第42話 大体おんなじ毎日

 トドメの一撃を入れてようやく動きを止めたピンクスパイダー。

 次の矢を装填したまま様子を見るがどうやら再度動き出す事はなさそうだ。

「モガガー!モガガガ!」

 ん?なんだ?この餅を詰まらせた新沼謙治©️長野 みたいな声は?

 振り向くと御者台に座った男性が顔じゅうを糸で巻かれてもがき苦しんでいる!

 ヤバイ窒息するぞ!?

 俺は腰につけているキャンプ用ナイフを抜くと御者台に飛び乗り口周りの糸にナイフを差し込む!

 硬っ!

 糸は思っているよりはるかに硬く安易と切断することが出来ない、仕方なく俺はギリギリとナイフを動かし数本の糸を切ると口を露出させる。

「ぷはっ!はぁ!はぁ!はぁ!...すぅー、はぁー...」

 呼吸を確保した所で一息ついたのか男の息が落ち着く。

 俺はその間にメリルちゃんを呼び声をかけてもらう事にする。

 見えない相手からいきなり魔法通訳が来て驚いて暴れでもされたら迷惑だからな。

 俺の発言(小声)をカリンがメリルちゃんと俺だけに伝えるように通訳し実際の発言はメリルちゃんにしてもらう感じだ。

「大丈夫ですか?」

 聞こえた少女の声に一瞬驚きながら。

『ええ、おかげさまで』

 と返してきた。

「糸が硬いので切るより解きます、少し待っていてくださいね」

 うん、異世界に来てすぐは丁寧に喋っててよかった、男女どっちでも使える喋りになってるに違いない。

『わかりました』

 という事で男性の両手と顔に絡んでいる糸を3人がかりで悪戦苦闘しながらほどく。

 ラビは一般幼児のフリしてもらうために見学だ。

『ふぅ、助かりました、本当にありがとうございます』

 糸の下から出てきたのはややイケメンの金髪優男だった。

 すでに俺が外国人なので魔法で通訳をしていると嘘だが説明はしてある、ラビには必要がなければ喋らないでね、とも。

「災難でしたね、何とか間に合って良かったです」

 解いた糸を巻き取りながら俺は言った。

 この細さでこの強度、なにかの素材に使えそうだ。

『ええ、おかげさまで命拾いしました』

 そう言いながら若干ソワソワしている男、トイレか?

 メリルちゃんは俺からナイフを借りるとピンクスパイダーを調べ始める、何してるんだろ?と見ているとペタペタと触った後ピンクスパイダーの死体にナイフを振り下ろす!

「え!?何してんのいきなり?」

 蜘蛛の死体なんて食いたくねーぞ!?いや美味いならどうだろうか?などと考えていると。

『魔石を回収してるんだよ、お兄ちゃん』

 カリンが説明してくれる。

 魔物を倒したら魔石を回収するのはセオリーらしく街で売ったり魔封石の材料にしたり出来るらしい。

『いやー、よく働く子ですね、それにこの子の通訳魔法も素晴らしい!まさかエルフの子孫を拐いにきてこんなに血の濃い子が手に入るとは!ってえっ!?』

 その声に俺が振り向くと男はカリンの手を取り馬車に飛び乗った!

 カリンを拐い走りだす幌馬車!

 助けてもらっといて誘拐とかマジかよ!

 俺はジムニーに駆け寄る!状況を察知したメリルちゃんが走ってくる間にバンパーのロックを外し荷馬車を切り離す。

「ラビ!通訳頼む!」

 俺はそう叫ぶとジムニーを急発進させる!燃費?知ったことか俺の大事な妹を拐うとは万死に値する!

 ご丁寧に轍を高速で走る幌馬車だが俺は岩にだけ気をつけて草の中を直線的に追う!

『ヨーイチ!こんな所走って大丈夫なの!?』

 メリルちゃんが心配して声をかけてくる、カリンがやってるのを見ていたラビの通訳も完璧だ。

「大丈夫!この車は四駆だぞ!」

 どっかで聞いた台詞だけどあのお父さんも事故はしてないからいけるさ!

 馬車に肉薄しつつ窓を開けて叫ぶ!

「カリン!今から馬車を止めるからどこかに掴まれ!」

 通訳が無ければ男に意味はわかるまい。

「二人とも耳塞いで。」

 そう言って俺は一気に加速!馬車の前に回り込むとハンドルの中央を思いっきり引っ叩く!

 ビーーーーーーーーーー!

 辺りに鳴り響くクラクションの音!

 良い馬なんだろう、高速で走っていた馬は驚いて急停止する!

 俺の注意で掴まっていたカリンが体を浮かす程の衝撃である、手綱しか握っていなかった男は見事な軌道でROCKET DIVEを決めたのだった。

 ...

「さて、どういう事か説明して貰おうか?」

 早速の有効利用、蜘蛛の糸で男を縛った俺は声をかける。

 頭から血を流していたので最低限の治療はしてやったが俺にはヒールの魔法とか無いからな、恨むなら神様を恨め。

 正直カリンを拐った時点で死んでも気にならないんだがそこは日本人、やれる事はやってしまうのだ。

『実は...病気の母親が居てお金が必要なんです...それでこの先の村で少女を拐えば高く売れると聞い』

 パーン!

 はいビンタ!

「あ?お前の事情なんて知らん」

 あらやだ!?柄悪い。

 まぁ普段から優しいとか言われる割に柄の悪い見かけしてるからなぁ俺、こういうときはそっち系全開でも良いんじゃ無いかな?

 後輩のバンド解散の花束買いに行った時出来上がりで「これで大丈夫ですか?」って聞かれたらから「大丈夫ですよ後輩だから文句言わせません」って答えた時の花屋の兄ちゃんの台詞聞く?


「お兄さん人殺してそうですもんね」

 だよ?


 おっと俺の黒歴史エピソードはここらへんにしておこう。

「で?お前は人攫いだって事でいいんだよな?」

 引っ叩かれてコクコクとうなづく男。

 あー、どうすっかなぁ?縛ったまま街に連れてって突き出すか、ネシンさんの話だと街には騎士様が詰めてるって話だし。

「ヨーイチ!」

 幌馬車を調べていたメリルちゃんが俺を呼ぶので周ってみると...中には少女が2人、急停車で頭を打ったのか目を回して転がっていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る