向こうの話 予告されて

「…つまり殺害予告をされたと?」


 頭を抑えるように倒れ込みかけたフレアさんのお父さんを、傍にいた執事が咄嗟に支えて防いだ。あの日フレアさんのお友達が体調不良で帰ってしまった日から数日、僕達はフレアさんのお父さんのお屋敷に止めてもらっています。元々世間に対しての婚姻発表は済ませている。後は結婚式だけで、それも大々的にやる予定だったから、その場所決めとかをするためにフレアさんの所にお邪魔させてもらっていた。フレアさんのお父さんにとっては幸せの絶頂にいたのに急にそんな話が来て動揺してしまったのだろう。


「はい、その通りです。僕とフレアさんが二人でお茶している時にいきなり現れたんです」


 あの時は本当にびっくりした。何か二人で良い感じになっている所にいきなり現れて死んでほしいと言ってくるのだから、思わず持っていたコップを落としてしまった。


フレアさんのお父さんは執事さんに支えられて再び立ち上がると僕の方を向いた。


「そうか、取り合えず調べてみるから紙を渡してくれ」


「え?」


「どうした?矢文で渡されたわけでは無いのか?」


「いえ、その…口頭です」


「?」


「面と向かって伝えられました」


「面と向かって?!馬鹿な、屋敷の警備は万全のはず一体どこから!」


 手紙か矢文予告されたと思っていたフレアさんのお父さんは動揺してを荒げてしまいます。


「そのことに関して私から報告が」


 そう言ってフレアさんの専属メイドのフローラさんが前に出ました。フローラさんは基本的にフレアさんを支える為に傍にいるから、さっきの場面にもいたからどんな状況だったのかを知っている。


「なんだ?」


「敵は突然現れて、去るときも突然姿が掻き消えるように消えました。」


 そう、相手は突然何の物音もなく背後に現れて、話が終わると霞のように消え去ったのだ。僕がこの世界に来てからそれなりに生活をしているが、転移魔法を使える人がいるなんて話は聞いたことが無い。


「そんな…いや、しかし、それなら警備が反応しなかったのは仕方ないのか?…透明になれる魔道具が開発されたのか?いや、それならわざわざ姿を見せる意味が分からない。確実に殺せる状況だったのにも関わらず、殺害予告のみをして帰ったと言うのか、一体どのような意味が」



「それともう一つ」


「今度はなんだ」


「これは敵の情報ですが、向こうの狙いはどうやらイサナ様のみのようです」


「どういうことだ?」


「フローラさん、それは僕が話します」


 そう言ってフローラさんに変わって話始める。


「僕が別の世界から転移したことは話しましたはずです。その時に神様から力を貰ったことも」


 実際にそのことを始めて話したのはフレアさんに告白した時に勢い余って話してしまった時だ。あの時はガチガチに緊張していたので、なんでこの話をしたのか今でもよくわからない。どちらにしてもこの話はその場にいたフレアさんとフレアさんのお父さんと使用人だけの話に…改めて考えると知っている人多いな。


「ああ、だがそれとどう関係があるのだ?」


「その現れた方曰く僕が神様の力を持っている事が原因だそうです」


 その人は言った『貴方が神の都合で転移せず、なおかつ神の力の一端を保有していなければこうして死んでほしいと懇願することもありませんでした。でも貴方は持っている神の力の一端をその体に、だからお願いします。死んでください』と


「無論、他の組織からの攻撃であるかの可能性もあります。イサナ様の商会は現在急成長している最中であり、これまでの経営は順風満帆です。それを妬み足を引っ張ろうとする他の商会の妨害工作である可能性は高いと思います」


「ああ、どちらにしてもそんな一方的な要求を受け入れるわけにはいかない。当然断ったのだろうな?」


「はい、もちろんです」


「そして、そのことを伝えたら先ほど話していた殺害予告をされたと」


「その通りです」


 その人は『わかりました。交渉は失敗したので私は帰ります。しかし、10日後イサナさん、貴方を再び殺しに行くと予告しておきます。まぁ、私ではなくて他の方達ですが』そう言って消えてしまった。


 10日、僕が拠点にしている町からフレアさんの町まで移動するのにそれくらいかかるから、全力で移動すれば半分で済むから、向こうで戦力を整えることが出来る。ただそれは向こうの話を馬鹿正直に信じた場合だ。もし僕が移動している最中に狙ってくるのだとしたら、この町から出るのは危険だと言える。元々一介の商会である僕にそれほどの戦力は持っていないので、出来るならフレアさんのお父さんに助けて欲しいところである。しかし、そんな図々しい真似は出来ないし、ここで戦いが起きたら少なからず町の人達に被害が出てしまう。


ここは二人のためにも俺がこの町を出て行った方が良い。


そう結論付け口を開こうとしたが


「イサナ君、君はここにいなさい」


僕が口にするよりも先にフレアさんのお父さんが別の事を言ってしまった。


「…いえ、狙われているのは僕です!ここは僕が出て行くべきで…」


「それは出来ない」


「君はフレアの婚約者だ。つまり、君は私の大事な息子であり家族であるということだ。死ぬと分かっていて見捨てる家族が何処にいる!」


「お義父さん…」


「それにフレアを悲しませるわけにはいかない。早くに母を亡くしてから沢山の苦労を掛けてしまった。だから、フレアの幸せだけは守るのが私の仕事でもある!」


ちょっと目が潤んできた。この人が父親になってよかったと心から思える。


だが、フレアは少し離れていなさい」


「どうしてですか、お父様!」


「ここは戦場になる幸い私の持っている敷地が広いから住民に被害が出る可能性は低いだろう。だが、ここは戦場になる。お前はこの屋敷から一時離れるんだ」


そう言うフレアさんのお父さんの言葉には有無を言わせぬ圧を感じる。拒否権はないとそう感じさせる凄みを感じます。


「嫌です!私もここにいます!」


でも、そんな圧に屈せずにフレアさんが言い切ります。


「フレア!」


「私はイサナ様の婚約者です!」


「妻は夫の隣がいるべき場所なんです!だから、ここに残ります。私もイサナ様を守ります!」


 …やばい、今シリアスな場面なのにフレアさんにもう一回惚れかけた。恰好いいし可愛いって反則だろ…レッドカード物ですよこんなの


 二人はしばらくにらみ合っていたがやがて観念したかのように、フレアさんのお父さんがため息をつきます。


「…わかった」


「では!」


「ただし、二人とも奥にいるんだ。戦いは私達に任せておけ、二人は出来る限り奥にいるんだ。いいな」


「はい、わかりました」


 そう言うと次にフレアさんは僕の方を向きました。


「任せてください。私がちゃんと守ります。これでもフローラから護身術は一通り学んでいるんですよ」


 そう言って胸の前でこぶしを握る彼女の目は自信にあふれているように見える。すっごい頼もしい

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