第46話 故意の中にある視覚は下心

 朝。

 目が覚めた俺は懐でスヤスヤ眠るラビにおはようのモフモフをする。

 ひとしきり撫でられたラビはノビをすると。

『おはよー』

 と言いながら幼児の姿になる。

 昨夜は男が騒ぐ事もなく平和な夜だったようだ。

 俺はコメを洗って火にかけるとジムニーに向かいカリンとメリルちゃんを起こし、男の元に向かう。

「昨夜は問題なかったみたいだな、ご苦労」

 そう言って男の口にカロリーの友をぶち込む。

 飲み込んだ男に水を飲ませサイトの外れに連れていくと相棒2号ヘイズに矢をセットしてから糸をほどく。

 困惑している男、俺は地面に30センチほどの丸を書き軍用スコップを渡し指令を出す。

「穴を掘れ、深さは肘までぐらいでいい」

 俺の自慢の逸品を貸し出しているのである、穴はすぐ掘り終わった。

「スコップを戻してそこに組んであるテントを被せろ」

 既に組んでおいた着替え用シェルターを被せさせてペグで固定させる。

「よし、寝ずの番ご苦労だった、その穴で用を足していいぞ、逃げ出したらわかってるよな?」

 そう言ってトイレットペーパーを渡す。

 このペーパーは埋めると土に帰る成分で出来ているちょっとお高い優れものだ、使い方を説明して用を足させ軽く土を被せさせる。

「よし、移動中は寝てていいぞ」

 男にカロリーの友をもう一本食わせ水を飲ませてから縛り直して幌馬車に放り込む。

 街で突き出す前に死なれても困るし夜の番をさせた対価として飯ぐらい食わせてやらなきゃな。

 そうこうしてる間に飯も炊けて蒸らしてる間にお湯を沸かした俺はインスタント味噌汁とコーンスープをいれおにぎりを作り始める。

 味付けはふりかけ、明太味と大正義のり玉だ。

 簡単な朝ごはんを作り終わった俺はジムニーに向かいドアを開ける。

「起きてる?大丈夫かい?」

 と、声をかけながら。


 ...


 目を覚ますとそこは箱の中、わたくしは驚いて飛び起きてしまいました。

 箱と言ってもガラス窓があり寝ていた場所はふかふかのクッションのような...椅子?でしょうか?

 横を見るとセリスがスヤスヤと眠っていますわ、私はセリスを揺り起こします。

「セリス、セリス起きて下さい」

 セリスはゆっくりと体を起こします。

「おはようございます...マリア様」

 おっとり寝ぼけているように見えますがこれがこの娘の素、私はいつも様付けしなくて良いと言っているのにマリア様と呼んでくれるのもこの娘らしいですわ。

 ガチャ!

 その瞬間箱に付いている扉が開き立派なを持ってそう...もとい!黒髪黒目の男性が声をかけてきましたの。

『起きてる?大丈夫かい?』

 男性の問いかけは頭の中に直接響いてきましたわ。

 不思議な男性は魅力的に見えますわね、私お腹の奥が疼いてまいりましたわ。

 男性の説明によるとこのお方は外国から来られて言葉がわからない為緑髪の少女が魔法で通訳しているとの事ですわ、そういえばあの男が攫ったのもこの少女でしたわね。

 困りましたわ、言葉が通じないという事は愛を囁く事ができないという事。

 ベッドにまでこのカリンという少女に同行していただかなければなりません。

 そうですわ!3人でイタせば良いのですわ!

「マリア様、お戻りください」

 セリスの声で我に帰った私は恥ずかしさに顔を紅く染めてしまいます、いけません、ついつい幸せな想像をしてしまいましたわ。


 ...


「そんなわけで俺たちは街へ向かいますのでお送りしますよ」

 一通りの説明を終えて準備してあったサンドイッチを食べてもらい食後の一服をしながら俺はそう言った。

 しかしなんだろうか?このマリアという娘と話しているとどこか違和感があるんだよな。

 恥ずかしがり屋なのか常に伏し目がちかと思えばちらりと見えるその目は爛々と輝いている。

 おっちょこちょいなのか食事中もスプーンを何度も落としてはテーブルの下にしゃがみ込み、戻ったときには顔を赤らめて息を荒くしている。

 どこか悪いのかそれとも頭を打った後遺症でもあるのだろうか?

【どっちかと言えば頭が悪いのよねぇ】

 ん?誰か何か言ったか?

 カリンやラビの魔法のような感じが微かにしたが気のせいだろうか?


 しかしシェルターの簡易トイレは思いつきにしてはいいアイデアだった。

 日を跨ぐ移動だとどうしても外で用を足す事になるのだがこの辺りは草で隠れるとはいえ木陰も無い場所、いつも恥ずかしかったのだと女性陣から絶賛された、まさに青天の霹靂!

 次からは野営場所を決めたらまずトイレから準備すると心に決めてサイトを撤収しトイレの穴も埋めて俺たちは街へと進むのだった。

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