第77話 吹き荒ぶ風がよく似合う

「アカナツさんですね?」

 俺は刑事ドラマの主役のように声をかける。

『おお!昨日の!ちょうど教えてもらった捌き方で刺身を作ってみたんだ、食べてみてくれ!』

 渾身のボケをスルーされて恥ずかしくなったが勧められるままに一口。

「美味いですね、流石は魚屋さんだ」

 若干切り口荒い感じだけどそれはナイフのせいだろう、村に帰ったらイアンさんに相談して出刃と柳葉作ってみてもらおうかな?


 おっといかん本題本題。

「海辺で遊んでいた子達に聞いたんだけど水入れて投げ合ってる風船みたいなの君があげたんだって?」

 俺が問うとアカナツさんは。

『ああ、そうだよ。

 あ、あいつらあんたにぶつけたりしたのか?」

 と、心配してくれた。

「いやいや、ちょっとスライム対策でアレが使えないかどうかと思って売ってもらえないか聞きに来たんですよ」

 俺がそう言うとアカナツさんは。

『なるほど、アレに海水を入れて投げつけるって事か、そりゃいい!』

 おお!乗り気になってくれた!

『だがなぁ、アレは捌いた魚の浮き袋を乾燥させたもんだからそんなにいっぱい数があるわけじゃないんだよ、2〜3日待ってくれるなら数を揃えれるけどな』

 別に出発が遅れるぐらいスライムの脅威に比べたらどうってこと無いな。

 俺は頷いて。

「で、おいくらぐらいかかります?」

 と聞くと。

『いや元々捨てる物だし新しい商売も出来そうだからタダでいいよ、そのかわりと言っちゃなんだが魚の美味しいレシピがあったら教えてくれないか?』

 そう言われて頭を捻る。

 この街といえば塩だよな?

 お!アレいけるかも?

「塩と身がしっかりした白身の魚とあと卵ありますか?」


 下処理した魚に塩に卵白を混ぜて塗る。

 そしてしっかりと周りを囲ってオーブンに入れる。

「海に黒っぽい緑の布みたいな海藻って生えてませんか?」

 と聞くとある、との返事。

「それを乾燥させて魚の横に入れるとダシが出ていっそう美味しくなりますよ」

 と言って焼き上がりを待つ。

 オーブンを確認しながらいい焼き色がついた頃合いで...完成!白身魚の塩釜焼き!

 俺は塩釜をオーブンから取り出してハンマーで一撃!

 かなり硬くなっていたが綺麗に割れた...あれ?

 あ!そうだ!

 俺は思いついて小躍りする、だけど今は塩釜焼きを仕上げねば!

 硬い塩を取り除いて取り出した魚を切り分けてアカナツさんへ。

『うん!美味い!塩焼きとはまた違った旨さがあるな!』

 そう言って喜んでもらえた。

 俺とカリン、メリルも味を見る、うん美味い。

 そこに穀物屋の親父さんが塩むすびを持ってきた物だから臨時の立食パーティーになってしまった。


「それじゃぁ二日後取りにきますね!」

 アカナツさんにそう言って俺はカリンとメリルを連れてアイさんの家まで走った。

 水風船の他に更なるアイデアが浮かんだのだ。

 水風船が出来上がるまで二日、これができれば安全性は格段に上がる!

 間に合わせて見せる!

 俺の為、みんなの為!そして塩で稼げる予定の売り上げの為に!

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