第56話 四人目の適格者(ラビは匹)

『セ、セリス!いきなり何をするんですの!?』

 唐突なツッコミに抗議の声を上げるマリア。

『お屋敷に向かったらマリア様が皆様をご案内してると聞いたので駆けつけたのです。

 何じっくり落とすコースなんか案内してるんですか』

 セリスさんが言うには3秒で食ってしまうには勿体ないお気に入りの男と行くコースなんだそうだ。

 まぁデートコースとしては真っ当だけどな、最後なんか宿屋っていうより連れ込み宿じゃねーか。

『皆様マリア様が失礼致しました、ここからはわたくしがご案内差し上げます』

 そう言って連れてきてくれたのは雑貨店だ。

 なんか道中セリスさんにジロジロ見られていた気がするのだが多分気のせいだろう。

「へー、いろんなものがあるんだな」

 店内を見回すと生活雑貨は勿論簡単な武器防具や野営道具なんかも置いてあるようだ。

 近接は無理だからとボウガンを作って貰ったけれどショートソードぐらいは持っていた方がいいのかもしれないな。

 ナイフはあるけど狩りの獲物のトドメとかにも使えそうだし。

 そんな事を店主の爺さんに伝えると良いものがあると奥から剣を出してきた。

 革製の鞘に入った剣は長さはサバイバルナイフの2倍ほどの長さしか無いがその分扱い易そうだ、さらに柄の尻の部分にネジが切ってある。

 鞘には脱着可能な四角い皮袋がついていてその中にはネジを切った何本かの短い棒とスコップの頭、エンドグリップにノコギリまで入っている。

 爺さんの言う通り組み合わせてみると高い枝を切れるノコギリやスコップ、さらに槍になるギミックがついていた。

 軍用スコップみたいなものを想像してもらうとわかりやすいかな?

 スコップで穴を掘り切った木で穴底の槍や穴隠しをして獲物が落ちたら槍でトドメ、いざと言うときは軽い近接にも使えると言うコンセプトらしい。

 スコップ部分には魔封石によって土魔法がかけてあり効果は低いが長期的に土が掘りやすくなっており普通の大きさのスコップより楽に掘れるとのこと、発動条件もスコップで土を掘った時なので消費もゆっくりだと言う事だ。

 何これ素敵!

 一本で落とし穴の罠からトドメまで計算されてる!

「いやー、良いものですねぇ」

 俺はそう言いながら後ろを向きマリアとカリンで内緒話をする。

「...すごく欲しいんだが値段的にどうなんだ?俺こっちの物価がよくわからないんだけど?」

『...銀貨5枚は安いと思いますわ、おそらく試作品か店主の趣味といったところでしょうか?それにあのスコップ、野営の時のお手洗い作成に凄く便利だと思いますわ』

 そうだ、穴掘り係は捕縛されたんだっけ。

 通訳しながらカリンもウンウン頷いている。

 それに魔封石だ!忘れてた!

「親父さんこれ貰うよ!ついでにこの魔封石売ってるおすすめのお店を教えてほしいんだけど」



 罠用短剣ショートソードを装備した俺は親父さんから聞いた店にセリスさんの案内で向かっていた。

 道中セリスさんの方を向くたびに目が合って逸らされる。

 なんだろう?何か気に触る事したっけ?

 しかし話してみたら普通に接してくれるし正直意味がわからない。

『ヨーイチ様』

 セリスさんが急に呼びかけてきた、この子の場合様付けは他人行儀ではなく礼儀としての物っぽい、カリンやメリルも様付けだからな、マリアの友人?扱いだからか?

『失礼ながら先ほどからヨーイチ様を観察させていただきました、マリア様に害意をお持ちでないどころか見る限りごく普通の大人に見えました』

 なんか視線を感じると思ったけどそんな事してたのか。

『しかし解せないのです、普通の大人の男ならマリア様にサクッと取って食われるはずなのですが貴方にはそれがない。

 なので失礼で無ければ塩の仕入れ、私も同行させていただけないでしょうか?』

 うーん、一人増えるとその分積める塩の量が減るけどマリアの暴走に対するツッコミ役は欲しいところだ。

 まぁ荷物厳選さえしてしまえばサス付きの方の幌馬車に乗ってもらうのは可能だろう。

「マリアのをしてくれるなら...是非とも」

 俺がそう言って笑うとセリスさんも若干悪い感じの笑みを返して来るのだった。

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