天井崩し

「回復アイテムがあるのは当たり前だろ」


 何故か余裕そうな笑顔を浮かべながら転移者が生えた腕を確かめるように動かしている。皮膚まで完全にそろった右腕は問題なく動くようででブンブン振り回している。


 薬物による再生は手間のかかる分、在庫の数まで魔力の消費を気にせずに使えるから能力による再生よりも厄介だ。消耗していても薬を使えば回復し何処からともなく取り出すから残りの薬の数も分からないのが難点だ。薬を取り出す暇を与えずに頭を真っ二つにするか、首を飛ばすかをして相手を即死させないと再生してしまうかもしれない。


「別に構わないキチンと殺すだけだ」


「やれるもんならやってみろ!殺せないだろうけどなぁ!」


 転移者がデザインの違う銃を取り出した。外見が何かどこかで見たことがある形をしている。あれは、某白い悪魔のロボットが持っているような形をしているな。その銃口から一筋の光が飛び出て私の横を過ぎていていき地面に当たると同時に爆発した。


「こいつは魔力を消費してぶっ放せる魔導式小型銃だ。外見はちょっと俺の趣味に合わせたが、威力は十分だな。この威力があれば、お前らを皆殺しに出来るからなぁ!!」


 そう言いながら銃を乱射してきた。弾速と言っていいのか分からないがビームの速度は速いが、持ち主の射撃能力が低くて、寧ろ避けるための回避行動をしたら当たりそうなほどひどい。あともう一つ言うことがあった。


「一人ほど忘れてないか?」


 転移者がその言葉で何かを思い出したかのように後ろを見るとナワニがハルバードを振り下ろしていた。現在三方向から攻めているからどうしても一方に集中すると他の二方向ががら空きになってしまうから、それを狙ってみたがうまくいった。やはり一人の敵と対峙する時は別の方向からバラバラに攻撃すると結構手ごたえを感じるな。


「しねやぁぁぁ!!」


 魔獣程度ならいともたやすく両断するハルバードの一撃が迫って来ていたが、転移者は虚空から一本刀を取り出して受け止める。


「軽いねぇ!!」


 軽口をたたきながらもう片方の手に持っている銃をナワニに向ける。銃口から光のような物が見えてきたがナワニはニカッと笑った。


「そらそうや、それを狙ったからな」


「は?」


「シャオラァ!!」


 ユッカが至近距離まで近づいて銃を放つが、直前に気が付いた転移者が腕でガードして銃弾を防ぐ。


「このチキン野郎!遠距離でぶっ放せば絶対当たったろ!何近距離で撃ってんや!何のための遠距離武器や!」


「仕方ないっスよ!あれだけ密着してたら。間違えてあんたに当たりそうっス!そこを気を付けていたからわざわざ近づいたんっスよ!」


 急に言い争いを始めながら転移者に攻撃を続ける二人を尻目に転移者に攻撃を続ける。この至近距離なら魔法が発動しきる前に攻撃できる。さらに隙を与えない物で物を取り出す隙も無くなる。三人がそれぞれ得物が使える距離まで近づけたので天丼の第一段階は完了、第二段階の準備が終わるまで、このままの状態を維持、もし第二段階の準備が完了する前に殺せたら殺す。


「さあ、殺しあおう」


 そう言ってなるべく準備に気が付かれないように転移者の目線を私達に向けさせる。ユッカの剣と銃を織り交ぜた攻撃の跡にナワニの一撃が転移者を襲う。ユッカに体勢を少し崩されて防御したナワニの一撃によって体が大きくのけぞり完全に体勢を崩された転移者を見てここだと思い接近した。そして力の限り振りぬこうとしたが、その時にあることに気が付く。魔法の効果が切れていたのだ。そのせいで魔法のブースト前提で動いていた動きが普段の動きより若干遅くなってしまった。


 そのせいで転移者が反応できてしまい直前で躱され代わりに転移者の蹴りをモロに食らってしまった。少し後ろに吹っ飛び体勢を整えて着地をする。完全に時間制限を失念していた私のミスだ。


少し悔やみながら立ち上がり転移者に向かって再び構える。その時だ


『隊長準備できました。離脱してください』


 セラの方の準備が完了したようで私に連絡が入る。


「了解した」


 セラの合図を聞いて最後のグレネードを転移者に投げる。今回持ってきたのはスタンが一個に普通のが一個、最後の一個は煙幕だ。グレネードはうまく転移者の足元に落ちて煙を撒き始めた。


「ユッカ、ナワニ準備完了だ!」


 その言葉を聞いて二人が全速力で離脱する。私も背を向けて全速力で離れる。背後から適当に撃ち始めたビームが私の横を掠めていくが気にせずナギに連絡する。


「ナギ全員離れた。撃て!」


『了解しました。全部隊に連絡、総員目標目掛けて撃ち方始め!繰り返す、撃ち方始め!』


 ナギの指示から数瞬四方から魔法やらロケット弾が転移者の真上あたりの天井に激突する。これが第二段階天井崩して転移者にぶつけるのが目的だ。シンプルだが効果的なのは確かであり、当たれば無傷では済まないだろう。だが、仮にも転移者を殺す部隊がある場所なので例えボロボロだったとしても、そう簡単に壊されるものではない。それに激しい爆発音が頭上ですれば誰だろうとやばいのは分かる。無論、転移者も何となく事態を理解して離れようと動く。


『転移者が動き始めました。魔法とバズーカ砲以外の武器を持っている人は転移者の足止めをしてください。ただ魔法部隊はこの後の仕事もあるのでセーブしてください』


 だが、私達もそうなることは理解している。天井崩しは火力が高い舞台に任せて私達が転移者を移動させないようにする。とは言っても近接持ちの私が行ったら離れた意味が無いので転移者はマシンガンやライフルを使っている部隊が担当する。


私達近接持ちは魔獣が遠距離部隊に行かないように駆除をする。耳を塞ぎたくなるようなおびただしい数の発砲音と爆発音がしばらく続いた頃。フロア全体が揺れて天井が崩れ始める。


『魔法部隊出番です。防御魔法展開我々に瓦礫が降りかからないように防御してください。その他は魔法部隊の範囲を狭める為に、近くにいる魔法使いの傍まで寄ってください』


 ナギの指示が飛び全員がそれぞれ移動し始めたのを見て転移者に向かう。誰も天井に向いている今がある意味一番危険な状態だ。砂煙立ち込める中天井に注意が向いている転移者の襟をつかんで中央に投げてすぐさま戻る。私が防御魔法の範囲内に入ったと同時に天井の瓦礫が崩れ落ちた。あたりに煙が立ち込めてしばらくは何も見えなかった。


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