第82話 びっくりKONAMI

 しばらく走るとだんだん日も傾いてきて俺たちは見晴らしのいい場所でジムニーを停める。


 恐怖の野営の時間がやってきた...。


 と言いつつも俺はスタッフバックの口を開け湿ったロープを取り出す。

 昼間の失態を教訓にして塩漬けのロープを作って置いたのだ。

 もちろん飛び越えられたら無意味だけど今まで見てる限りあいつらが飛ぶのは獲物に襲い掛かる時だけ、なのでCの字に停めたジムニーと馬車2台の外側の死角に高さ30センチぐらいでロープを張る。

 若干錆が心配だけど命には変えられない。

 これで番をする時に前メインで警戒すれば良くなるからな。

 帰路の初日、今日からはジムニー2人、荷馬車の座席1人以外はテント泊をせざるを得ないので用心に越したことは無いだろう。

 塩ロープとトイレのセッティングを終わらせて今日の晩飯は何にしようかなと考えていたその時!

 ガタッ!ガタガタッ!

 メッシュコンテナが音を立てた。

 バタンッ!

 と蓋を跳ね開けて飛び出したユニウルフの子犬、俺は調理しようと手に持っていた街で買った鶏肉を少し切り取り...。

「ほら...怖く無い...怖く無い...」

 と差し出すがユニウルフはウ〜〜!と唸るばかりで肉を見てくれない。

 むー、犬ならば顔の前にグーを持っていって手の匂いを嗅がせるんだが果たして異世界の狼に通用するんだろうか?

 えーい!ダメ元だ!やってみるか!そもそもこの犬の挨拶は噛まれても指を食いちぎられないように拳を嗅がせるものだし最悪どうにかなるだろ。

 そう思ってゆっくりと顔の前に拳を差し出そうとした瞬間!ユニウルフは子犬らしからぬ大きさに口を開けて更にその口が縦に裂ける!

 あ、俺の手終わった。

 そう思った瞬間に横から手が伸びてきてユニウルフの首根っこを掴んで押さえつけた!

 この体格はマリアか!

「おお!マリア助かっ...誰?」

 間一髪で俺の右手を救いユニウルフを抑えてる女の子は見覚えがあるような無いような顔をしていた。


『も〜!可愛い顔をしてても魔獣なんだからさ、油断しちゃダメだよ?ボクが止めなきゃその手、無くなってたよ?』

 あ、ありがとうって!?

 俺は思考が追いつかず一瞬固まったあと言った。

「お前もしかしてラビ...なのか?」


『そーだよ!ボクだよラビだよ!』

「いやおかしいだろ、だってお前今女の子じゃん?」

 俺がそういうとラビはキョトンとした顔をして。

『ボク、メスなんだけど』

 と言った。

 オーケーオーケー、幼児だったから俺が気づいて無かっただけでお前はボクっ子だったわけだな...。

「ってかお前デカいじゃん!どういう事!?」

 と思わず1人ノリツッコミのように叫ぶと。

『ボクのこれ変化の能力だよ?普段は肉体年齢に合わせるのが楽だからあの姿だけどその気になればこのくらいの年齢に変化するぐらい簡単だよ?どうせこうなると思ってたからちょっと大人に変化したって訳』

 全員が驚愕している中ラビはユニウルフの方を向いて。

『いつまでもこうしてるのも面倒だしさっさと終わらせるね』

 と言った。

「待ってくれ!いくらなんでも殺...」

 俺が止めようとした瞬間ラビはユニウルフを片手で持ち上げ。

『おうコラ、お前誰の手を食おうとしたかわかってんのかあん!?』

 と詰め始めた。

 ...いやマジで誰だよあんた。

『あ?群れを殺したのはお前たちだろ!って?

 お前ヨーイチが居なかったらもう死んでたんだぞ?助けてもらっといて襲い掛かろうとかこの恩知らずが!』

 と掴んだ胸ぐらをガクガクと揺する。

 いやもう口調がラビじゃ無いじゃん!怖っ!

『あ?誤解してた?もう落ち着いたから襲わない?本当にもう勘弁してくださいだ?

 よし、わかったならヨーイチの靴を舐めろ、服従を誓え!わかったか!!!』

 ユニウルフはテクテクと俺の方にやってきて俺の靴をペロペロと舐め始めた。

 ほんのさっきまでユニウルフに手首を噛み切られる事に恐怖してたんだけど...うちの幼児改め幼女がすんげえ怖いんですけど!

 ユニウルフを含めた全員でガクガク震えているといつもの姿よりちょっと成長した感じのアイさんの妹ぐらいの姿に変化したラビが。

『終わったよ〜!そいつもう大丈夫だと思う〜。

 言葉はボクが通訳しないと伝わらないと思うけど来いとか座れとかなら普通に指示して大丈夫だと思う〜』

 飄々と言うラビにみんな口を開けず震えていたので俺は意を決して声をかける。

「あの〜、ラビさん?そのお姿は?」

 するとラビは伸びた髪をなびかせながらくるりとターンして。

『この数日で成長した分今の本体に合わせた姿にしてみたー!どう?可愛い?可愛い?』

 あー、あれか。

 元々野生動物の赤ちゃんは成長が早いのと所謂で女の子っぽさが増して心身共に成長してるって事か。

 俺は理解はしたが納得はいかない。

 だって俺あんな893みたいな追い詰め方教えた事無いし!!!


 ともあれ、ユニウルフの子の誤解も解けた事だし今はこうやって撫ぜる事もできるようになったので良しとしよう...なんだろうこの子の甘え方が無駄に媚びてるというか「はい俺甘えてますよー」って感じの雰囲気を感じるのは...。


 まあいい折角なので名前をつけてあげよう。

 ユニコーン的なオオカミ...狼...ロウ?

「よーし!お前の名前はロウだ!」

 俺がそう言うとロウは。

「オンッ!」

 と嬉しそうに鳴いたのだった。


 その後こっそりラビの様子を伺って「どうですボス!俺ちゃんとやってますよ!」みたいな目で見ている姿をみてなければ爽やかな気分だったんだけどね。


 ウチのマスコット的幼児が幼女になった上に綺麗なお姉さんにもなれてそのうえとても怖かったですまる


 などと小学生並みの感想になってしまう俺だった...。

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