。ロジーも黙考しているようだった。


 ……そう、何かがおかしい。

 確かに仲間割れって線も考えられるけど。何と言うか、妙にタイミングが良すぎるのだ。俺が捜査して、クスリの隠し場所を発見した直後……にソイツは盗み出した。

 って事は、犯人も隠し場所を知らなかったんじゃないか? 仲間だったら、知っていても良いような気がする……。

 それに女社長が死亡した件も気になる。どこかで繋がっているのではないだろうか。


 確証は無いが、何か……俺たちの知らない所で何かが動き出している。そんな気がした。

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