探して蹴る
「さて、次に行こうか」
締めた扉に外から鍵を閉めて次の部屋に歩いていきます。現在私達は三手に別れて別々の通路を進んで各部屋に円形の物体を投げ込んで回っています。
「…あの、隊長何を部屋に投げ込んでるんですか?」
「バルサンだ。簡単に言うと害虫を駆除する毒ガスを吐き出す便利な奴だ」
「毒ガスですか?転移者に効きそうにありませんが、大丈夫でしょうか」
私の勝手な想像ですが転移者って毒ぐらいだと死ななそうなイメージがあります。
「効かなくても他の意味があるからやっているんだ」
「他の意味ですか?」
「ああ、あれは少し特殊で周囲を赤く着色する油性の塗料を混ぜているんだ。相手は透明化できるようだから、それの無効化も含めている」
「そうなんですね、それと聞きたかったんですが、ここってどこなんですか?」
隊長に付いていってここまで来ましたけど、ここは行ったことの無い場所でした。左を見ても扉左を見ても扉しかありません。人気もあまりなくて何となく裏通りを想像します。
「ここは、何か理由があって使用されていない部隊の部屋が配置される場所だ」
「使用されない部隊の部屋なんてあるんですか?」
「ああ、私達の使っている部屋等は転移魔法を利用して任意の場所に配置できるようになっている。部隊が全滅したりして使われなくなった部屋は、新しい利用者が作られるまで削除されずにここに移動されるんだ。誰も使わないから隠れるには絶好の場所だ」
全滅…多分転移者や転生者の戦いで亡くなってしまった方達の部屋なんでしょう。ドラゴンのブレスや、転生者のダウンバーストなど神様の力を持った人たちがどれほど恐ろしい物なのかは分かっているつもりですが、いつ殺されてもおかしくない状況でした。こうして通路に均等に並べられている扉はその数だけ部隊が無くなってしまったということなんでしょう。私は寿命が設定されていないので戦って死ぬ以外に道がありませんが出来るなら死にたくないですね。それよりも、こんな隠れやすいところがあるのに、どうして皆さん調べないのでしょうか?
「なら、どうして他の皆さんはここを調べないんですか?」
「ここは歩いてきたとおりにかなり遠い場所に位置しているから面倒なんだ。それにバラバラで調べるよりも、近いところから調べて行った方が確実性がある。あとは指令部とか転移課とか想像課の倉庫みたいにいて欲しくない場所を優先して調べているんだ。それに引き換えると、ここに転移者がいても特に危険でもないから後回しにされているという訳だ」
確かに創造課からここまでそれなりに長い距離を歩きました。わざわざ遠いところよりも近い場所から潰していくのは理にかなっています。
「それで私達で調べるにしても部屋数が多いからバルサンを焚いて炙り出すという訳ですか」
「正解だ。もし、出ようとするなら外から鍵をかけているから無理やり出ようとするなら」
隊長がそこまで言うとバコーン!!と後ろから重い金属が吹き飛んだような音がしました。
「…こうして音でバレるという訳だ」
「じゃあ、今の音は」
「十中八九転移者だ!行くぞ」
「了解です!」
持っていたバルサンを投げ捨てて隊長が音の方に向かって駆けだしたので、私も持っていた赤い水を床に置いて頭にかけていたゴーグルと首にかけているマスクを上げて、背負っていたWA2000を持って隊長の後を追います。
音のした場所に近づくと段々と周囲の色が赤くなってきました。多分扉が無くなったのでバルサンが通路に出てこうなっているのでしょう。私達のゴーグルは塗料が付着しないような加工がされているので前が見えなくなるなんて、間抜けな事にはなりません。
「見ろ、アイビー」
そう言って隊長が指を差した先には壊れた扉と、私と同じ位の頭の無い赤いテルテル坊主のような物体がこちらに向かって走ってきました。
テルテル坊主は隊長に近づくと中から隊長と同じ刀を出して突いてきましたが、見え見えなので隊長はヒラリと躱してがら空きの横っ腹にケリを入れて吹き飛ばしました。
「ぐぅ!」
テルテル坊主はうめき声をあげて吹き飛んだので、そこを狙うようにして何発か撃つと相手は回避行動を全くしなかったので、布から見えていた足に銃弾がヒットしました。
「な、何で見えてんだ!」
そう言って布を取って中にいた人が出てきました。黒髪の紫色の瞳をした彼は何処からかピンクの液体が入った瓶を取り出して中身を口に含みました。すると、先ほどまで出血していた箇所の傷が銃弾を吐き出して見る見るうちに治って行きました。
「こちら753部隊、『墓地』にて逃げた転移者を発見、至急応援を求む」
転移者の質問には答えずに隊長は通信機を使って他の部隊と連絡を取っています。
…でも、どうしてここが墓地なのでしょうか?
「ッチ答えねえ。ノーヒントで戦闘か」
転移者は立ち上がって片手で刀を持って、その切っ先を隊長に向けています。通信を終えて隊長も刀を抜いて転移者に向けて構えます。
「ステルスゲーから格ゲーに変わったが問題ない。お前ら全員殺して帰らせてもらう!」
転移者は刀を持っている手とは反対の手を私達に向けました。
「『ワイルプールミキサー』」
転移者が魔法っぽい名前を言うと転移者の前に渦を巻いている水が現れて私達を飲み込もうと迫ってきました。止めようと何発か打ち込んでみますが、途中で勢いがなくなって渦に飲まれてすごい勢いで回り始めました。
「無駄、無駄ァ!!大人しく殺されろ!」
先ほどの焦っていた様子とは一変して、とても楽しそうな顔をしながら渦を前進させ始めました。渦は前進しながら壁や天井を少し削っていき、向こう側が見えなくなるほど汚くなりました。何か速度も上がってきていますね。
「隊長、もしアレに飲まれたら危ないですよね」
「ああ、なまじ一般人よりは頑丈に作られているから長く苦しむことになるな。それにあの渦が飲み込んだ瓦礫が当たって痛みが倍増するだろうな」
その内に段々と渦が迫ってきました。下がりたいところですが応援が来ていない現状転移者がまた見失うと大変なので駄目なんですよね。
「隊長何か策ないですか?ビームとか!」
「出せるが立ち止まらないといけないし、撃つまで時間がかかるから今は無理だな」
「そんなぁ…って出せるんですか!?ビーム!!」
「それよりもこっちだ」
隊長は一つの部屋を開けて中に入るようにジェスチャーをしました。
…なるほど
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