拷問
あの渦は壁や天井を飲み込んでいると言っても少し削っている程度なので部屋の中に入ってしまえば届きませんし、壁や天井を削っている分お互いに向こう側見えないので避けられても見えないですね。
隊長の指示に従って部屋の中に避難すると渦が扉を削って通り過ぎて行きました。隊長は渦が通り過ぎるタイミングで手榴弾を投げ込みました。少しして爆音と共に爆炎が見えたのを確認してから再通路に出て銃を構えました。けれども、転移者が突っ込んできているが見えたので思わず下がろうとしましたが、間に合わずに持っていたWA2000が刀に両断されてしまいました。
悲しむ間もなく転移者が距離を詰めてくるので、WA2000の残骸を投げ捨てて腰のホルスターからグロック18cを抜くのと同時にトリガーを引いて牽制目的で数をばら撒いてみましたが、転移者は刀を振るって全ての銃弾を切り落として迫ってきています。接近戦に持ち込みたいようです。近接戦闘は多少心得がありますが、先ほどWA2000が両断されてしまったことから転移者の攻撃を防御するのは難しいですし、銃弾を全て切り落とした斬撃の速度を見る限り転移者からの攻撃を躱せる気がしないのでやはり距離を取るしかないようですね。そう結論付けて転移者から離れようと強く地面を蹴った時です。
「ハアァ!」
それを狙ったかのように私が離れた隙をついて隊長が背後から攻撃を繰り出しましたが、転生者はまるで分っていたかのように後ろを見ずに刀を片手でガードしました。
「そのステルスアタックは見えていたぜ!」
転移者は振り返って隊長と切りあいをしていました。隊長が両手で刀を持って対応しているのに転移者は片手で隊長の剣劇を裁いています。私は援護しようとグロックからXM8に持ち替えて狙いをつけようとしましたが、転移者がちょこまか動いて狙いが定まりません。下手に撃ってしまえば隊長にも当ててしまうのでいつもより慎重になってしまいます。すると、転移者が私の方に向かって再び接近し始めました。隊長は接近を阻止しようと追いかけますが、突然隊長の目の前の空間が爆発しました。
「隊長!」
思わず隊長に声をかけてしまいます。隊長は爆発で吹き飛ばされて地面に倒れているようでしたが生きているようで刀を突き立てて立ち上がろうとしていますが、防御も出来ずに直撃したので服が所々破けて血が出ています。しばらくは動けなさそうですね。
「よそ見するとは余裕じゃねぇか!なあ!」
ホッとしかけた時にその声で接近されているのを思い出しますが、その時にはすでに転移者が目と鼻の先にいました。咄嗟に下げていたライフルを構えて撃とうとしましたが、トリガーを引く指よりも先に転移者の刀がライフルを両断してしまいました。
切られたライフルを転移者に向かって投げて、再びグロックを抜いて構えますが、ライフルを薙ぎ払った勢いを利用した転移者の前蹴りがお腹に直撃して少し吹き飛んだ後に地面を転がります。止まったところで起き上がろうとしてグロックが無いことに気が付いて周りを見回します。WA2000もXM8も壊れてしまったのでグレネードを覗けばグロックが最後の武器になるのでなくすわけにはいきません。幸い転がった時に手放してしまっただけだったのですぐ近くに転がっているのを見つけたので手を伸ばして手に取りました。
そして、私の腕に転移者の刀が刺さりました。腕に刺さった瞬間を見ていましたが、余りに突然の事だったので一瞬何が起きたのか分かりませんでした。徐々に認識してくると同時に腕から赤い液体が流れて地面に広がって行き痛みが伝わってきます。
「―――――ッ!!!」
私は声にならない悲鳴を上げながらグロックを落としてしまい。咄嗟に刀を引き抜こうと手を伸ばしますが転移者の足に踏まれて動きを封じられました。
「なぁ、少し聞きたいことがあるんだが」
そんな声が聞こえますが、そんなのは無視してどうにか抜け出せないか腕を動かしたり足をばたつかせて、もがきます。
「…聞けよ」
そう言って転移者は足を一度どかした後に、代わり少し刃が長いナイフが私の腕を差して、さらに転移者がナイフを踏みつけたことによってナイフが地面に深く刺さって腕が固定されて動かせなくなりました。
「アアアァァ!!!」
私はさらに痛みが増えたことによってたまらず悲鳴を上げて抜け出そうと暴れますが腕が動かせない現状ではどんなに暴れても抜け出すことは出来ません。転移者はそんな私を見て面倒くさそうに頭を掻いて
「うるせぇよ!」
短くそう言って転移者は私の腹をけり上げました。宙に浮こうとする体とナイフと刀が刺さって固定されている腕が反発して一般人なら腕がちぎれそうですが、無駄に頑丈な私の場合はちぎれずに代わりに肉と骨が引っ張られてさらに痛みが増し、お腹を蹴られたことで空気が出て行き、衝撃で満足に空気を吸えずに必死に口を開けて酸素を取り込もうとしています。
「ねぇ聞きたいんだけど、ここからどうやって出るの?」
私の事などお構いなしに転移者はしゃがみ込んで聞いてきます。ここで話してしまえばこの転移者を運んできた人達の苦労が水の泡になってしまうので話しません。話したくありません。
「ハァ…し、知りませんよ」
転移者を睨みながらそう答えると転移者はため息とともに右手を私の背中に置いてこういいました。
「『ハーリー・ライトニング』」
すると、私の全身を電流が流れました。全身が痙攣するように動き、さらに腕がナイフに食い込んでいきます。もはや声を出すことも出来ず、魔法が解けた後は全身に力が入らないで頭を地面に付けました。生暖かい液体が私の頭を濡らしますが、もう頭を上げる力は残っていません。
「もう一度聞くぞ。出口は何処だ」
転移者が再び聞いてきますが、こたえる力も残っておらず意識もはっきりしません。腕も痛覚どころか感覚がありません。あぁ…私ここで死んじゃうのか。
その考えが浮かびましたが、それ以上考えることも隊長達に謝ることも出来ず私は意識を手放しました。
「『ヒール』」
手放したはずでした。気が付けば無くなっていた腕の感覚が伝わってきて痛みに私は目を覚まします。最後に見えた腕は所々煤けて炭化していたのに、服以外腕の傷は治っていて刺さっているナイフから再び痛みが伝わってきます。
「一体…何が…」
「ヒール、回復魔法だよ」
私の質問に答えるように転移者が私の正面に座って答えました。
「俺が神様から貰った能力は『魔法効果増大』初級魔法が消費魔力はそのままに威力だけが上がる優れものさ。おかげで初級のヒールが最上位のリザレクションヒールと同じ威力になっているのさ」
なら先ほどの電撃も初級魔法ってことですか。あの威力で初級なら最上位の魔法を放ったら私は…
そこまで考えると私は全身から血の気が引きました。命の危険とは違う、無限に続く苦しみへの恐怖。今までとは違う恐怖に私が出来ることはありません。唯一の道は洗いざらい喋ってしまうことですが、そんなことは絶対に出来ません。それに私がここで足止めすれば他の誰かが助けに来てくれるかもしれません。幸い隊長が全体に話していたのでもう少し我慢すれば、きっと
「さて、お前の質問に答えたから、次は俺の番だ。なに、死ぬ心配はしなくていい、答えるまでちゃんと直してやるよ」
そう言って転移者が手に電気を纏わせてスパークさせました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます