アイビー三度目の休暇
お見舞いに行く
朝起きて下に行くとナギさんがコーヒーを飲みながらくつろいでいました。
「おはようございます。ナギさん」
私が挨拶すると、ナギさんは顔を上げました。
「おはようございますアイビーさん。隊長からの伝言で、隊長が完治するまで仕事はありません。隊長が復帰するまでの間は休暇と同じような扱いだそうです。大体七日間程度ですね」
「え?!隊長は大丈夫なんですか?」
昨日帰った時から隊長がケガしてるのは知っていましたが、結局一回も会えなかったので詳しい話は分からなかったんですよね。今までは隊長がケガをしても翌日には普通に過ごしていたので七日間も治療がかかるということに少し不安になります
「ユッカさんからの話だと大事はないそうです。心配ならこの後、見舞いに行く予定なので一緒に行きますか?」
「いいんですか?」
「大丈夫です。それにアイビーさん能力課の場所知らないですよね?ついでに案内しますよ」
確かに私は能力課の場所を知りません。ナギさんのお誘いを断ったら能力課にたどり着くとこはなさそうですね。
「そうですね・・・お願いします」
「では、少し待っていてください。出かける準備をしておきますので」
残っていたコーヒーを飲み干して、ナギさんが立ち上がりました。
「わかりました」
ナギさんが準備のために上に行ったので、私は椅子に座って隊長から貰ったランキング本を読みながら大人しく待つことにします。少しして少し大きいリュックサックを背負ってセラさんが上から降りてきました。
「お待たせしました。では行きましょうか」
そう言ってナギさんが扉の方に歩いていきます。
「はい」
私は椅子から立ち上がってナギさんの後をついていきます
「そう言えば先ほど読んでいた本は何ですか?」
「これです」
「それは・・・ランキング本ですか」
「はい、隊長から貰って休暇の時に行く世界をこれで決めているんです」
「なるほど、因みに今回の休暇で行く世界はもう決めているんですか?」
「はい一応、これです」
そう言って本の1ページを開いて見せます。
「この本によると、化学が進歩している世界だそうで結構文明も進歩しているので美味しい物もあるんじゃないかと思いまして」
「へぇ・・・あ、この世界は」
ナギさんが私の開いたページを読んでいると少し険しい顔になりました。
「どうかしましたか?ナギさん」
「あ・・・そうですね言ってきましょう」
ナギさんは少し考えてから話だします。
「私の記憶に間違いが無ければ、その世界既に滅んでいるんですよ」
「え」
少し理解できませんでした。
「その世界は確かに化学が進歩しているので、ナノマシンを開発したのですが、バグによって異常増殖して星のほぼ全てをナノマシンに変換し現在はナノマシンが地表を覆い尽くしており生命体は存在していません」
「それは・・・どうにかならなかったのですか?」
「無理でした。今回の滅亡は転生者も転移者も関わっていないので私達の出番はありません。神もなるべく滅びないように手をまわしましたが、あの世界は神の存在を否定していたので警告夢は誰も信じず災害を起こして警告しようにも、行える範囲の災害は対処されてしまい、最終手段の神の声も幻聴だと一蹴して結果滅びました。すべての世界がそうではないのですが、誰も一歩道を踏み外せばこうなってしまうのですよ。そして踏み外したことに気が付かず、そのまま歩き続け気が付いた時にはもう手遅れになっている」
「それは・・・」
少し可哀想に私は感じます。
「その世界が滅ばない為にはどうすれば良かったのでしょうか?」
「正解などありませんよ」
「え?」
「結果から私達が歴史を見て間違っていると言っているだけで、その時は最善の選択をしていました。ナノマシン開発だって、誰もが治る医療を目指すために作られました。それだけ見れば正しいことですが、結果として世界は滅ぼす原因になっています。その時は最善の選択だとしても結果としては最悪の結末だったなんてよくあることです」
「で、でもそんなことになるには何か原因がありますよね?誰か悪い人に唆されたりしたんじゃないですか?」
「いや、悪い人間なんていませんよ。この世に悪はほとんど存在しません」
ナギさんは、さも当たり前のように答えます。
「私達が処理していている彼らも別に悪いことはしていません。行動を見れば国を発展し良いことをしています。私達から見れば悪い事であっても、向こうから見れば彼らの行為は人々に称賛されて支持されるにたる行動をしています。そうでなければ国王とか宮廷魔導士に何てなれません。少なくとも彼らは自身の正しい事のために動いて、人々はそれを肯定していました」
「そう・・・ですね」
彼らは私達からすれば悪なだけで向こうからすると、突然死んで生き返って異世界にいったらみんなが喜ぶ正しい事をしているだけなのに、知らない理由で殺されなくてはならないということなので向こうから考えると理不尽以外の何物でもないですね。
「だから私達はそんな彼らの幸せを踏み潰している事を覚えておいてください。今すぐではないですが、いつか必ず向かい合わなければならない時があります。その時にあなた自身が押し潰されない為に」
何か思いつめた顔をしながら切実に話すナギさんに、私はすぐに返事をすることが出来ませんでした。
「・・・」
「・・・暗い話をしてしまいましたね。この話はここまでにしましょう」
「・・・はい」
「でも、先ほどの話は忘れないでください。いつか必ずあなたに来る出来事なので」
「・・・わかりました」
ナギさんが少し笑いながら頷きました。
「さて、では急ぐとしますか。これから見舞いに行くのにそんな顔をしても隊長は困るだけなので何か別の話をするとしましょう。アイビーさんその世界はいけないので別の世界に行った方がいいのですけど他の候補はありますか?」
「他の候補は・・・」
まだ第一候補しか決めていなかったので思いつきません。今まで行っていたあの世界は問題を起こしてしまったのでしばらくは行かない方がいいと思います。とすると今の所まだ決まってないですね
「他の候補は決まってないですね・・・」
「そうですか・・・もしアイビーさんがよろしければ私の行く世界に来ませんか?」
「え?」
「もしですよ。他に行きたい世界が見つかればいいのですけど、今の所決まっていないのなら候補の一つとして考えて欲しいんです」
「そうですね・・・分かりました。いいですよ、行きましょう」
「いえ、まだ候補の一つでいいですよ。そのランキングには他の世界も載っているので、もう少し考えてからでいいですよ!」
ナギさんの提案に首を横に振りながら答えます
「それもそうですけど、せっかくナギさんが誘ってくれたので、それに乗っかることにします」
正直このランキング本から探すのは一苦労なので、誘ってくれたので助かりました
「・・・分かりました、では行く前に向こうの世界の一般着をいくつか渡しておきます。私のおさがりなので特に気にしないでください」
「それこそ気にしないでください。自分の分は自分で買いますよ」
「いえ、いくつか気に入って買ったんですけど着る機会がないまま時間が経ってしまっていたのでいい機会だと思います。もちろん穴が開いたりしてないですよ」
「・・・ありがとうございます。大切に使わせてもらいます」
そうナギさんに礼を言った後に一つ聞きたいことが思いきました。
「因みにナギさんの行く世界の特徴ってありますか?」
「そう・・・ですね・・・」
少し悩んだ後にナギさんは思いついたようで顔を上げて答えました。
「剣と魔法、それに魔王と勇者がいます」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます