第135話 部屋とYシャツと私

 リビングに通されたリューバは目を疑った、そこには綺麗に盛り付けられた刺身、更には鍋の中に輝く出汁、その下には何やら珍妙な機械が据えてあった。

「刺身用に買った魚が鰤...俺の故郷の魚に似ていたので刺身としゃぶしゃぶ両方行けるように準備してみたんですよ」

 そう言って鍋の下の謎の機械に手を伸ばすと。

 ボッ!

 と音を立てて火がつき鍋を温めていく。

「なんと!?これはカマドでござるか!?」

 リューバの国ヒノモトは日本に似た国ではあるもののもちろんカセットコンロなんてものは文明的に無くひどく驚いた様子だ。

 驚いたのも束の間、折角点いた火が小さくなって消えかけている。

「あちゃー、ガス切れか?」

 洋一はカセットコンロからガス缶を取り出すと振ってみる、液化したガスの音はしないようだ。

「マイさん、ポーチの中にカセットガス缶とかあったりする?」

 洋一が舞に尋ねると彼女は。

「あー、ちょっと待つし」

 そう言ってポーチをゴソゴソしたあとニヤリ微笑んで。

「テテテテン!カセットガス缶〜!」

 とどっかの青ダヌキのような声で取り出したものだから洋一も言った舞本人も顔を見合わせてケタケタと笑っている。

 ただ一人リューバだけがポカンとした顔でそれを見ていた。

 ガス缶を受け取った洋一がコンロにセットして出汁が沸騰しそうになってきた頃、玄関のドアがガチャっと開き。

「カミングー!」『ただいまー』

 という声が聞こえてリューバは混乱した。

 彼が耳にしたのはこちらの言葉でただいまやお邪魔しますと言った意味を持つカミング。

 しかしそれと同時に頭の中にただいまという言葉が聞こえたのだ。

「おー!みんなおかえりー!無事に買えた?」『おー!みんなおかえりー!無事に買えた?』

 洋一が声をかけると今度は聞いたそのまま同じ内容が頭の中に響く。

「ヨーイチ殿?さっきから頭に響くこの声はなんでござるか?」

 リューバは疑問を素直に洋一にぶつけてみた。

「え?ああそういえばリューバさんは言葉通じたから知らなかったんだっけ?」

 洋一はそう言って一人の女の子を目の前に連れてくる。

「リューバさん、この子はカリンです。

 カリン、この人がサンブック行きの船に口添えしてくれるリューバさんだよ」

 洋一がそう紹介すると。

『はじめまして、カリンです。

 お兄ちゃ...ヨーイチさんの妹みたいな...。

 今は妹みたいな感じですっ!』

 今度は肉声が全く聞こえず頭の中だけで声が響く。

「実は俺こっちの言葉がわからなかったのでこの子の通訳魔法でだいぶん助けられたんですよ。

 カリンの魔法は凄いんですよ?なんせ発声したいと言う意思をそのまま伝えてくれるんですから」

 という洋一の言葉にリューバは震え始めた。

 かと思うとガバッと洋一の肩に手をかけて。

「凄いでござる!凄いでござるよ!

 洋一殿、ヒノモト行きの船は心配ござらん!

 それこそ大船に乗ったつもりで居って貰ってかまわぬ」

 そういうと両膝をついて頭を下げる。

「むしろこちらからお願いがあるのだ!

 何卒ヒノモトに来てくだされ!」

 洋一はいきなり土下座し始めたリューバに慌てながら。

「どうしたんですかいきなり、頭をお上げください」

 と言うとリューバは真剣な眼差しで。

「こちらの言葉はマヌジローのおかげでわかる人間も多いのだがウォトカ語は堪能な者が居らず国交交渉が難航しておったのだ。

 使節団を送ったのも友好の他に言語習得の意味があるのでござる」

 そう言われた洋一はピンと来た表情で。

「なるほど、カリンの通訳魔法がそこで役に立つ訳ですね?」

 と言う言葉に。

「そうでござる!何卒!何卒お力を!」

 そう言って再度頭を下げるのであった。

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