終わって開錠する
「お、お疲れ様です…」
「ん、ありがと」
シアさんは特に表情を崩さずにサラリと受け答えをしました。
「あの、皮とか剥が無くていいんですか?」
細切れにしてしまってから聞いても意味が無いのは分かっていますけど、理由が知りたいので聞きます。あのネズミの皮は売ればそれなりな値段がするように見えたので燃やしてしまうのはもったいない気がしました。
「…ここで解剖したら他の魔獣を呼ぶ可能性がある。一旦外に出るとしても、あの巨体を持って運ぶのは無理がある。帰る途中に別の魔獣に襲われる可能性も0じゃない。分割したら安く買いたたかれるから労力に合わない。だから、持って行かないでここで燃やす」
サイズ的に無理だから諦めるということですか燃やすのは血の匂いで別の魔獣を呼び危険を避けるためなんですね。
「じゃ、私は向こうの扉の鍵を開けてくるから、二人はハルの介護をよろしくね」
ラアさんはそう言ってさっさと扉の方に歩いて行ってしまいました。
「どれくらいかかるのでしょう?」
「…分からない。ハルの様子を見たら一回聞きに行こう」
「わかりました」
私達が近づくとハルさんは俯いていた顔を上げました。
「終わったのか?」
青ざめた顔をしてげっそりと痩せたようにも見えます。
「…うん、あと君の苦手なアレも一緒に燃やしたから大丈夫。今はラアが例の扉の鍵を開けている所」
アレは吐瀉物の事ですね。直接言うとハルさんが想像してしまうからオブラートに包んだみたいです。
「そうか…ありがとう」
ハルさんは壁から離れてヨロヨロとおぼつかない足取りで歩き出してすぐシアさんが肩を支えました。
「すまない」
「…別に、アイビーさんはこれ持ってて」
シアさんはハルさんの剣と自身の杖を渡してきました。
「わかりました」
剣と杖を受け取って、両手でしっかりと剣と杖を抱えてハルさん達の後ろを歩きます。途中でネズミの方を見て少しの間黙祷しました。
ハルさんを扉の近くに座らせた後にポーチから水を取り出して渡した後に、ラアさんの作業を見始めました。
「…鍵開きそう?」
後ろから覗き込むように覗いているシアさんの質問に、ラアさんは作業の手を止めずに答えました。
「構造は簡単な方だけど、錆びてるから動きが悪くて時間がかかりそうね。少し待ってて絶対開けるから」
見た所を普通の鍵穴の様ですけど、確かに錆びているようです。錆びを取るにはお酢がいいとセラさんから聞いたことがあるんですけどそんな物持ってないですし、この世界にあるのか分かりませんから言わないでおきます。
「…わかった」
シアさんは頷いて立ち上がったあとに、私の方を見ました。
「…傷、見せて」
「え?」
「…怪我しているんでしょ?」
その言葉に私はドキリとしました。一応気づかれないようにしていたつもりでしたが、どうしてわかったのでしょうか?
「大丈夫ですよ。特に痛くないですし、私丈夫なので」
ここでとぼけても仕方ないので大丈夫な事を伝えます。少し痛いですけど動けなくなるほどでもありませんから
「…無理は意味がない。今は興奮していて痛みがないだけ、帰るときに倒れられても困るから手当させて」
「やっぱり、さっき吹っ飛んだ時ケガしてたの?」
作業の手を止めてラアさんが振り返ります。
「…でもハルは駄目だったしラアの矢と僕の魔法だと威力が足りなかったから、正直あれしかなったと思う」
シアさんが擁護してくれました。
「でもシアもさっき結構強い魔法を使っていたよね?」
ネズミが動けなくなった時にシアさんは威力の高い魔法を連発していました。あんな魔法を撃てるなら最初から撃って欲しい気がします。
「…確かにあれは威力が高いけど、その分使うのに時間がかかるし消費も大きいから終わりが見えない状況で使いたくないから」
なるほど、よく見ると息も荒いですし少し疲れているように見えます。
「でも、それならシアさんは休憩した方がいいのではないでしょうか?」
ここまで来るのにシアさんの魔法には結構助けられています。この先に進むにしても戻るにしてもシアさんは頼りになるので私よりもシアさんの方を大切にした方がいい気がします。
「…僕は肉体的には傷とかないから問題ない。でも君は怪我をしている。そのまま放置して悪化したら僕たちに迷惑をかけることになる。それはやめて欲しい」
「分かりました」
「…ん、なら後ろを向いて座って、ラア、医療道具借りるよ」
「え?シアさんがやるんですか?」
「…そう、大丈夫、僕は君に異性としての興味は全くないからふしだらな事はしないと約束する」
「え…」
それはそれとして傷つくんですけど…。これでも、一応美容とかをナギさんやセラさんに教えてもらっているので、肌には多少の自信があったんですけど、ああもハッキリ言われると結構傷つきます。
「アイビーさん気にしないで、シアの好みが違うってだけだから、アイビーちゃんは結構綺麗な方だと言えるわよ」
「ありがとうございます…」
ラアさんに慰めてもらってもショックは大きくいです。シアさんは気にしていないようにラアさんのポーチから包帯とかを取り出しました。私は黙ってシアさんに背を向けて座ります。
「…で?どこ痛いの?」
「…背中と右の脇腹です」
脇腹はネズミの頭突きを受けたから、背中は頭突きで吹っ飛んだ後に背中から壁に激突したからです。
「…わかった。服、めくるよ」
「はい、お好きにどうぞ」
そう言うとシアさんは遠慮なく上着を捲りました。
「…ん、確かに少し痣になってる。薬塗るから少しベタベタするよ」
後ろから何かを開ける音がした後に背中に何か塗られました。多分薬なんでしょう。しばらく背中全体に広がるように塗ってくれました。
「…後は包帯撒いて終わり。依頼が終わってギルドに戻ったら医療魔法かけてもらうといいかも」
そう言ってシアさんは包帯を巻き始めました。結構手馴れていますね。
「そうですね…でも、その前に下水道の匂いを落とさないとですよね」
流石にもう匂いを感じなくなってきていますが、単純に麻痺しているだけだと思うので下水道から出たら匂いをどうにか消さないと
「…それなら、後でラアに話せば解決する。っとこれで終わり。動きにくかったりする?」
ラアさんは道具を仕舞って立ち上がったので、私も立ち上がって少し体を伸ばしたりして見ます。
「そう…ですね。大丈夫です」
少し動きにくいですけど、包帯を巻いているので仕方ないですね。
「…ん。違和感が出たら、すぐに言ってね。皆に迷惑がかかる前に」
「り、了解です」
シアさんの威圧感がある言い方に少し気おされながら返事します。
「開いたー――!!」
シアさんの言葉で振り返ります。見るとラアさんの言う通り鍵が開いたようで扉が少し開いています。
「いよぉし!!じゃあ入るか!各自先に何があるから分からないから警戒しろ!」
休憩して完全復活したハルさんが立ち上がりました。それにしても少し元気すぎな気がします。
「今の所、これと言って物音はしないわ」
扉の隙間に耳を当ててラアさんが言いました。
「そうか!じゃあ、一気に行くぞ!」
ハルさんは扉に手をかけて勢いよく扉を開けました。
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