向こうの話 昔の知り合いに会う

「お邪魔しまーす」


 カランコロンとベルが鳴る扉を開けて店の中に入る。乱雑に置かれているように見えて実は整理されている棚を避けながら奥に進んでいく。ここは様々な道具の中古品が取り扱われている店だ。いつも使っているミルクとかを冷やす時に使っている道具が壊れて予備を使っているから、その補充に来たのだ。


 店の奥のカウンターには頭のてっぺんが寂しそうな店主のおっちゃんが、何か作業しながら座っている。



「こんにちは、いつもの奴ありますか?」


 カウンターを覗き込みながら聞く、今回買うものはこの店に来るたびに買っている物だから、いつもので通用する。


「…あるぞ、あっちだ」


 そう言って店主は店の奥の方を指差した。俺は店主に礼を述べて奥の方に向かって進んでいく。少し奥に入るとお目当ての道具が並んでいた。その内の一つを取るためにしゃがんで手に持ってみる。全部同じなように見えるが全てハンドメイドなため若干の性能差が出てしまう。それに中古品だからどうしてもだめな奴が混ざっている。それを見分けてなるべく長持ちして性能のいい奴を選びたいので、少し時間をかけて探していく。




 カランコロン


 しばらく道具を眺めていると誰か店に入ってきたようだが特に意識することもなく作業を続けていると次第に足音がこちらに近づいてきて俺のほぼ後ろで止まった。


「こんにちは、元勇者さん」


 その言葉に反応して振り返ると60過ぎの恰幅の良いおじいちゃんが立っていた。


「ノルズさん、お久しぶりです。それと何度も言っていますが、ここではイツカって名前にしているんでそちらでお願いします。少しヒヤリとするので」


「すみませんねぇ、しかし大丈夫ですよ。今この会話を聞いているのは、私達しかいませんから」


 この人は俺達が品物を降ろした商会…支店だけど、その商会がインペラー商会でこの人は会長、いわゆるお偉いさんだ。俺との関係は前に話した俺を囲おうとした商会に逃げる際に入ることにした商会がインペラー商会だったんだ。


「それで、普段王都の方にいるお偉いさんであるノズル会長が、どうしてこんな田舎町に?」


「いやねぇ、勇者君がこの町に行くって言ったから、ついでに君に会えるかな?と思ってね。ついてきたんだ。ほら、君勇者辞めてから一度も会わなかったからね」


 そう言えばそうだな。俺が勇者を辞めて再びノアの所に居候し始めてから、ずっとノアの家と町しか行っていない。


「そういえば、そうですね。今の生活が楽しくて、すっかり忘れていました」


「今の生活か…もう一度勇者になる気はないのかね?」


「ない」


 キッパリと言う。俺は別にお金持ちになりたいわけじゃない、少し余裕のあるお金とあの人達が幸せならそれでいいんだ。別に世界平和も世界侵略もする気が全くない。もし頼まれるようになったらその瞬間にバックレるつもりだ。


「そうか、それはそれでよかった。君との関係は今が一番いい。あの頃は確かに楽しかったがその分忙しくて死ぬんじゃないかと何回も思ったくらいだ」


 確かにあの時の関係よりも今の取引先としての関係の方が俺にとってもいい。


「それで、ノアの所で作った商品はどうなんだ?売れているのか?」


 正直な所少し不安な所である。俺は美味しいと思っているが、俺では多少の贔屓が入ってしまうから他の客では反応は当然違うだろう。無理やり買わせるほど俺も外道ではない。

もし、無理して買っているのなら少し可哀想な気がする。


「それについては心配しなくていい。いくら友人の頼みでも売れない物は売らない主義だ。君の商品は問題なく売れている。流石に上流階級には出ることは無いが、基本的に民間の間で少し高い食べ物として売られている。だから安心していい」


「そうか、それなら良かった」


 安心して少し笑みがこぼれた。


「さて、私はそろそろ行くとするよ。今夜は忙しくなりそうだからね」


「今夜?何かするんですか?」


「おや、聞いてないのかね?」


 ノズルは驚いたような顔をして俺を見る。しかし、ここ最近は特に買うものが無かったから納品したら寄らずにまっすぐ帰っていたから、聞いてないことがある。


「今夜は勇者の歓迎会と称してお祭りをするそうだよ。おかげで私も少し忙しいのさ。君も君の大切な人たちと楽しむのはどうだい」


 ほぼ毎日この町に通っているがそんなことがあるだなんて聞いてない。しかし良く聞けば勇者が来るのが判明したのが昨日の俺達が家に帰った後、そして町はその直後に急いで勇者の事を宣伝。結果近くの村から人が山のように押し寄せる結果になり、これを好機と見た町がついでにお祭りにしてお金を落としてもらおうと考えた結果らしい。俺は領地運営についてはあまり詳しくないが、町のお偉いさんたち死にかけてそう。本来お祭りを開催するのにもそれなりの準備期間とお金が必要なのにそれを一日でやろうとすれば絶対町の行政に関わっている人は地獄を見ることになるだろう。


 そして、それを利用するのがノズルさん率いるインペラー商会だ。足りない資材、物資、人員を供給させるのと同時に町からお金を巻き上げる気満々みたいだ。


「町を潰すようなことにはしないでくださいよ。俺らが困るから」


「心配しなくても潰しませんよ。それよりも気を付けてください。あなたも知っていますでしょうが、未だに勇者を恨んでいる組織があります。今のあなたではなく、あっちの勇者が狙われことになるでしょうが一応気を付けてください。たまにいますから、目標ばかり気にして周りの事を一切考えない輩が」


「教えてくれてありがとう。気を付けておくよ」


「そうしてください。では」


 そう言ってノズルが去った後、少し時間を空けてから目的の道具を買って店を出る。もし、インペラー商会の会長と知り合いだと知られてしまったらノアの家に居づらくなってしまう。それだけは絶対に避けたい。

その後に他の店でいくつか道具を買った後にノアを探しに市場に行く。


 流石に市場には人が多いので探すのが大変だが、買い物をする店は決まっているので、そこに行ってノアが来たかどうか聞いて行けばその内会える。ノアは自分では認めないが美人だから、一度目にすれば忘れることはないだろう。幾つかのお店を回っていくこと数十分、ノアを見つけることが出来た。問題はナンパなのか二人ぐらいの男がノアに声をかけていることだ。見かけない顔だから少なくともこの町の人間ではなく、勇者を見に来た他の村の人間だろう。とりあえず、ノアが迷惑そうな顔をしているからナンパするのはやめてもらおう


「ノアー!」


 なるべくフレンドリーにノアに駆けていくと、声に気が付いたノアがこちらに手を振ってきた。


「あ、イツカ。買い物は終わった?」


「ああ、ばっちりさ。で、この人たちは?」


 そう言ってノアを後ろに隠して二人組を睨む。


「あ?あんた何?彼氏?」


 ノアと話せなくなった男たちは露骨に不機嫌な話し方に変わった。


「はい、彼氏です。なので、ノアには手を出さないでもらえますか?」


 無論嘘だ。しかし、この人たちはこう言わないと引かない気がするので嘘を言う。


 すると予想通り男たちは舌打ちをして去って行きました。体格的には俺の方が少しがっちりしているので喧嘩になっても不利になるだろうと気が付いてくれたようです。なので、今の所は追撃とかはやめておこう

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る