回収して怒る

 しばらくの間彼女は腕をはがそうともがいていたが、少しするとだらりと腕を下げて全身の力が抜けていった。首から腕を離して横に寝かせてから、胸に手を当てて心臓が止まっていないかを確認する。少しわかりにくいが、規則的な振動が手に伝わってくる。次に口に手を当てて呼吸しているかを確認する。


 いくら何でも転生者でも転移者でもない人を殺すのはあまりしたくない。手に温かい空気を感じるからどうやら死んだりはしていないようだ。

さてと、立ち上がって周りを見る。あたりの建物はほとんど瓦礫に変わっていた。あの穴が、例の下水道に繋がっていなかったら危なかったな。繋がっているおかげで別の場所から出て不意打ちをかませることが出来て良かった。


 さて他のみんなの場所に行かないと。生存確認が出来たので手足を拘束して、口もロープを噛まして魔法を詠唱できないようにしてから飛行装置を起動して飛び上がろうとすると通信が入った。


『ユッカ聞こえるか?』


 声の主は隊長だった。


「そっちは終わったっスか?」


『ああ、無事ではないが処理は出来た』


「そうっスか」


『それでお願いがあるんだ。先の戦いで飛行装置が完全にいかれたので迎えに来て欲しいんだ』


「・・・また無茶したんスか?」


『・・・少しだけだ』


 向こうに聞こえるように、大きく深くため息をゆっくりする。


「前から言っているっスけど全部抱え込む必要はないんスよ。殺しに罪悪感を持っていることも、それを他の人になるべく背負わせないために動かして、背負う時もなるべく軽くしようとしていることも全部知っているっスから」


『わかっている』


 少し不貞腐れたように答える。絶対分かってないな。


「わかってない。お前はもう少し自分を大切にしろ、そうしないと完全に壊れるぞ」


『・・・』


 図星だったようで黙る。知っていても、もう少し叱る。


「あの時からお前はいつもそうだろ?一回完璧に壊れたのに、それでも人を信じる事を選んだ馬鹿野郎だ。そのせいで面倒くさい状態になっているのも知っているから、今の行動になっているんだろ?でもそれはお前が俺達に嫌いになってほしくないだけだ。そんなこと・・・」


『わかった。わかってるから止めて、お願いだから』


「・・・わかった。この話は終わりだ」


 涙声になった声を聞いて話すのをやめる。まだ言いたいことはあるが、これ以上攻めると駄目なことは分かっている。深く深呼吸して話を変える。


「それで場所は何処っスか?」


『・・・ん、クレーターの中の溶岩の上だ』


「それ大丈夫っスか?俺、隊長が親指立てながら溶岩に沈む所なんて見たくないっスよ」


『体が沈むほど深くはないし、今転生者の体を踏み台にしているから足が焦げることはない。ただ熱気がすごいからなるべく早く頼む』


 なるほど死体が溶岩に入っているのか、それなら隊長が転移できないのも納得できる。そのまま転移すると、死体にくっついている溶岩も転移に巻き込まれて持って行っちゃうから、一回引き上げないといけないんだ。


「なるほど了解っス。あと他の皆には俺から言っとくっスね」


『ありがとう、助かる』


「んじゃ、ちょーっと待っててくださいッス。すぐ行きますから」


 そう言って通信を切って飛行装置を起動して飛び上がる。クレーターに向かいながらインカムを操作して、隊長以外の全員に連絡を入れる。


「隊長からの連絡っス。転生者の駆除が終わったので、これからブツを持って隊長が戻るんで、隊長の転移が完了次第各自隙を見て転移して帰ってくるようにだそうっス」


『了解しました。隊長が戻ったら連絡してください。こちらは敵の人数は減っていますがまだ油断できないのでこれ以上人数は割けません』


「了解っス。俺も隊長の転移を確認したら、そっちに向かうっス」


「お願いします」


通信を切って隊長の所に向かう為に飛ぶ




クレーターの所まで飛ぶと下に黒い点が見えたので、そこ目掛けて降下する。少し下がると点が人影になり、もう少し行くと左手を振っているのが見えるようになった。


「こっちだユッカ」


「わかってるっスよ、隊長。それで、隊長に踏まれているそれが転移者っスね」


隊長の足元を見て言う。もはや髪はほとんど焼け落ちて皮膚も残っておらず服以外は炭の塊にしか見えない。


「そうだ。さて皆の所に行くとしよう」


「いや、隊長はそのまま向こうに行ってもらうっスよ」


「何故だ!?」


「その右手、気が付かないとでも?」


 その言葉にびくりと肩を震わして右手を隠す。


 もう一度ため息をしてシェフレラの方を見る。


「もう言わないでと、言われたんで強くは言いませんけど、そんな怪我で行っても皆に心配されるだけっスよ」


「そう・・・だな。すまない戻ることにする」


 素直にうなずいたのを見てホッとする。


「素直でよろしいっス。さて一回向こうまで持っていくっスよ」


「ああ、頼む」


 転生者の体に刺していた群将を抜いて背を向けながら屈んで左手で転生者の服を掴む


「じゃ、失礼するっス」


 隊長に近づいて後ろから腰に手をまわして少しずつ上に上がっていく。隊長の体が持ち上がっていき死体の服が持ち上がり少しずつ死体の残りが溶岩から出てくる。


「思ったより残ってるっスね」


 もう少しボロボロになっているか燃え尽きているかのどちらかだと思っていたが、結構身は残っている様だ。


「まぁ、元々の服の素材も良かったのだろうし微量だが魔法の加護の残り香みたいなものもあったのだろう。おかげで私も助かった」


 敵からしたら煽っているようしか聞こえないかもしれないが、それでも隊長を助けてくれていたことには感謝しておく、もし転生者が生きていたら絶対しないけどね。



隊長と死体の引き上げが終わってクレーターの端に着地する。


「ありがとうユッカ、ここからは大丈夫だから向こうに行ってくれ」


「そうはいかないっス。隊長の転移が終わるまで見ることにするっス」


「・・・」


 少し不貞腐れた顔をしながら隊長が合図の呪文を詠唱する。何事もなく詠唱が終わり転移が開始する


「あ、そうそう向こうに行った後に戻るのは無しっスよ」


「・・・分かっている。転生者の処理が終わったら大人しく治療に行く。後はナギとユッカに任せるから頼むぞ」


「安心して任せてっス」


 隊長は少し不安そうな顔をしながらも転移が終わって隊長の姿が消える。


「さて、今行くっスよ!」


 加速しながら他の皆の所に向かう

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